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機械仕掛けのフェーニクス  作者: 永崎カナエ
1章.第3壁外地区コメルシア
3/11

第3地区コメルシア、到着前

 ーーーおいで、ーーー。ほら、これが花だよ。見たがってただろう?……え、赤い花?うーん、ここにはないかもしれないなぁ。それはまた、今度探してこよう。今日はこれで我慢してくれ。


 ーーーどうして、赤い花がいいんだい?ーーーあの子と、同じ色だから?あはは、そうか。いやぁ、怒るなよ、笑ってごめん。君らしいと思っただけだよ。


 ーーーほら、ーーー。あの子が呼んでるよ。行ってあげるといい。そうだ、赤い花を見つけるまで、ここに花があることは秘密にしておこう。そうして、赤い花が見つかったら、一緒にここで花を見よう。それまでに、ここを花畑にしてみせよう。


 ーーー約束だよ、ーーー。誰にも、内緒だ。


※※※


 懐かしい声が、光景が、あの人の顔が、遠ざかっていく。あのあとあの人は、約束を半ばまで叶えた。確かにボクは、花畑を見た。視界一面に広がる様々な色を持った、宝石のような花達。でもそこに、赤色はなかった。


 ぼんやりと目を開けて、でも今度はそこに、テラくんの姿はなかった。

 辺りは薄暗く、陽のために暖かかった空気も、今では身を切るような寒さを荒地に振りまいていた。


「……おはよう、アルティ。まだ出発の時間まで3時間ほどある。寝ていても大丈夫だ」


 テラくんの姿が見えなかったのは、どうやら偵察に行っていたかららしかった。索敵装置も作動させていたようだけど、この辺りは見たところ岩場も多く、索敵装置の有効範囲外になる場所が多いから念のために出て行ったのだろう。

 予定通りの2日を過ごし(ボクに考慮して(?)若干遅めに進んだと言っていた)、3日目の今日、正午には、コメルシアに着くらしい。

 正式名称は、第5壁都市デストルク第3地区コメルシア。略称はコメルシア。

 コメルシアは、支店の置いてある地区の名前らしい。都市、とまではいかないが、商人ギルドが置いてあるため、それなりに栄えている。


「むしろ、ねすぎたくらいだから……このまま起きるよ。夜明けも、もうすぐだよね?」

「あぁ。あと1時間もせずに陽が昇る」

「じゃあ、陽が昇り次第出発しよう。その方が早く着くだろうし、テラくんの負担も軽減できる」


 そうだね、と後ろを向いて答えるテラくんの顔は見えなかった。見えたとしても、テラくんは無表情のままだろう。

 昨日もそうだったけど、語るのはボクばかりで、テラくんは自分のことをあまり話そうとはしなかった。いや、記憶喪失らしいので、語れることが少ないだけかもしれない。

 あと、テラくんが作ってくれる料理はすごく美味しい。

 固形型携行食料や干し肉をあんなに美味しく感じたのは初めてだった。荒んだ食事をしてきたせいか、余計にそう感じている。

 それだけで旅へと連れて行きたくなったけど、そんな図々しいお願いをするわけにはいかなかった。それに目的地は同じでも、テラくんとボクとでは危険度が違う。

 テラくんを危険に晒さないためにも、別れは必要不可欠なものだった。

 さらば、美味しいご飯。


「そう言えば、アルティ。君の目的地を聞いていなかった。君は、燃料の補給を済ませたら、どこへ向かうんだい」

「……身寄りがなくなったから、働き口を探しているんだ。第5地区ブリジャルは、貧しい田舎地区だからね。長子でもなければ、簡単に職は得られない。だからとりあえず、もっと都市寄りの場所に行こうと思って」


 第5地区ブリジャルはそう言う場所だと聞いている。ただ、ボクはそこに住んだことがないだけだ。あの人が、生まれ育った場所だというだけ。

 テラくんに出されたスープを食べながら、あの人に言われたことを思い出していると、涙が出そうになってきたので、慌てて首を振った。


「ーーーテラくんは、ご飯食べないの?」


 昨日もテラくんはボクに食べさせるばかりだった。気づかれていないとでも思っているのか、その間もボクをじっと観察していた。


「僕の身体はほとんどが機械化しているから、一週間に一度休息とともに補給すれば問題ない」

「そうなんだ。そう考えると、人間兵器(アルマーナ)は人より機械に近いなぁ」

「そうだね。ーーーブリジャルからあの場所まで、あの走行補助装置で来たのかい。見たことのない形をしていた」

「うん。あれは捨ててあった部品で作ったんだ。少ない燃料でより遠くへ行けるように改造したんだよ」

「すごいな……。通常の走行補助装置なら、ブリジャルからあの場所までの距離は、燃料を5回は補給しなければならない。あれなら、2回の補給で済むと見ているのだが」

「うん。質の良いものならそれぐらいで足りるよ。闇市に流れているようなものだと若干性能は落ちるけどね。ちなみに、自信作だったりする」


 子供のように胸を張るボクを、真面目に賞賛するテラくん。昨日もそうだけど、テラくんはやたらとボクを褒めるので気分がいい。

 機械を通常の性能からより良く改造することは得意だった。一目見れば、その構造を全て理解し、弱点を突くこともできる。正直テラくんも解剖してみたい。

 これは、テラくんがボクをどうにかしようとした時の最終手段として隠しておこう。


「その改良の腕を活かせる働き口を探すのかい」

「んー……そうなるね。まぁそんなに簡単には見つからないだろうけど」


 探す気も、ないのだけど


「それなら、もしもの時は僕の知り合いを頼るといい。僕も診てもらったことのある、信用に値する人物だ」

「へぇ……」


 新型であるはずの人間兵器(アルマーナ)を診れる人間には、確かに興味がある。トラスベーラと比べれば田舎も同然のデストルクに、いるはずもない優秀な人材。もしかしたら、トラスベーラとなんらかの関わりがあるのかもしれない。会ってみる価値は、十分にある。

 そんなことを考えていると薄っすらと、朝日が地平線に顔を出し、空と大地を照らしていく。

 照らされた大地に見えるのは、血に汚れた岩と砂、ナニカの骨と機械の残骸。

 空に青色は見えず、鈍色の雲が僅かに射した日の光を掻き消していく。光を拝めた日にはいいことが起こるらしいので、これからの道に希望が持てる気がした。

 それから数時間後、コメルシア上空に黒煙が見えるまで、ボクはそんな希望を抱いていた。

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