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第1章 主人と従者 3

 なんとなく肌寒さを覚えたルディが目を覚ますと、そこには見知らぬ風景が広がっていた。

 辺り一面をゴツゴツした壁で囲まれ、何処にも窓がない。部屋の出入口と思われる場所には、壊れかけた扉が立ちふさがっている。床には石畳が敷き詰められ、腐りかけた木製のテーブルの上には古びた洋灯が置かれており、辛うじて灯かりが燈されている。真っ暗な部屋の中を、洋灯の灯がぼんやりとした明るさで、部屋全体を包み込んでいた。装飾らしいものもなく、とても殺風景な部屋で、埃臭さが鼻につく。

 牢獄――まさにそんな感じがする場所であった。

(ここはどこだ!?)

 ルディは木のベッド上に腰掛けながら自分の置かれている立場を理解しようとした。

 1週間前立ち寄った村で耳にした噂……プルーム森には近づかない方がいい。

 何故近づいてはいけないのか……いくらルディが聞いても、村人達はそれ以上のことは教えてくれなかった。

 ルディは恐怖を覚えつつも、その森に入っていった。そこには自分の運命を変える、何かがあるような気がした。

 何処をどう進んだのかは、よくわからない。いつのまにか空が曇り始め、そして激しい雷雨にあい……

(そうだ……ボクはあの吸血鬼に捕まって……)

 ルディははっきりと思い出した。

 吸血鬼に捕まって従者にさせられたこと。

 逃げ出せば間違いなく殺されること。

 自分の生命は、今のところあの吸血鬼が握っていること。

(どうにかしてここから逃げ出さないと……)

 ルディは脱出計画を立てようと試みたが、それが無謀であると言うことに気がつくまで、さほど時間がかからなかった。

(ダメだ……今逃げ出したら必ず殺される……かといって、あの吸血鬼を倒せるほど、今のボクには力がないし……)

 ルディはすっと立ちあがると、洋灯を手にもって部屋を出た。

 そこは狭い通路になっており、左手前方には上へ上がるための石段がある。

 ルディはその石段を、ゆっくりゆっくり上がっていった。

(今はあいつの信用を得ることに専念しよう。油断させれば、脱出できる隙が生まれるかもしれない)

 階段を上がり終えると、見覚えのある部屋に出た。

 埃をかぶったクローゼット、壁にはめ込まれた大きな鏡……そう、昨日ルディが無理矢理メイド服を着替えさせられたドレス部屋だ。

 ルディはクローゼットから昨日のメイド服を取り出すと、少しためらいながらそれに着替えた。

(我慢我慢……ボクはこんなところで死にたくない……)

 着替え終わって、鏡の前でなんとなくポーズを取ってみる。

(こんなフリフリしたドレスが似合うって言われるなんて……とほほ……)

 その一言は、少年の自尊心を痛く傷つけていた。

 女っぽい男……

 それは、ルディがもっとも嫌う言葉であった。自分で好きでこうなったわけではない。たくましい男になろうと、いろいろと努力した。今回の旅にしても、男らしさを磨くことが目的の一つに入っていた。

 ルディが部屋を出ると、窓から東の空が白いできたのが見えた。

「まだこんな時間か……さてっ、と。食料探しにいって来るかな」

 ルディは倉庫から籠を取ってくると、屋敷を出て森に入った。

 夜明けを告げる鳥の鳴き声が聞こえ、さわやかな風が辺りを吹きぬける。

「うーん、やっぱ春の風は気持ちいいなぁ」

 ルディは思いっきり伸びをした。いつもはゆっくり寝ている彼であったが、たまには早起きもしてみるもんだなと感じずにはいられなかった。

 騒がしい街と違ってここは静かな自然に囲まれ、空気が清々しい。

 ルディは、なんとなくこの場所が好きになれそうな気がした。

 勉強はしなくてもいい、うるさい父もいない、厳しい練習もない……

(これであの吸血鬼がいなかったら最高なんだけど……)

 途端にリーザの顔と高笑いが頭に浮かんできて、ルディのさわやかな気分は一気に吹き飛んでしまった。

(吸血鬼め……絶対に、ボクは生き延びてみせる!!)

 ルディは決意を新たにして拳をぐっと握り締めると、無駄な空想にふけるのはやめて食料探しを始めた。

(あの吸血鬼の話だと木の実とかが沢山あるはずだけど……)

 とりあえずルディは辺りをキョロキョロと見まわしてみると、リーザの話の通り沢山の木の実があちらこちらの木に実をつけていた。

「よかった……こんなにあれば、当分は食料の心配をしなくっても大丈夫だよ……」

 ルディはホッと胸をなでおろして、早速近くの木に登って木の実を採り始めた。

(それにしても沢山あるなぁ……とり過ぎないように気をつけないと。腐らせちゃうともったいないしね。とりあえず……これだけとっていけば大丈夫かな?)

 籠一杯に木の実を積み終え、ホクホク顔になったルディは、ふと向こうの茂みに猪がいるのをみつけた。

「あれ?なにやってるんだろ……?」

 ルディは木を降りると、気配を殺しながら音を立てないように静かに獲物に近づき、持ってきた槍を投げつけた。

 ガサガサっと茂みが大きく揺れ動いた。

(やったかな?)

 ルディが恐る恐る茂みをかき分けてみると、そこには丸々と太った猪が一匹、頭に槍がささって息絶えていた。

「うん。これで肉料理もなんとかなる」

 木の実だけで少し心許なかったルディは、思わぬ収穫に飛びあがって喜んだ。

「さーて、帰って朝食の準備始めなくっちゃ。それにしてもこの猪、こんなところで何をやっていたんだろう……」

 不思議に思ったルディはその猪をどけてみた。

 何かを掘ろうとしていたのか、爪あとが地面にくっきり残っている。

「ここに何か埋まってるのかな?」

 気になったルディは、その場所を掘り起こしてみることにした。

「こんなことなら、スコップも持って来ればよかった」

 土で汚れた手をみて、苦笑せずにはいられない。それでも額に汗をうっすらと浮かべながら、慎重に慎重に地面を掘り進めていく。やがて、なにかの植物の鱗形らしきものが出てきた。

「こ、これは……」

 ルディはゆっくりとその物体を掘り起こして、手にとって見る。百合の球根のような形をしており、色は白っぽい。鼻を近づけないでも、とても強烈な臭気を放っているのがわかる。

「間違いない!!これは――!!」

 ルディはとある本で読んだ食物のことを思い出し、自然と笑みがこぼれてきた。

「ボクってなんて運がいいんだろ……これで吸血鬼との生活もさよなら出来る!!」

 ルディは注意深く辺りを見回し、誰もいないことを確認するとその植物を籠の中にそっと忍ばせた。

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