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バッドエンドを突き進む1(side.スーエレン)

「バッドエンドを突き進む1~4」は短編とほぼ同じです。

 どんなに生まれ変わったって、救いのないものは救いがない。


 前世……の事を思うと、その前か。前々世の私は一体何をやらかしたんだ? と思うくらいに、私という存在はとことん幸運と縁がない。


 前世はこの根暗な気質ゆえか、小中高とどこへいっても苛められ、ハブられて来た。


 就職して働きだしても、職場の人とのコミュニケーションは最低限。ほんと、私って生きてる意味ないよなぁと思いながら生きていた。


 そんな私の、唯一の楽しみが乙女ゲーム。

 あれはいい。すごく良い。リセットボタンはあるし、セーブ地点はあるし、何て言ったって、攻略キャラはヒロイン(自分)を好きになってくれる。


 そんなもの、ハマるしかないじゃない。


 そうして巡り巡って出会った一つの乙女ゲームが『騎士とドレスと花束と』、通称『騎士ドレ』。

 ストーリーはまぁ、ありがちな中世ヨーロッパ風のシンデレラストーリー。英国らしい王室のあれこれや外国との事件に、庶民派ヒロインが関わっていく中で四人の騎士と恋をしていくというもの。


 乙ゲープレイヤーとして、それはまぁ片手で足りない回数彼らと恋をした。


 そうやって自分を慰めながら生き続けて……結局最後、私はつまんない交通事故であっけなく死んだわけです。


 そうして生まれ変わった今現在、私はこのように生前のあれこれをふと思い出した訳ですが。


 ……現状、生前以上に、生きづらい。


 スーエレン・クラドック侯爵令嬢。

 騎士ドレの悪役令嬢とは私のことだ!


 思わず頭を抱えてしまった。

 そうだよ、ここ乙女ゲームの世界でしょう。

 その確定的証拠として、私の婚約者はエルバート・リッケンバッカー。騎士ドレの攻略対象者の一人に違いがなかった。


 ハハハ、私の目が死んでしまうのも許してほしい。

 だって騎士ドレの悪役令嬢、どのルートへ行っても処刑やら事故死やら……シナリオライターに慈悲はないのかこの悪魔張りに必ず死ぬ。


 私は自分の運命を悟った。


 前世だって事故死している。

 人間、死ぬときは死ぬんだ。


 だって騎士ドレのシナリオライターなんて呼ばれてたか知ってる!? 死に芸、バッドエンドの申し子、死ネタほいほい、慈悲のない出オチ神だよ!?


 無理、そんなシナリオライターによる世界観の世界で生き残るとかマジ無理。


 それなら、死んでしまうその時までのんびりと生きて、跡を濁さず散っていくしかあるまい。


 私はスーエレンが死んでしまうまでの余命を指折り数える。


 いーち。

 にーい。

 ……。


 おや、二本目の指が折れない。

 後一年だそうです。


 そっかぁ一年かぁ。

 あっはっはっ。


 ここでラノベあるあるなら、死にたくないとあれこれ画策するんだろうけど……私は、そんな事しない。


 だって、生きていくのはしんどい。

 今だって。


「スーエレン、貴女は素晴らしいわ。あの侯爵家のエルバート様との婚約。ふふ、ふふふ、これなら王族の……王子の目に留まるのも夢じゃない。貴女の美しさならきっと魅了できるわ。エルバート様との婚約を踏み台にして、王族へ取り入るのよ」

「……はい、お母様」


 お屋敷で、お母様とのティーパーティ。

 お茶を片手に、お母様は私に呪詛を吐いている。


 こんな時に思い出すなんて、私もつくづく間が悪い……。ほんとなんでこんな時に思い出すかなぁ。

 普通、こういう時のお決まりパターンって、病気になったり頭打ったりするもんじゃないの? 私普通にお母様にお茶に誘われて席についた瞬間に、ふと昨晩見た夢の内容を思い出すような感覚で前世を思い出してしまったよ。


 だからといってお母様にそんな事を言えるはずもないけれど。


 どうせ私は政治の駒としての価値しかない。浅ましい母の考えに、父が何も口を出さない事を思えば、きっと少なからず父も考えていることなのだろう。ゲーム通りなら、その父だって私の知らないところで犯罪を犯している。


 それにエルバート様だってヒロインへと靡いていく。

 もっと昔に記憶を思い出していたなら、何か変わっただろうけど……今の私にはもうどうしようもない。一年でできることなんてたかが知れてるんだから。


 前世ですら流されて生きていた私に積極性を求めてはいけない。むしろ失敗して私の死亡フラグが加速する可能性も否めない。

 まさに前門の虎、後門の狼って奴ですね!


 だから私は、今日もお母様のお人形になる。


 お人形になって、残りの余命を心穏やかに生きるんだ。

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