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「ねぇ、愛貴くんだよね。」
教室へ行くと愛貴の席の前に立ち、愛貴の机に片手をのせ、
「あぁ、うん。」
そこには身長が確実に俺よりも高く、座っている俺は首を大きく上に向けなければ、その人物の顔を見ることができなかった。いかにもスポーツが好きそうで、髪はスポーツ刈り、かっこよく、まぁまぁ、いや相当・・・イケメン。スポーツ好きなんだろうなコイツ。
「あれ?俺の事分かる?」
え?愛貴はそんなことを聞かれるとは思わなかった。どっかで見た気はするんだけど、こんなやつ大会であったけ?愛貴は卓球しかやってこなかったせいか、卓球以外の記憶や知識は常人より遥かに乏しい。えぇ~っとー。
「わりぃ、だれ?」
アハハハハハハハハハ。っとそのがたいもよく身長も高い男は腹を抱えて笑い出した。少し苛立つ。やっぱりおぼえてないか。また話を続け出す男子生徒。
「同じ中学なんだけど。覚えてないかなぁ。」
うん。俺がそう返答するとまた笑い出した。
「やっぱり貴衣が言った通り卓球以外なにもわからないって感じだな。」
なんなんだよこいつ。誰?てか、
「何の用だ。」
少し声を張り上げて言い張る。
「あー、ごめんごめん。俺さ、中学の時はバスケやってて、バスケでは結構有名なんだけどな。」
それを言われてもまだ気づかない愛貴はやっぱり鈍感である。
んんんんん。愛貴は腕を組み目をつぶり口を歪め考えるが、なんかさっきバスケがなんとかって貴衣が言ってた気がするんだけどな。何だったか思い出せない。
「俺、国安優希って言うんだ。よろしく?まぁいいや、よろしく!」
手をこちらに向けて握手を求めてくる。
あぁ、うん、よろしく。少し嫌がりながらも、しぶしぶ握手する。
あ、思い出した。愛貴はやっと貴衣との会話を思い出す。
「卓球部のキャプテンだったよね確か。」
「まぁ、そうだけど。」
「なら、卓球、高校でも続けるよね。」
そう国安が言い切る前に、教室に担任の近先生が入ってくる。
国安は先生を見て、顔を朱色に染め、かわいいなぁ~といやらしい声をあげる。
「はい、みんな~席について~。」
先生はいかにもおしゃれさを表しているような容姿に、そして若く英語教師だ。若いというのは高校一年生にとっては思春期のド直球にど真ん中を打ち抜く。
「目の保養・・・」
国安はボソッと言う。この高校の先生たちは決して若い先生がいないわけではないのだが、その中でも近先生は昨日の入学式の先生の紹介で見た限り、若くそして綺麗だ。思春期はどうしてもどんな女性に対しても、色目で見てしまうのだろう。
もう一人男の教員で若くスポーツ刈りの先生がいたが、どんな顔をしていたか覚えていない。
その後の授業は、授業担当の先生は教室に来るものの授業はやらず、レクリエーションや生徒が名前や趣味を答えていく。以外にこれが辛いのは津々浦々、全国の学生の悩みではないだろうか。
昼休みも来たが、放課後も案の定国安は俺に同じセリフを並べてきた。
「ねぇ、卓球やろうよ~」
しつこいなぁ~こいつ。なんなんだよ。もう国安は泣き目にながら言ってくる。
「やらないって言ってるだろ。」
「愛貴やろうよ!」
「だから、やらないって。」
「やろう!」
「やらない」
「やろう!」
「やらない!」
「やらない!」
「やろう!・・・つぁー。お前なんなんだよ。やりたきゃ一人でやればいいだろ。俺を誘う意味が分からん。」そして、愛貴は顔を横に向け、背中を国安に向けたが、今度はリュックをつかまれ、後ろの方へ引っ張られる。グッ。
「ヤメろって!」
「頼むよ!一緒に入部届出しに行こうよ!」
肩をつかまれグラングラン揺らされる。
「卓球なんて、部活なんてやっても無駄なんだよっ。気付けよ。進学か就職のために俺は勉強するって決めた。それに・・・」
愛貴は何か自分の壊したくないものを失いそうで、それ以上は批判することは言わないことにした。というより言えなかった。
頼む!この通り!両手を拝むようにお願いしてくる。
「一度でいいからさ、体験入部してみようぜ。お願いだから!」
「でも、ここの卓球部、やる気ないぞ。お前バスケ強かったんだろ。だったらバスケ部入れよ。なんでいまさら卓球なんだよ。」
「なんでって。卓球面白そうにやってたじゃん。中学の頃、俺うらやしくってさ。なんで、あんなに楽しくできるんだろうって。」
「楽しそう?」
自嘲めいた笑顔を浮かべる愛貴。おかしくて笑いそうになる。部活に熱くなる人の気がしれん。
「あれは楽しいってか、全国行くために頑張ってたつーか。でも結局全国いけなかったし。」
¦¦¦¦¦¦ じゃあ、高校で全国目指そう! ¦¦¦¦¦¦¦¦¦
優希の返答が胸の中を一直線に突き刺した。でもやれない理由は断固としてある。
「でも、やらない。俺は絶対やらないからな。」
そう言って国安の手を肩から振りほどくように身を振るった。
家に帰ると、玄関先で仕事から帰ってきた兄と会った。
おぉ。兄は耳にイヤホンをしながらスーツ姿でそう返事をした。兄はこれでも公務員として市役所で働いている。兄も小中高と卓球をやっていたが、高校三年生で引退してからは、部屋にこもりゲームか友達と遊びに行くという生活を送っている。まぁ、これが大人になるってことなんだなって思う。
部屋に戻り、何度か小学校の時貰った大会のトロフィーやメダル、中学校の時使ったシューズやラケットも押し入れにしまって、卓球一色だったあの部屋も、今では、娯楽物や漫画、ゲームなどが散らかっている。リュックを机の上に載せて、ベットに大の字になって仰向きになる。時計の針の刻む音、兄のゲームの狙撃音、ベットのぎぃぎぃという音、外の夕日の光が薄く愛貴の部屋を照らす。
「くっそ。」
おでこに手を当て、天井をじっと睨みつけ、完全に体も錆びている感覚がする。
卓球をやめて半年以上。今頃やってもなぁ。その日考えて結果はでた。
やらない。
それだけで部活に入る理由はなくなった。




