表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

心労生活の始まり


「…というわけで、勇者殿にはこの世界を救ってほしいのじゃ」


ワシはエルグランド王国の国王、ザレス。この世界で一位の面積を誇る国の王である。


そしてワシの目の前に傲慢にも立ったままで謁見しておる男は古より伝わる秘儀にて召喚されし『勇者』殿。

いや別に気にしてないからね。ワシに立ったまま謁見するとかどういうことじゃよ、よし死刑!なんて思ってないからね。ワシそんな心狭い王様じゃないから。ワシの9割慈愛で出来てっから。…あー勇者殿見てるとなんかイライラするめっちゃイライラする死なねーかな。


まぁ勇者殿もこの世界とは異なる場所からいきなり召喚されたのであろうから現在進行中の無礼な行為にも目をつぶってやっておる。今は魔王に対して先手を打つことが何よりも重要なのじゃ。ワシが我慢して済むことなら目の前のこやつがどんなことをしようと許してやるわい。


…にしてもこやつずっと黙っておるな。ワシの話を聞いておらんのか?その場合容赦なく死刑じゃからな?


「…勇者殿?聞いておるのか?返事のほうはどうなのじゃ?」


「………」


…おい、無視なのか?おい。王様相手に無視しちゃうのかこやつ。処すぞ?処されたいのか?お?処しちゃうぞ?


「オラお前なあ!俺らの王様ボスに向かって無視とはいい度胸だァ…いっぺん逝っとくか?あ゛?」


いきなり野太い声で叫んだのは大臣のドラド。…いや言ってることはあってるんだけど言い方をさあ!もうちょっと大臣らしい言い方あるじゃん。もうちょっと堅苦しく行こうよ。ワシだって気難しげに喋ってんじゃん。好きじゃないんじゃよこの喋り方。王様語の教科書なんてないからぶっちゃけ雰囲気第一で喋っとるし。王様が頑張ってるんだから君も頑張ろうな。あと「漢」と書いて「オトコ」と読むみたいなノリでボスって呼ぶのやめてくれない?ワシちゃんとした王様だから。裏では闇社会まとめあげてますみたいな設定無いから。


「…うるせーよ」


「ん?なんじゃて?」


勇者殿の声小さくて聞こえねーんじゃよ。もうちょいはっきり喋れや。あーイライラする。もう魔王とかいっかな。ワシでも魔王倒せるくね?ダメなの?ワシこう見えても強いんじゃぞ?


「うるせーつってんだろこのクソハゲ!俺はしたいことをするだけだ。誰の命令もきかねーよ」


いや今なんつったこやつ。今クソハゲって言いおったよな。ワシ確かに聞いたよ。クソハゲって言った。娘にもまだ言われてないのにこやつワシのことクソハゲって言いおったぞ。てかハゲじゃねーし。…もう処す?処しちゃっていいよね?魔王はワシが倒すってことで。いやでも最近ワシの腰やばい感じじゃしな、それに娘と会えんのは嫌じゃし。やはりここは勇者殿を立てておく方が賢明じゃな。ワシの9割は理性で出来ておるからな。勇者殿の死刑にも値する暴言を慈悲の女神であるラズロ様のごとく許してやることなぞ朝飯前じゃ。そうじゃ、ここはいっちょ今庶民で流行りの小説のセリフを真似してだな…


「ふっ…王に向かってそのような口をきくか…。良い、許そうぞ。お前のその目はワシの若いころにそっくりじゃ。ワシはお前のような若者にこの世界を頼みたいのじゃ」


王様ボスぅ!柄にもなく良いこと言いやがって…泣けてきたぜ」


なんて言いながら胸ポケットに挟んであるハンカチで涙を拭く大臣ドラド。いや感動するのはいいけどもうちょい口に気を付けろよ大臣。ワシ君の上司なんじゃぞ?調子に乗ると処すぞ?


「ふっ…クソハゲと一緒の目なんて辞めてくれよ反吐が出るぜ。…いいぜやってやるよ。魔王を倒してやる」


なんて片頬だけ上げながら「やれやれだぜ」みたいなノリで笑う勇者殿。まぁよく分からんがワシの言葉がこやつの琴線に触れたのじゃろうな。小説のセリフでイチコロとかくっそちょれーじゃんこやつ。なんなの馬鹿なの?…てか今クソハゲつったよね、一度ならまだしも二回連続でこやつクソハゲつったよねワシもうキレた。はいもう無理王様キレた!


「アホか貴様ら!んなこと言うわけないじゃろ!引用してきた小説のセリフで満足するとか勇者殿ちょー単純じゃんウケる!つかワシが子供の頃は国王おとうさまに対してはもうちょい尊敬の篭った目向けてたしね?なんでこんな馬鹿みたいな目したクソガキにこの世界託したくなるの?そんな王様おる?おらんじゃろ?そんな王様いるんだったら連れてこいよ居ねーから!それにワシハゲじゃねーし!デコは元々広かっただけだし!ハゲじゃねーから!毎日海藻食べてっからハゲるわけねーし!ワシのお父様のハゲの遺伝子なんて貰ってねーから!お前の目節穴じゃろマジウケる!」


「えっ……」


ハッ!やばいやってしもうたハゲじゃねーのにハゲって言われるとくそイライラするんじゃ抑えられないんじゃ。いや元はといえばワシハゲてないのにハゲって言う勇者殿が悪いんじゃよ。その勇者殿も唖然としてワシのこと見てるし…


どうにかして誤魔化せねーかな。実は腹話術でドラドが喋ってましたみたいな。あるじゃろそういうヤツ。ドッキリ成功ー!みたいなやつあるじゃろ。勇者殿なら騙されてくれそうなんじゃけどなあ。いっちょやってみるか。


「ゴ、ゴホン。今のはドラドが喋ったのじゃ。どうじゃ?ワシが喋っておったように見えたかの?ドラドの腹話術は凄いからのう…」


話を合わせろとばかりにドラドに目配せをするワシ。合点承知がってんしょうちとばかりにウインクを飛ばしてくるドラド。まぁ数十年もの付き合いじゃからな。このくらいの意思疎通は朝飯前じゃ。ワシらの間に流れた月日マジパネーんじゃからな!


「そうなんだよ。俺王様(ボス)の真似すんの得意だからさ?まぁこんくらい余裕っつーか?ほらこんな風に…んん゛っ、あーあー。ゴホン。『ワシハゲてねーから!』」


はいワシらの十数年もの付き合い無駄じゃったー。ワシらの間に流れた年月全く積もってなかったー。なんで真似すんの?真似しないでいいじゃん。 とりあえずは話合わすだけでいいじゃん。全然似てねーよワシそんな野太い声してねーから!ワシどっちかと言うと男性としては高い方じゃし!こんなんじゃ勇者殿が信じるわけな…


「ふっ、確かにそっくりだな。お前の王への愛が多いゆえに成せる技だろうな。王よ、お前も幸せ者だな」


いや勇者殿もそれで信じんの?え?まじで?全然そっくりじゃねーよな?お前目だけじゃなく耳まで節穴なの?もしかしてお前の耳は風の通り道なの?直通トンネルが脳内貫通してんの?だからそんなに阿呆なの?つか勇者殿の理論で言ったらドラドのワシへの愛0なんじゃけど?そうじゃったのかドラド、ワシ泣いちゃいそうじゃ。


「ま、まぁそういうことじゃの…しばらくは王宮で訓練を受けてから魔王討伐に向かった方が良いじゃろうて」


「いや俺はレベルカンストしてるから訓練など必要ない」


はい出たーすぐチートしたがる勇者殿。レベルカンストって…これはゲームじゃないんじゃぞ、経験もないクソガキが外に出ればチンピラにワンパンされるのがオチじゃよ!『勇者』にはそんな特殊技能備わっておらぬし。「とりあえず転生願望のある異世界人出してくだされ繋ぎの神サレフ様ぁ…」ってお願いしたら出てきたのが君だっただけじゃし。『転生願望のある』って指定したのはワシ恨まれるの嫌じゃからね。嫌々連れてくるようなことはしたくなかったからね。ワシ優しいから。それにしても勇者殿のカンチガイめんどくさいのう…色々言ってきかせんといかんじゃん、めんどくさいのう…あーイライラする勇者殿まじ死なねーかな。


「ま、まぁ勇者殿が強いのはわかっておる。そうでなければ召喚されるわけが無いのじゃしな」


全くの嘘じゃけど。


「そ、そこでじゃ。エルグランド王国傭兵団の団長に勝てたらそのまま魔王征伐の旅に向かうことを許可しようぞ。負けるわけはないじゃろうが万が一負けた場合は傭兵団から訓練を受けるのじゃ」


「まぁ余裕だろうが。いいぜやってやる」


ほら出たお得意の片頬スマイル。団長にボコられた時の顔が楽しみじゃわい!


「じゃ、そういうことでよろしくたもれ。ドラド、勇者殿を部屋に案内してやるのじゃ」


「うっす王様ボス!オラ勇者付いてきやがれィ」


「ふっ、お前が俺にそんな口きけるのも今だけだぞ」


言いあいながら王の間を出ていく2人。はぁめっちゃ疲れたもうヤダ王様疲れた。とりあえずドラドのことは今夜シメるとして、勇者殿の団長の手合わせはいつやるのがいいじゃろうか。はやく苦渋に満ちた顔を拝みたいものじゃ。…明日は祝祭日じゃからお小遣いでもあげて勇者殿を街へ行かせるつもりじゃし。明後日はきっと疲れておるじゃろうからゆっくり休ませてやる方がいいじゃろ。なら明明後日かのう…予定表に書き込んでおこうぞ。


おやつでも食べてお昼寝しようかの、ワシ疲れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ