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朱壷嬢は弓の才能が開花したようです……あれ? これ買い物回だよな?(朱壷パート)

 買い物といえば商店街、という事で朱壺は店が立ち並ぶ活気ある通りに来ていた。

 道行く人々も様々で、この町に在住している人が日用品を求めて店に入っていく姿もあれば、いかにも戦場で生きる装備の男が店主に値引き交渉をしているところも見受けられる。

 今回、朱壺が弌月に指示された買い物は、自分の着る服と何か欲しいもの。

 現在、朱壺は町の中を散策して見つけた洋服屋に入って、着る服を物色しているところだった。


「ん~……とりあえず7000z貰ったけども……どんな服買いましょうか……」


 今まで願いを叶える壺を生業としてきた朱壺に、自分用の服を選ぶとか欲しいものを考えるという認識は無かった。

 今着ている一張羅の和服は、最初からある初期装備的な扱いで防御力は一番低い(和服に防御を求めるべからず)。

 なので、何でも欲しいもの良いよという、今までとは逆のパターンに慣れていなかった。


「うむぅ……ん? これは……」


 と、何か気に入った衣類を見つけたようで、朱壷は目をキラキラと輝かせている。


「すいません、この服の上下2つを下さいな」


 声を出すと、そこに金髪ポニテの可愛い女性の店員が参上。


「かしこまりました。そこの椅子にかけてお待ちください」


 と言われて少し待ち、頼んだ半袖の服と少し長めのスカートが届いてお金を渡す。(手持ち金残り4500z)

 店を出て他の店を見て回る朱壷、ふと誰かを見つけた様で駆けつける。


「あ、やっぱりフィムエさんじゃないですか! 何を探してるんですか?」


 遭遇したのは狐っ娘姉妹の片割れ、白肌の姉フィムエだった。


「ん? ああ朱壷ちゃんか、今寝間着を探しててな」

「寝間着って……旅館に泊まるなら必要ないのでは?」

「あぁ、朱壷ちゃんには言って無いのか弌月は……」

「……?? なんのことです?」

「弌月はちょっとアレでな……旅館等には泊まらないんだ……」

「それはまたどうして……?」


 一緒に付いてくる朱壺に、フィムエはどう説明したものかと少々考える。


「アイツは友達が少ないだろ? それは性分というか、元々人が多い場所が苦手でな……」

「あぁ~……何となく察しが付きました……つまりコミュ症と……」


 朱壺は納得したようにウンウンと頷く。


「よく知っているな、最近人になったとは思えない」

「伊達に意識のある壷やってないんで(キリッ)。というかさっきもご主人、自分で言ってたじゃないですか、『コミュ症で馬鹿なダメ人間で悪かったな!』って……」

「ハハハ! そうかそうか確かにそうだったな! おっと、私はこの店で買うとするよ、じゃあね!」


 豪快に笑った後、朱壺の頭を優しく撫でてから、見つけた店に入っていく。


「フィムエさん、意外にいい人かも」


 と、こちらも納得顔でウンウン頷いてから町を再び探索。

 その後も、目に付いたものを見ては必要性と値段を天秤にかけてみる朱壺。


「あ、これはジャジャルリンゴ(540z)、けどやっぱり高いな……無駄遣いしないようにしないとだし……でもこのお金、ご主人が私に願って出させたお金なんですよね? 5000万もあるならもう少し奮発してくれてもいいような気が……」


 時々、弌月に対する不満も交えつつ、しばらく歩いて店を見て回り、


「一応武器調達もしますか。武器屋は……彼処かな?」


 見つけた近くの武器屋に入る。

 どうやら飛び道具専門の店のようで、弓や投げナイフなどが並べられている。

 どれも品質は良さそうだ。


「フム、なかなかいい弓ですね……ん?」


 気になる弓を眺める朱壷、張り紙を見つける。


『試し撃ち出来ます、ご利用の方はお呼び下さい。(矢は無料)』


「試し撃ち……やってみますか。スイマセーン、試し撃ちしたいんですが~」

「はーい。では、こちらへどうぞ~」


 朱壺が呼ぶと、店の奥の方から茶色と金色の髪の毛が不規則に混じったオーバーオールの弓道衣姿の女店主が登場。

 対比出来る存在が無いので正確には測れないが、女性にしては割と背が高く、一般的なヒューマン系男性の平均位はありそうだった。

 体型はグラマラスで、なかなかの美人な部類であろう。

 実はこの女店主、何気に重要人物だったりするのだがそれはもう少し後に紹介するとして……

 朱壺が店主について行くと少々大きめの道場があった。

 どうやら空き地に建てている様だ。


「ではこれに着替えましょうか♪」


 と手渡される弓道衣。

 数分後……


「お~格好いい! 今度弓道でも習おう」


 鏡に映った自分を見てご満悦な様子の朱壺。

 うん、アレだ……最高に可愛い、その一言に尽きる。

 正にロリ○ンには堪らな……ゲフンゲフン!


「フフ、お似合いですよ♪ では、これを……」


 店主から手渡される矢×12本。


「よし、そーれ!」


 朱壷が放った矢は風を切り裂き的のど真ん中に命中し、的を真っ二つに割った。


「お見事! 久し振りに逸材を発見しましたよ♪」

「おぉ~なかなかしっくりきますね! やっぱり、何でもやってみるものですな~! それ!」


 連続して弓を構え、射ち放つ朱壺。

 狙った矢は(朱壺が真っ二つにして今は残骸と転がる)的があったところの、真ん中を再び捉える。


「またど真ん中! 凄い……」

「まだまだ~! それそれそれ~!」


 気を良くして調子に乗った朱壷が、矢を三本で弓を横にして三本撃ち放つ。


「なんと! 大技三本剛射! 三本射ちですら難易度が高いのになんという事……!」

「うん……本当に弓道始めよう」

「では、ここで本格的に習いませんか? まずは1ヶ月無料からで!」

「ご教授の程、よろしくお願いします!」


 などというやり取り(ミッションあるのに1ヶ月無料やってる場合か? 朱壺……)を交え談笑する数分後……


「おーいルーク! いるか~? おーい!」


 店主を呼ぶ声が外から聞き取れた。


「あら……少々お待ち下さいね」

(あれ? 今の声って……)


 聞き覚えのある声だったので、確かめるべく店主に付いていく朱壺。


「ったく! 呼んでるんだから早くこいよ~暇してる神龍の癖によ~めんどくせぇ……ん? なんでお前がここに居るんだよ?」


 案の定、(不本意ながら従うことになったアホな)己が主人の弌月だった。


「あら、知り合いなの?」

「知り合いもなにも俺のメイd……」

「誰がメイドですと?」


 最後まで言わすまいと朱壺が弌月に放った矢はピュンッ! と風を切り、見事頭に命中……というか刺さる。


「ってぇ~なぁ~もう、ギャグ補正無かったら死んでたぞ!」

「「ギャグ補正って何ですか?」」

「いや知らな……知らないのが当然か……」


 刺さった矢を引っこ抜き、弌月は心中ため息をつく。

 頑丈なはずなのに矢は普通に刺さるのか? とか脳まで達してそうなほど深く刺さったっぽいのに平気そうなのはそのギャグ補正のおかげ、という事で片付けよう。

 説明面倒だしね、うん。


 皆が落ち着いて数分後……


「まぁ私が光の神龍ルークで、弌月とは戦友でしてね~」

「戦友って……まぁそうなるか。んで朱壷、開いた口を閉じろよ、アホみたいに見えるぞ?」

「ハッ!? コホン……! で、何故ルーク様が地上に?」


 紹介を聞いて、驚きのあまり呆然として口をあんぐり開けていた朱壺は何とか正気に戻り、その根本的な疑問をまず問いかける。


「まぁ~私は天界の居心地が合わないので地上で住んでるんですよ♪」


 聞いた答えは、その存在の崇高さに似つかわしくないほどに軽かった。


「まぁ、天界なんて退屈だしな。ルークの性格じゃ尚更だろうが……神官は大丈夫なのか?」

「ラデルなら、お店の上に居ますよ」

「へ? 神官まで降りてきてんのかよ……こりゃあこの (ルーク)が落ちるのも時間の問題か……」

「何か不吉な予感がしますけど……」

「まぁ、こっちに降りて来るのも週に5回程でs」

「多いわ! 平日出勤(週休2日)の会社員かよ!」

「ドウドウ……暴れ馬よ静まれ……一応、相手は神龍ですから……」

「俺は馬じゃねぇよ! というか一応かよ! お前も大概だな!」


 ポンコツブレーンなのに突っ込みは冴える弌月。

 皆が……(以下略)


「で、ラデルは何してるんだ?」

「働き者ちゃんだから何かしらしてると思うけど、呼べば来てくれるはずよ~? じゃあ今呼んでくるわね~」


 のんびりした口調で、 神官(ラデル)を呼びに階段を上がるルーク。


「……軽いお方ですね……そして色々と抜けてますね……」

「まぁ、今じゃどの神龍もあんな感じだよ……特にフリールはな……」

「水の国の神龍様でしたっけ?」

「あぁ……なんともウザイ奴だよ……正直、あまり会いたくないな……」

「そんなに嫌~? フリール、結構可愛いんだけど~」


 弌月の話に途中から合わせて会話に入ってくるルーク。

 そして、その後を付いてきて階段から降りてくる、蒼い神官服を着たツインテの美少女も一緒。

 高身長のルークがいるので分かりにくいが、この神官美少女も背は少し高く、スタイルが良い。

 ただ、表情の変化の乏しさも初見から漂っており、若干暗めな水色髪と相まって無愛想な印象を受ける。


「……」

「相っ変わらず無口な奴だな、ラデル!」

「…………何か、問題でも……?」←『基本無口です、例えるなら○の王です』

「……なんです? この何故か腹立たしい矢印と説明は?」

『さぁ?』


 矢印が話してるような……それでいて苛つく雰囲気満載だったので、虫を捕まえるように矢印を握り、ぶん投げるラデル。

 槍投げの如く振り抜かれた矢印君だが、小さいのでダーツのように迫力に欠ける命中っぷり、刺さって動けなくなり、そのまま放置。

 扱いが雑すぎる……


「いや~しかし……いくら図書館で本読んでたり仕事したりするだけだからって……こんなのになるか普通?」


 弌月は不思議そうにラデルを眺める。

 ラデルはというと、何か言いたげではあるが、答える事はしなかった。


「まぁまぁ、弄ると案外いい声で鳴いてくれるわよ?」


 代わりに、ルークがニヤニヤしながら情報提供する。


「そういやこいつ、Sだったな……鳴くって……何をどう弄るってんだよ……」

「オーコワイコワイ」


 あまり想像するのも、ある意味恐ろしいので断念した弌月と朱壺。


 …………ポツポツ…………ポツポツ…………ザァーーー


 話が途切れたタイミングで、外から地に落ちる水滴の音を聞き取る4人。


「あら? 雨が降って来たわね」

「…………ルーク様……洗濯物は取って来たんですか……?」

「あ、いっけな~い。ちょっと行ってくるわね♪」


 洗濯物が雨に濡れる事もそこまで気にしていないのか、ルークはゆったりと2階に上がっていった。


「……ルークの奴、家事もきちんとやってんのな? 全部ラデルに押し付けててもおかしくなさそうなもんだが……」


 ルークを見送ってから、弌月はラデルに振り返る。


「……家事全般やらされるのは、さすがに重労働……元々、ルーク様の都合でここにいる。だから、家事は分担でやってる……」

「ハハハ、違いねぇ、正論だわ。それに、天界にいりゃ誰からも崇拝されて、働いたりしなくても生きていける存在だってのに、退屈過ぎて死ぬるから働くわ~なんて理由で武器屋開いて働いてる変人……ならぬ変龍神だからな、家事してても不思議はないか。さて……」


 弌月はまるで我が家にいるかのように、遠慮なく店の中に入っていく。


「ご主人、何しようとしてるんです?」

「ルーク手伝ってくるわ。何もしないでいるのもさすがに失礼だしな」


 ルークの後を追うように階段を上がる弌月を、朱壺は目で追う。


(……ご主人、他人にも気を使えるんだ、ボッチなのに……多少気配り出来てるのにボッチとか、普段からどんだけアホだったのか……)


 などと思っていたかは定かではないが、そう思っていても不思議ではない……というのも置いておき、朱壺の現状はラデルと2人きり。

 ポツポツと屋根や壁、地面に当たる静かな雨音すら拾えるほどの静寂。


「……2人、ですね」


 とりあえず話を振ると、


「……まぁ、4人の内の2人が行けば、必然的に2人だからね……」


 一応は返事を返してはくれるものの、先に続かない。

 弌月がラデルを相変わらずの無口と評したのが理解出来る位に、ラデルからの言葉が期待出来ない。


(……なんというか……気まずいですね……うーん、でも返してはくれる以上、こちらが努力すれば会話にはなりますかね~……何か話題あるかな? 話題、話題と……)


 初対面ではあるが、関係を良好にするために話す内容を朱壺が考え始めた時だった。


「ごめんくださ~い~♪」


 と、外から陽気な声が聞こえてくる。


「……ん……誰か来たみたいね。少し見てくる……」


 客への対応のためにラデルは店の出入口に向かう。


「あれ? すいませーん! 誰かいらっしゃいますか~?」

「いらっしゃいませ」

「うおっ!?」


 ドアが開くまで静かだったため、それがいきなり開いた事に驚く来訪者。


「……すいません、驚かせてしまいました……ってフリール様じゃないですか……何か御用がありましたか? ルーク様ならもうすぐ降りてくると思いますけど……」

「ああ、今日はルークとは世間話程度で良くてね~どちらかというとティスに用があってね♪ ティス、ここにいるよね?」

「えぇ……一応居ますけど……」

「やっぱりかぁ~あのティスが来るところなんて限られてると思ってここ来たら正解だったわね♪ ここじゃなかったら帰ってたわ♪」

「まぁ、立ち話もなんですので、上がられては……? どうぞこちらへ……」

「それもそうね、上がらせて貰うわ♪」


 顔見知りを店の奥に招き入れるラデル。

 朱壺は暇をもて余して店内の品を物色していたが、ラデルが戻ってきたので元の場所に戻る。


「お帰りなさい。ん? こちらの方は何方ですか?」

「フリールよ♪ 聞いたことはあるでしょ?」


 ラデルが答える前に、来訪者が名乗る。


「……!? これは失礼をしましたフリール様」

「いいのいいの♪ 見た目こんなで、外見で判断されるなんて毎回だし、こっちとしても気を使わなくていいから構わないのよ♪ だから普通の接し方でいいわよ♪」


 そう軽い感じで話すフリールは、確かに本人の自覚通りに威厳を感じにくい外見をしていた。

 ヒューマン系の一般女性位の身長に、ルークと比べてスレンダーな体型で、セルリアンブルーのショートヘアと合わせて可愛らしい部類に入るだろう。

 ただ、ルークにしてもだが、このフリールに関しても龍神という立場を考えるとノリが軽すぎる。


「……少しは神龍の威厳をお持ちになられては……? フリール様」


 朱壺の無意識な内心をラデルが代弁してくれたので、朱壺も何となく無言でウンウンと頷くが、


「別にいいじゃない♪ 貴方もそういうのでいいのよ?」


 逆にフリールからフランクさを求められ、ラデルは少しだけ考え込む。


「……ゴホン。ならそうさせて貰うわ」


 結果、敬語が抜けた。

 龍神に従った、というよりは話の通じない相手だから諦めた、という感じかもしれない。


「いいじゃない♪ そっちの方が可愛いわよ♪」

「確かに!」

「そう? 可愛いとかあまり言われた事ないから分からないわ……」


 見た目が三者三様ながら全員美少女という3人組によるガールズトーク的状況のおかげで(?)、朱壺もラデルとは打ち解けてきた様子。

 そこに洗濯物を取ってきたルーク達が降りて来る。


「……でね? ラデルがああでこうで……ってあら?」

「ふぬー……えっ? は!? 何でお前が居るんだよ!」


 フリールを見た瞬間、親の仇でも見たかのような条件反射レベルで抜刀態勢に移行する弌月……を見た瞬間のルークの無言の腹パンが弌月を襲う!

 拳を腹にめり込ませた上に、そこから内部破壊の衝撃を叩き込むというえげつなさ。


「ガッハァ……!!」


 口から大量に吐血して倒れる弌月に、


「全く……あれ程直ぐに刀を抜くなと言っているのに……何が貴方をそうさせるのか、一度調べてみたいわ……」


 心配する素振りもなければ悪意自体存在しない、ただ呆れ顔を向けるルーク。


「……ルーク様、めちゃくちゃ強いですね? ご主人がこんなになるとか……」

「仮にも龍神だしね……それより弌月、起きなさい……」


 ラデルが意識確認も兼ねて弌月をユサユサ起こすも、


「待って今は動いたらヤバいから……寝かせt……」


 逆にとどめを刺したように首がガクッと傾げ落ちる。

 いくら弌月と言えども、唯一の弱点の胃をルークの様な神龍の力を喰らえば気絶はする。

 普通なら即死してもおかしくないルークの一撃を喰らって気絶だけで済んでいる、とも言えるかもしれない。


「……意識を失いましたね……あっ、何とか生きてはいます……一応気付け薬キメておきますね……」

「さらっとヤバい言葉を吐きましたね」←別にダウンしてる事は気にしてないメイdバキッ……!!

「誰がメイドですか……」


 ようやく壁から抜け出した矢印君、活躍する間もなく朱壺に握り潰される……


「全く……やり過ぎよルークは……」

「そう? ああでもしないと貴方死んでたかもだけど?」

「だって、今抜刀しようとしてたのソメイヨシノじゃなくてエーデルワイスじゃない? ルークの力が封じてあるんだから、その気になればエーデルワイスから力を逆流させてティスの動きを封殺させる事だって出来たはずなのに、何も物理的に封殺しなくても良かったんじゃない?」

「あ……まぁいいでしょ♪ 死なないんだし♪ それにどうせすぐに起きてくるだろうし♪」 

「あなたほんとにSね……先代が泣いてるわよ……」 

「もう~……先代絡ませないでよ。流石に少し傷つくわ~後でお仕置きしてあ☆げ☆る♪」

「私そっち系の趣味ないから遠慮しとくわ♪ てかそろそろ起きてもいいんじゃない? ティス」


 人が血を吐いて倒れたというのに、やはり会話が軽い神龍2人。

 そして弌月に意識があると既に見抜いているフリールが弌月に声をかける。

 すると弌月、動きはゆっくりではあるが、起き出してきた。


「いや、そろそろというかちょっと前に起きてるよ……出来れば起きたくなかったが……一応ありがとラデル」

「……/////」


 素直な礼を弌月から受けたラデルは頬を染めて顔を逸らす。

 そこに反応するのは年頃女子的ノリなスレンダー龍神のフリール(年齢は不詳……というか聞いたら殺される……)。


「お、照れてる照れてる~ww」

「照れてなんていませんよ……//」

「やっぱり照れてるじゃん! ラデルったら乙女しちゃって~このこの!」

「やめてさしあげろ。てかフリールが何でここに来てるんだよ……水の国はどうしてるんだよ?」


 楽しそうにラデルを弄るフリールに、弌月が助け船を出す。

 それでようやくフリールも少し真面目な顔に戻る。

 どうやら本来の用件を引き出せた様子。


「アンタが来ないから、水兵の士気と練度が落ちてるのよ」

「おいおい、最近平和なのになんでわざわざ水の国まで演習しに行かないとならないんだよ?」

「あら。弌月、知らないの?」

「何がだよ? ルーク。いや……俺が知らない情報があるなんてのはこの際仕方ないとして……ルークには伝わってるってなると神龍間のネットワークを介しての情報なんだろ? それでフリール自ら俺に用があるって来たとなると……面倒そうな厄介事でも持ち込んできたか?」


 弌月の推理に、フリールは軽く笑みを浮かべる。


「普段から脳筋のくせに、そういうところは変に頭が回るわね。あ、違う、鼻が効くって感じかしら♪ 動物並みってね♪」

「褒めてねえだろそれ。んで、何を頼みに来たんだよ?」

「ガーガルホエール、と言ったら分かるかしら?」

「……! あの飯クジラ、もしかして活動期に入ったのか?」

「そっ♪ それも、予定よりも一年早くね♪」

「一年早く!? それってまさか『あの現象』か!?」

「断定は出来ないけど、恐らくね」

「ったく……なんでこんな忙しい時にそうくるかなぁ……」


 弌月はまだ出掛けてもいない内から疲れたように顔を歪める。

 フリールと弌月の会話に入れない朱壺が、ルークに話を振る。


「ガーガルホエールの話が出てあの現象っていうと、竜戦争の予兆ですか?」

「恐らくそうだろうね……ガーガルホエール自体は美味で食べ残すところが無い上にあの巨体だから、食糧調達にはうってつけなんだけど……」


 朱壺も、ガーガルホエールについては噂だけは聞いていた。

 か弱そうな朱壺に対してはルークも優しく扱うらしく、丁寧に解説を加える。


「それでフリール、進行先は何処よ?」

「一番は風の国エーデルの可能性が高くて、その次は私の (フリール)なのよ」

「だから今から演習の話を、と?」

「まぁね♪ アンタは実力だけなら誰もが認めるところだから、アンタが来てくれれば戦意高揚になって助かる訳よ♪」

「そういう事か。だが、残念ながら今はギルドのせいで無理なんだよなぁ……」

「そんなに大事な用事なの? 一応、国の存亡にも関わるんだけど……」

「なんせ、依頼が伝説の剣探しだからな」

「伝説の剣? なにそれ?」


 頭上にハテナを浮かべるフリールに、朱壺も説明のために参加する。


「ギルドの調査隊が見つけた書物に、伝説の剣の場所が印されていたらしくてですね……」

「そんでもってその位置がラーゼフの中心だから、普通の奴じゃ迂闊に近付けないんだよ」

「……ラーゼフ……どの国にも存在する反神龍軍、その基地跡地……今は人体に有害なマナの溜まり場……」


 ラデルはフムと何かを思い付いたように、一度店の奥に引っ込む。

 事情を聞いたフリールは少し残念そうにしていた。


「ラーゼフね。ならアンタに依頼が来て当然か。まぁ、私の国は一応まだ期間的に余裕があるから大丈夫そうだけど……」

「弌月……ラーゼフは危険しかないから……これを持って行くといい……」


 店の奥から戻ってきたラデルが持ってきた物を弌月に差し出す。

 弌月が受け取ったそれは、特殊な文字がびっしりと書き込まれている 鎮魂歌(レクイエム)の札と呼ばれるもので、邪気を始めとする様々な悪性の事象に効果を発揮する護り札の一種だが、作成に手間がかかるために流通出来る数が少ない高級品でもある。


「おま、これ50万zするヤツじゃねぇか!? いいのか貰って?」

「作ろうと思えばラデルでも作れる物だから心配はないわ♪ けどラーゼフは弌月じゃないと危険しかない場所よ? なんで朱壷ちゃん達までいくの?」

「まあ、行くとは言うがラーゼフの中にまでは入らせる気はないから大丈夫だろ。近くまで手伝い要員に来てもらうだけで……」

「私は行きますよ?」

「「私達もね(な)!」」

「うおっ!?」


 いきなり近くで響く声に驚いた弌月が振り向く先には、フィムエ&ニムエがいた。


「お、お前らどっから湧いた!? というかなんでお前らまで?」

「は? 最初からラーゼフ行くって話で私達準備してたんでしょ? それに、どこにいるかってここの場所書いた手紙、アンタが置いてったじゃん」

「あ~……そういやそうだったな、忘れてたわ……」

「ふっ、色々はともかく、任務に関しては覚えの良い弌月にしてはみっともないな」

「うちの店の前で呼ばれたから行ったら、弌月の友達って言うから連れてきたわ♪」

「ふぅん? けどお前ら、武器使ってもあんまり強くないじゃんよ」


 戦力にならなそうという失礼極まりない認識で姉妹を見ていた弌月だが、2人はニヤッと顔を見合せてから、まずはニムエが自慢げに語る。


「ふふん、その穴埋めに私は白魔術と赤魔術極めたんだけど」

「え? 白魔術? いや、それより赤魔術!?」

「私は騎士道第9段まで上がったぞ」

「え? 第9段!? マジで?」


 弌月の驚き顔にドヤ顔で応える狐耳の姉妹。


「どうよ、私達姉妹の強さは?」

「お前らレベル高過ぎるだろ……いつの間にそんな……第一、白魔術と黒魔術は俺も術式さえおぼえれば出来るが、赤魔術って……あの最強の攻撃型魔術方だろ? それを極めたって……しかもフィムエに関してはもう最終段じゃねぇかよ……」

「騎士として色々と極めたからな!HAHA!」

「だけどまぁ、これでほぼ怖いモノ無しになったか……朱壷も何だか弓極まってるしな……」

「狙撃なら任せて下さいね♪ ご主人様♪」

「とりあえず、連れて行っても何とかなるか」


 戦力には申し分ないとして、ラーゼフに向かうのはこのメンバーで決定した。

 準備を整え、いざラーゼフへ!

 ……と言いたいところだが、先にニムエが買い物に向かった頃に話を遡る事にする。

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