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seize  作者: カネミズ
2/21

1.

1

秋田県立平鹿高等学校。中学最後の夏から半年以上が経過してしまっている。

愛貴はあれから一度もラケットを握らず、高校受験も無事合格して、全国に行くという夢はやめ、学業に専念。着慣れない制服を身にまとい、家から一番近い醍醐駅から、二つ離れた横手駅に行き、そこからバスor自転車で平鹿高等学校まで来ている。高校のすぐ後ろは山の美しい自然が広がっていて何とも言い難い田舎の美しさというのを感じることができる。桜は芽吹きかけ、まだ少し、溶けかかった雪がちらほら見受けられる。山に囲まれた横手市。盆地で視線をどこにやっても山が惜しむくらい眼球にその風景は映る。

どこか浮かない顔をする愛貴。バスに揺られ、目的地の平鹿高校へ向かう。どんどん高校の全貌が見え、コンクリート張りの立派な校舎はまるで四角い箱のようにも見えなくはない。

バスは学校の少し前で止まり二百メートルほど歩くことになる。愛貴は先に降りた生徒をどんどんと越していき学校へ向かう。学校の前にはコンクリートの柱が玄関の通路を辿らせるかのように幾つもそびえている。その柱のうちの一つに、新しく買ったスマホをいじくり顔を歪めながら、指でチョンチョンと画面を触っている。見慣れた女子生徒が柱に寄りかかっていた。

気付かれたくない愛貴は柱とは反対の校舎側を早歩きで、その女子生徒に気付かれないように足早に歩いていく。

「あ!」愛貴に気付いた女子生徒。

そう言って、スマホを肩かけのスクールバックの横のポケットに急いでスマホをしまう。おもむろに走ってくるその女子生徒のローファーの地面を蹴りあてる音からもう逃げられない。

歩くのをやめて睨みをきかせながら、首を後ろに向ける。が、

ガラガラシュー足元にスマホが滑ってきて、真後ろで声にならない声が響く。

 はっぁぁぁっ!

今度は怪訝そうな顔でその女子生徒を見る。そっとスマホを持ち上げ、女子生徒に渡す。

「ありがと、愛貴。ちゃんとチャック閉めおけばよかった。テヘ」口端を少し上げる。

「・・・・・・・・」何も言わず、歩き出す愛貴。

「ねぇ!待ってよ。一緒に行こ?」

「なんでだよ。つか、校門前で待つなよな。」

「えぇー、だって同じクラスだし、いいじゃん」

めんどくせー。横についてくる少し高校一年生女子にしては身長が高い幼馴染。鈴木貴衣。

小学校の時からバスケクラブに入っており、中学校の時は主将として全県ベスト8まで行かせるチームまで育て上げた実力もある。あの頃のショートでぱっつんだったスポーツマン全開の髪型も今は相当伸びてセミロングほどになっている。

二人は並んで玄関まで足を進める。中学の時までは、愛貴も貴衣も自転車で学校へ通うのが決まり事だった。それも中学までと思っていたが、結局また同じ学校へ来ることになった為、この決まりごとは続くのだろう。家も近所だし。

「昨日はびっくりしたよね。」

髪をとかし、整えながら、貴衣は話題を言いかけてくる。

「なにが」

「え?入学式だよ。びっくりしたよね。」

「だから、なにが。」

「わからないの。国安優希くんだよ。」

「だれ。」

本当に愛貴は鈍感だ。卓球一筋で生きてきた愛貴は周りの人がどう思っているのか、どう感じているのか、どういう人がいるかなんて今まで気にしたことがなかった。卓球で全国いけたらいい。そう思ってずっとやってきた。

「だめだこりゃ・・・バスケ部!中学校の時いたでしょ~。県内選抜に選ばれてさ、強い能代工業とか平成高校に行くと思ってたのに。」

え?誰?、みたいな顔をまた浮かべると、貴衣は呆れ顔でまた言ってくる。

「どんだけ、卓球バカだったのよ・・・・」

愛貴の顔を下から窺うように見てくる。

「あ、そういえば弦矢くんもだったね。」

貴衣は高校の略称された名前で言った。平鹿高等学校は通称平高と言われている。

「相変わらず無口で返事しなかったの笑ったー。」

貴衣は口を片手で隠しながら笑っている。なにか貴衣はすこし成長している気がした。俺はなんにも成長してない気がする。

弦矢の話が出て、愛貴は肩がびくっとすくむ。昨日の入学式で弦矢は名前を点呼された後、立ち上がり、なぜかペコッとお辞儀をして返事をせずに座った。一瞬愛貴だけが聞き取れなかったのかと思ったけれど、新入生の動揺ぶりや在校生のざわめきでそれは確定されるものとなった。

「あぁ、あれな。そうだよ、あいつはそういうやつだから。」

なんでこの高校に来るんだよ。おかしい、俺とは一緒の学校になんか来たくはなかったはずなのに。まぁ卓球部には入らないし、

「まぁいいか。」

「ん?なにがいいの?」

「・・・・・・・・」

返答するのは面倒ではなかったけど、幼馴染ならではの関係だから、なんにも返答しなくていいだろうと思ったから返答しなかった。

「ねぇ、聞いてる~」

貴衣が言ってきたが愛貴はどこ吹く風で靴棚から上靴を取りだし、履いてきたスニーカーをしまった。なんとなく新しい上履きを見るといつもは上履きを高い位置から離し、床に転がらせ、転がって横になってしまっている上履きを足で正常の位置に戻し履く。というのが中学校の時の癖というというのか?やっていたが、新しい上履きを見ると粗末にしたくはなくなった。だから普通に床に置いて履き始める。気持ちを改めて頑張ろうという表れでもあった。

貴衣は他の女子に掴まってしまい玄関先で別れることになった。

平鹿高等学校の玄関には大きく学校の校訓「自律共生」の文字の上に、これまた大きく平鹿高校の校章が額縁に入ってかざってある。少し埃がかかっているのを見ると、生徒も先生たちも気にしていない、目にとめていないというのが良くわかる。

 玄関では平鹿高校が愛貴がもといた中学からそんなに遠くないせいもあってか、一緒にバスに乗ってきた生徒をはじめ、在校生の先輩たちもチラホラ中学校で見かけたことのある先輩たちが見うけられた。なんだかんだ高校と中学校はあんまり変わらないんだな。そんな周りの環境だけで愛貴は高校という場所を判断してしまった。

 玄関の校訓を横切り、階段を上ると踊り場には部活の勧誘の張り紙がいたるところに貼ってあり、なんとなく「卓球部募集!」という張り紙を無意識で探してしまう。

でも、卓球部という張り紙はその踊り場にはなく、次の二階から三階にかけてある踊り場の張り紙も目を鋭くして探しては見たが、張り紙はなかった。

まぁ、もともと卓球で名をあげるような高校じゃないし部員もやる気ないんだろう。探すのを諦めた愛貴は階段を上り始める。

一年棟は三階にあり、二年生になると二階、三年生になると一階となっている。

中学校の時は屋上はあったがこの学校には屋上は無くなんだか寂しい。でも鳥海の間という、田んぼ景色を見渡せる展望スペースが三階だけに設けられていて、そこからは名前の通り鳥海山が見渡せる。今日は運よく、雲一つない日本晴れ。鳥海山の頂上だけが白がかっていて、まるで富士山みたいだ。高校初日にしてはいい出だしではないか。

 



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