ghost85『僕達はダーク・バランス㉓』
彼が殺人を始めたのは、
ありきたりな理由からだった。
虐待だったか体罰だったかいじめだったか、
そのありきたりな理由は忘れたが、
とにかく、彼という物語は、
両親と教師といじめっ子を殺した所から始まる。
まだ小学三年生の時だった。
殺人開始当時から自己完結だった彼は、
「何故人を殺したんだ?」
という警察の質問にこう答えた。
「あの人達は殺しちゃダメだったんですか?」
「僕を傷だらけの体にしたのに?」
「僕を殴ったり蹴ったりしたのに?」
「僕にトイレの水を飲ませたのに?」
「僕はみんなに相談したのに?」
「殺しちゃダメだったんですか…?」
警察はこう答えた。ダメだった。
どんな人間にも人権があるからダメだった。
彼はこう反論した。
「僕は殺されない権利を捨ててました」
「殺される覚悟だったんです」
「最後に抗おうと思っていました」
「殺せたのはたまたまだったんです」
「それでもフェアじゃないんですか…?」
【ああ言えばこういう】
という言葉で済ませられれば良かったが、
あいにく1人だけ正義感の強い警官がいて、
そのオッさんは、
なんとか林道栄徹を更生させようとした。
でも彼はこう言った。
「こんな僕をずっと構ってくれて…」
「ありがとうございます」
「でも、更生させようとしても無駄ですよ」
「僕は間違ったことはしていないつもりです」
その警官は気づいた。
「この子の殺しにはある程度の正当性がある」
ということを。そして、
自分が本当に正すべきなのは少年ではなく、
少年を殺人鬼にさせた周りの方なのだと。
結局誰も彼を真人間に戻せなかった。
「ここも今日でさようならか…」
「長い間、お世話になりました。」
刑務所に一礼をして、
小学六年生になった林道栄徹は、
小学校を卒業するように刑務所を卒業した。
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生まれついての『無敵』。
彼、翼村未玖は自分がそうだと理解していた。
ある日、熱湯が彼の元へ!
熱湯は彼に到達しなかった。
ある日、暴走した自動車が彼の元へ!
自動車は到達しなかった。
彼は痛さを知らなかった。
だから、自分で手の甲をつねった時、
彼は驚きすぎて失神寸前だった。
「一人称を変えよう」
俺。
「友達を変えよう」
質の良い友達。
「恋人を作ろう」
ハーレム。
…あれ?
彼は実際とても良いやつで、
能力無しでも人生イージーモードだった。
しかし、一つの疑問が彼に生じた。
『俺は何をしてるの?』
『世界にはもっと不幸せな人達がいるのに』
『誰かが不幸せで僕が幸せ?』
彼は三年生で家出した。