愉快な仲間たち
「王様、王様、起きてくだせえ。もう朝食の時間ですぜ」
そう言ってワシのことを起こそうとするドラド。実はもうワシ起きとるんじゃけど、寝起きはベッドでゴロゴロする時間が至福なんじゃあ…
「起きろっつってんだろ!」
「いたた。ドラド、ワシ国王なんじゃからその扱いはどうなんじゃ!」
ドラドのやつめ、あろうことにもワシがくるまっている掛け布団をひっぺがしおった。おかげで床にドスンじゃわい。いってーのう。
「嫌なんだったら1回で起きてくだせえ。俺だってめんどくさいんですぜ」
まぁ確かにのう…ワシの寝起きが悪すぎるからドラド以外ワシのこと起こせる奴らはおらんくなってしまったしのう。 ドラドの言うことももっともじゃ。気をつけねばな。
「ふぅ。勇者殿は…もうお目覚めか?」
立ち上がりながらドラドに問う。勇者殿は昨日は早く寝たと報告を受けたんじゃがまぁ疲れておるだろうしもうちょっと寝かせてやるのもやぶさかではないんじゃ。ほらワシって優しいからね。ふふん。
「アイツならもうご飯食べ終えてブツブツ独り言呟いてますぜ」
「独り言、じゃと?」
もしかして家や家族が恋しくなったのかのう…いくら転生願望があるといってもいきなり2度と会えませんってなるとやっぱ精神的に来るものがあるんじゃろう…申し訳ないことをしてしまったのう…
「あぁ、『ちーとすきるがでてこない』だとか『あのハゲからちーとぶきを奪うしかないのか』とか『俺のはーれむ』とか。正直よくわからん単語ばっか呟いてたぜ。俺にゃあさっぱり理解できなかったぜ」
…ちょっとでも勇者殿のこと心配したワシが馬鹿じゃったわ!チートすることしか考えておらんじゃん!なにがチートスキルだよ!んなもんねーって言ってるじゃろ!チート武器…はあるにはあるんじゃが勇者殿のひ弱な細腕では振り回せそうにもないしのう。ハーレムなんてこの国の王であるワシが作れてないんだから勇者殿に作れるわけがなかろうよ。てかあのクソガキまたワシのことハゲって言っとるんか!マジでワシハゲてねーから。ハゲって言った方がハゲなんじゃもんはやくハゲろ!
ふぅ、とりあえず食堂に行くか。『すべての始まりは朝ごはんから』、じゃしのう。あ、これワシが作ったことわざね。教科書にも乗っ取るんじゃぞ。ふふん。
そして食堂に着いたワシの目に飛び込んできたのはドラドが言うようにぶつぶつと独り言を呟く勇者殿じゃった。…右腕を包帯でぐるぐる巻きにしてその手で右目を抑えておる勇者殿じゃった。隣でドラドが唖然としとるしドラドがワシのこと起こすのに手間取ってた時間に巻いたんじゃろうなあ。何しとるんじゃ勇者殿。怪我するような危ないものもここには無いしのう。
「勇者殿、勇者殿。おはよう」
そう話しかけてみるが勇者殿は相変わらず独り言を呟くだけ。ざけんなよ王様の言葉無視するとかワシのこと舐めてんの?処すぞ?
「おいテメェなに王様の言葉無視してんだよ舐めてんのか、アァン?」
「おい絡むなドラド、勇者殿に失礼じゃぞ」
まぁ臣下を抑えるのも王様の務めじゃしね。ワシ無視されて怒るようなちっさい器やゃないからね。ワシほど冷静沈着で温厚な王様そうそうおらんじゃろうなあ。実際ワシ怒ったこと一度も無いしね。ふふん。
うーんそれにしても困った。いくら話しかけても勇者殿反応してくれんし…うーむ、とりあえず勇者殿は放っておいて朝ごはん食べるとするか。
「王様、今日はちょっと遅めですねえ。はい、朝ごはんどうぞ!」
そう言ってワシに朝ごはんを出してくれたのは給食のおばちゃ…いやお姉さんじゃ。給食のお姉さん、絶世の美女の給食のお姉さんじゃ。だからお願いじゃからポケットから包丁を出さないで、マジでごめん反省してるから許してたもれ綺麗なお姉さん。今の懺悔で満足そうに頷いてポケットにしまってくれたから良かったものの一歩間違えてたらワシのこと殺ってた目じゃったわアレ。てかなんでお姉さんワシの思考読めてるんじゃ怖いんじゃけど。それに王様じゃよね?なんでみんなそんなワシの扱い雑なの、ワシ泣いちゃいそうじゃ。
「おば…あっお姉さん今日もありがとうじゃよ。いただきます」
「はい、たんと召し上がれ! …今度言い間違えたらぶっ殺すからな」
「はっ、はいぃっ」
小声で囁かれた内容が恐ろしすぎて今ちょっとちびっちゃった。ほんのちょびっとだけだからセーフだけどね。セーフセーフ。
まぁ給食のお姉さんには毎日毎食お世話になっとるからな。逆らえんのじゃ。それに処したら美味しいご飯が食べれんくなってしまうしの。
ワシが優雅に朝ごはんを食していると食堂に次々と入ってくる臣下や傭兵団の者達。やっぱり今日はちょっぴり遅かったみたいじゃの。早く起きればよかったのう…ちょっぴり後悔。ほーらこっちにやってきおった。
「ふわぁあぁあぁ…あれ王様いんじゃん」
「ほんとだ王様おはようゴザイマース」
「おっ王様寝坊したんですかい夜更かしはいけませんよ」
「王様の生え際また後退してる…」
「ちょっと皆さん王様の頭そんなふうに触ったら更に禿げちゃいますよ〜!」
「クッソワロタハゲジワルんですけど」
「ちょっと日本語喋りなさいよ」
「ふぅ、観察終わりました。10日前の前回の記録から約三千本が減っていますね。千本程度なら正常なのですがそれの3倍となると…」
「やっぱハゲてんじゃ〜ん」
「黙れええええええい!ワシハゲてねーから!うるせーんじゃよお前らほんと処すぞ!処さなくてももう今ので今日の給料50%カットは決定だかんな!散れええい散れええい!」
そうワシが叫ぶと途端に散っていく傭兵団の団員たち。給料50%カットが地味に効いたんじゃろう。まぁ実際はそんなことしないんじゃけどね。給料で脅すなんてパワハラ?知らねーよ、ワシ王様なんだからそんくらい許せっての。
ワシ王様なのにハゲなんて言われてほんとまじでイラつくんじゃけど。だから嫌だったんじゃよ。いつもはもう少しはやくご飯を食べ終えてこの時間にはこの場所を去っていたからあやつらと関わらんでよかったんじゃがなぁ…
いやまぁ嫌いな訳では無いんじゃ。いつもあやつら隣国のちょっかいをこてんぱんにしてくれとるからの。感謝はしとるしいい奴らなのは分かっとるんじゃ。けどそれとこれとは話は別なんじゃよ。ワシをハゲ呼ばわりするとかマジありえねーから。あーほんとイライラする。今頃ドラド不幸な目にあってねーかな。
ふと思い出して勇者殿の方を見やると勇者殿まだぶつぶつ独り言言っとるし…おっそろしい執念じゃのう…こえー…
ま、勇者殿は放置で仕事を始めるとするか。ワシ王様じゃから忙しいんじゃよ。ちゃんと働いてて偉いじゃろう。ふふん。