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seize  作者: カネミズ
8/21

7.

7

モヤモヤした気持ちを抱えながらもそれぞれのチームがあいさつをして解散していく。

他校のチームが解散していくと、梁田先輩の「集合!」という声が小体育館に響き、部員たちが栗田監督の周りに弧を描くように集合する。

「じゃあ、一時半から練習再開。それまでに練習用に台を移動してから昼休憩とること。はい、じゃあ、一時解散!」

解散と監督自身が言っておきながら監督も、台の移動と準備を進める。

 手元に持っている紙を気になるように梁田先輩がこちらを凝視してくる。

「監督に入部届渡されたのか?」

「まあ、はい」

「すごいなお前。監督直々にスカウトするなんてことないぞ」

褒められて素直に喜んでいいのか分からない。

「スカウトというより、強制されました。まあ、入りませんけど」

素直にそう答えておく。

「そうか~、強制か。まあ監督はああ言っているけど、ちゃんと自分の意見を尊重しろよ。君がやりたくなかったら無理に入部する必要はない。自分たちもやる気のない部員はいらないんだ。俺たちは一応全国を目指してるからな。」

「・・・・じゃあ、やっぱりこれ、お返しします。」

一度頭の中で思考したあと手元にあった入部届を梁田先輩に渡そうとするが、手首を掴まれ胸に押し当てられる。

「待て。でも一応これはもって帰ってくれ。」

「え、でも、自分、やる気ないと思いますよ。」

「仮にそうだとしても、見た通りうちの部員は少ない。少しでも希望を望んでもいいだろ」

と、午後からも練習がある卓球台を並べ替えていたり準備を行っている部員たちを見て自嘲の笑みを浮かべる梁田先輩。

「あの、結構このチーム強いですね、最初弱いと思ってました」

「だろ?人数とか見てだろ?」

そう、その通りだ。大会などで見る部員が少ない卓球チームですぐに弱いとわかるチームは、ほとんどの場合弱い可能性が高い。それは強い選手ばかり集まっていれば話は違うが、大抵はそうではないからだ。

「なんでです?」

「それは、まず監督と、泰成っ・・・・」

と、それ以上言わんとするように口を閉口する。

「いや、それはもし君が入部したら教えてあげるよ」

なんだよ。それくらいなら教えてくれたっていいじゃないか。そう思ったがここで憤怒する理由はないと思考を冷静にする。

「じゃあ、教えなくてもいいです」

「そうか、残念だな。ま、気が変わったら入部してくれ。いつでも待ってるからさ」

「・・・・・・はい」

そう静かに答えた。

「というより今日は悪かったな。あっ」

と言って梁田先輩のリュックと思われるものから、スポーツドリンクを取り出しこちらへキャッチするように「ほいっ」と言ってキャッチするよう促してくる。

スポーツドリンクは冷えており、自動販売機から買ったばかりだと分かった。

「それ、お礼だ。」

「ありがとうございます」

「じゃあな、俺たち休憩してから練習だから。気を付けて帰れよ」

そう言って部員が準備作業している方へ走り去っていく。



校庭にもつながってる渡り廊下で靴を履き替え、自転車置き場へともらったスポドリを飲みながら向かう。学校の駐車場には、練習試合に来た他のチームの迎えの車が出たり入ったりを繰り返している。中にはワゴン車で来ているチームもあった。

「お~~い、愛貴~~!」

そう手をふりながら近づいてきたのは、懐かしい面影をもっている姿だった。

「あれ?熊谷!」

久しぶりのその姿に自然と瞳孔が開く。

「なんで、愛貴が?」

熊谷は俺の肩を振るう。

「なんでって……」

何とかして何かを言おうと思ったが、今日の俺の立場をなんと説明すればいいのか分らない。

「部活に入ったの!」

その期待のセリフに返した言葉は冷たいものだった。

「入ってない」

「え?でも、練習試合に出てたじゃん」

見てたのかよ。なら話しかければいいだろう。

「いること気づいてんなら話しかければいいだろ」

「ごめん、何度も話しかけたいと思ったけど、うちの先輩、他のチームの部員と試合とか練習中に話していると怒ってくるからさ」

昔からたが、そういう先輩はいる。しかしその先輩が悪いと言っている訳ではない。

その先輩も、部員の士気があがったり、相手への妥協がなくなるなど、メリットだらけではある。

「そうだったのか。それはしょうがないよな」

「でも、やっぱり入部しなかったんだね」

熊谷はなぜ入部しないのかはなんとかくではあるが、うすうす気がついている。

だから、それ以上聞いてくることもなかったし、俺も聞き返さなかった。

それからも何分か話し続けた。するとだんだんと話の内容が過去に遡っていく。

「そういえば、あのおじさん元気かな。」

「あのおじさん?」

「うん、卓球場の。」

そう言われて、記憶が復元するかのように、じんわりとおじさんの顔が連想された。

「ああ、あの人か。名前なんだっけ?」

「うんん、名前は聞いてないけど、二人でこう言ってたじゃん」

「「形から入るおじさん」」

俺と熊谷の声が重なりあう。ふたりで軽く笑い合うタイミングも一緒だ。スポ少のときも、中学の時もよく練習していたのが熊谷だった。あまりにも一緒に練習しすぎてお互いの苦手な場所や、打ち合った時の感覚が体に染みついてるため、試合をしてもあまり面白くない。

「じゃあ、久しぶりに帰り一緒に卓球場に顔を出さないか?」

「え?・・・・ごめん愛貴、俺、チームのみんなと一緒に来てるからさ、1人だけ別に帰るわけにはいかないんだ」

ああ、そっか。俺と熊谷はもう違うチームなのか。

「ああ、そっか・・・」

「ごめんね、じゃあ。先輩俺のこと呼んでるからいくねっ」

そういうと、熊谷は「また、会おうねー」

と言いながら送迎車の方角へすてすてとかけていきながら去っていく。

朝はまだ半分ねぼけていたため、卓球場の存在を意識することはしなかった。



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