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プルーム森の吸血姫  作者: 杠葉 湖
第2章 忌まわしい記憶の彼方に
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第2章 忌まわしい記憶の彼方に 3

 新しいメイド服を着たルディは、ランプを持つと、そのまま足早にリーザの部屋と向かった。

 その理由はもちろん、何があったのかを聞くためである。

(素直に教えてくれるといいけど……)

 リーザの部屋の前まで来たルディは、不安を覚えながらも、勇気を振り絞りリーザの部屋のドアをコンコンとノックする。

「…………」

 しかし、中から反応はない。

(あ、あれ?)

 拍子抜けしたルディは、もう一度ノックを試みた。

「リーザ様、いますか?」

「…………」

 やはり、反応はない。

「……開けるよ?」

 ルディは恐る恐る、ドアを開けた。

 だがそこに人影はなく、無人の空間が広がっていた。

「いない……」

 ルディはドアを閉じ、首をかしげる。

「そろそろ夕食の時間なのに……書斎かな?」

 ルディは書斎の前に立つと、やはり同じようにドアをノックした。

「…………」

 そして同じように、無言の答えが返ってくる。

「リーザぁ……入るよー……」

 遠慮がちにドアを開けて、ランプで中を照らす。

 しかしそこには、本棚に整然と並べられた本があるだけで、誰もいなかった。

「……ここにもいない」

 ルディはその足で、館中をくまなく探し回ったが、リーザの姿はどこにもない。

「……おかしい……」

 ルディは嫌な予感を感じずにはいられなかった。

 もしこれが、普通の格好をしていて、記憶もはっきりしているというのであれば、ルディは喜んで逃げ出しただろう。

 だが、起きてみれば下着一枚、しかも新しいメイド服が用意されていて、おまけに記憶が一部欠落している。

 これはもう、何らかの悪巧み、陰謀と言わざるを得ない。

(そっちがその気なら……)

 ルディはランプを持ったまま館の外へと出た。

 外の世界はもうすっかり夜になっており、星空に浮かんだ月光が、森の木々や洋館を淡い光で照らしている。

「隠れてるなら、逃げちゃうよー」

 そしてゆっくりと、館から遠ざかっていく。

(どうせあのヴァンパイアのことだ。きっと隠れてボクを監視して、楽しんでいるに違いない。だからこうやって外に出ちゃえば、慌てて追いかけてくるはず)

 ルディはそう思いながら、普段は通らない道、森の木々の合間を縫うように、道なき道を進んだ。

(何でもかんでも、自分の思い通りになると思うなよ。ボクにだって意地があるんだ!)

 そして、森の奥へと進んでいく。

 月夜の光が落ちてくる夜の森は、神秘的ではあるがいつにもまして不気味で、静寂に包みこまれている。

 時折風が吹き、突然の木々のざわめきで、何度もルディの足を止めた。

(武器持ってくればよかったかな……)

 ルディは少し後悔したが、今更引き返せない。足を止めずに、そのまま進んでいく。

 しかし――

 1分、2分、5分……

 リーザが現れる気配は、一向になかった。

(あ、あれ?おかしいなぁ……)

 ルディはだんだん不安を募らせながらも、先へ先へと進む。

 突然、野鳥が木の上からバサバサと羽ばたいた。

「うわぁっ!?」

 あまりの驚きに、尻餅をついてしまう。

 はずみでランプを落としてしまった。

「なんだ鳥か……驚かさないでよ……ふぅ……」

 そして立ち上がり、尻をパンパンと叩いて、ランプを見る。

 しかし、ランプの灯は消えていた。

「ああっ……!」

 ルディは絶望的な気分に陥り、しばし、呆然と立ち尽くす。

 突然、突風が吹き、木々がざわめいた。

「!!」

 ルディは全身をビクッと震わせると、恐る恐る周囲を見回す。

「……先に進もう」

 ランプを拾うと、意を決したように、先へと歩を進める。

 やがて10分歩いたところで、突然視界が開けた。

「ここは……」

 目の前に現れた光景に、思わず息を飲む。

 そこは大きな湖で、水面に雲一つない星空が映し出されていた。

「こんな場所あったんだ……」

 それは、ルディが今までに見たこともない、美しい光景であった。

 今まで感じでいた絶望や恐怖心も忘れ、つい見入ってしまう。

 包み込む静寂。そよぐ風。

 全てが先程とは違ったイメージで、ルディの中に入ってきた。

「綺麗だなぁ……」

 思わず、感嘆の溜息をもらす。


 チャプン


 不意に放たれた水音が、ルディを現実に引き戻した。

「!?」

 ルディは反射的にその音の発生源を見る。

「!!」

 そして再度、息を飲んだ。

 はたしてそこには、湖に入り、身を清める少女の姿があった。

 少女は一糸まとわぬ姿で、気持ちよさそうに水を浴びている。

 月明かりを浴びた銀色の髪がとても艶やかで美しい。

「女神様……」

 ルディは思わず呟きを漏らす。

 すると、少女はその言葉に気が付いたのか、冷淡な笑みを浮かべて、湖から出た。

 そしてそのままルディの元へ歩み寄ってくる。

「よもや……こんなことをしでかす男だったとはの……」

 ルディはその聞きなれた冷たい口調に、戦慄を覚える。

「ま、まさか……リーザ……」

「いかにも。わらわじゃ」

 リーザは少し小ぶりな胸を張りながら、相手を威圧するように答えた。

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