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プルーム森の吸血姫  作者: 杠葉 湖
エピローグ
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エピローグ

 降り積もった雪も溶け、小さな植物が土の下から顔を覗かせる。

 ノーザン地方に生命の息吹を伝える春の季節がやってきた。

 のどかな気候は、生物に安眠を貪らせる。

 そしてここにも、安眠を貪る少年がいた。

「ん……んんっ……」

 少年は、ゆっくりと眼を開ける。

「ふわぁ~」

 大きく欠伸をすると、二度、三度、重たく今にも閉じそうな眼をこすった。

「起きるかな……」

 まだぼんやりとする意識の中で、昨夜少女に言われた言葉を思い出す。

「そういえば……今日は何かあるんだっけ……ふわぁ~……」

 少年は再度大きく欠伸をすると、ベッドから起き上がった。

 そして、机の上にたたんで置いた茶色のシャツを広げて着ると、その上から緑色のベストを羽織る。

 最後にズボンをはくと、そのまま地下室を出た。

 生死をかけた父親との激闘から早数ヶ月。

 瀕死の重傷を負ったルディであったが、その傷はすっかり癒えていた。

 これも、リーザが献身的な看護をしてくれたおかげであろう。

 あのリーザがこんなことをと、最初こそ戸惑ったルディであったが、今まで自分がされてきた仕打ちと、自分の気持ちが通じたと思ったので、いつしかその行為を素直に受入れるようになっていた。

 階段を上り、一階へ行くと、そのまま大広間へと出る。

 そして入口の、年期の入った大きな扉を開けた。

 澄み渡った青空が視界に飛び込んでくる。

「今日もいい天気だなぁ……」

 ルディは外に出ると、扉を閉め、辺りを見回した。

 果たして、目的の人物はすぐに見つかった。

 木製の丸いテーブルにふたつの椅子がセットされ、片方にリーザが腰掛けている。

 手には陶器のカップを持ち、優雅にお茶を飲んでいる。

 テーブルの上にはソーサー、ポットのティーセットの他に、木の箱が置かれていた。

「ごめん、待たせた?」

 ルディは空いていたもう片方の椅子に腰掛ける。

 リーザはカップをソーサーの上に置いて、静かに口を開いた。

「おんし、今日はどんな日か、覚えておるか?」

「えっ……」

 突然の質問に、ルディは言葉を詰まらせる。

 リーザはフッと笑った。

「まぁ、無理もあるまい。今日はの、おんしがここに来てちょうど一年目の日じゃ」

「あっ……」

 ルディはその言葉に、驚きの表情を見せる。

「一年……思い起こせばいろいろなことがあったのう」

 リーザは懐かしむように空を見上げた。

「そうだね……」

 ルディも同じく、空を見上げる。

 二人の脳裏に、様々な思い出がよみがえってきた。

 しばらく、沈黙の時が流れる。

「というわけで、今日はおんしにとっての記念日じゃ。幸い、傷も癒えたようじゃからの。わらわからの贈り物を、受け取るがよいぞ」

「う、うん……ありがとう」

(一体何だろう……)

 ルディは期待に胸を膨らませながら、木箱の蓋を開ける。

「!!」

 そして、そのまま固まった。

 木箱の中には、新品のメイド服にヘッドドレッサー、白の長い靴下が入っていた。

「あ、あの、これは……」

「当然じゃろ?おんしはわらわの従者なのじゃからな」

 リーザはニヤリと笑う。

「まさか、おんしがわらわにしでかしたこと、忘れたわけではあるまいな?」

「うっ……」

 ルディは言葉に詰まる。

「従者の分際で、わらわにあのようなことをしでかすとは。おんしには罰が必要じゃ」

「だ、だって、あの時はほら、ああしないと死んでたっていうか……」

「世迷い言を。わらわ一人でも、どうにかなったわ。出来損ないの弱いおんしと一緒にするでない」

 ルディの必死の弁明を、リーザは切って捨てる。

「というわけで、わらわに対して破廉恥な行為に及んだおんしに対する罰は、無期懲役じゃ。わらわの元で一生尽くすがよいぞ」

「じょ、冗談じゃないよ!」

 ルディはダンと机を叩いて立ち上がった。

 リーザは意地悪く笑った。

「ん?言ってなかったかの?おんしはもう既に人間ではないのじゃぞ?」

「えっ!?」

 リーザの言葉に、ルディは驚きの声をあげた。

「おんしの血を吸った時に、わらわの力を与えて従者にしたからの。そうでもしなかったら、おんしは死んでいたからの」

「そ、そんな……」

 ルディは力なくうなだれる。「人間ではない」という寝耳に水の事実が、ルディに重くのしかかっていた。

「これからは、おんしは正真正銘わらわの従者じゃ。今まで以上にわらわのために励むがよいぞ」

「無理だよ……」

 ルディは力なく答える。

「反抗的な従者じゃのう。どうやらおんしには、別の罰が必要じゃの」

 リーザは立ち上がると、ルディの元に歩み寄ると、彼の両頬に手を当てた。

「ルディよ、顔をあげい」

「…………」

 ルディはゆっくりと顔を上げる。

 瞬間、柔らかく温かい物が唇に触れた。

「!!」

 ルディは目を大きく見開く。

 それがリーザの唇であるということを理解するのに、さほど時間はかからなかった。

 しばし時が流れる。

 やがて二人は唇を離した。

「あ、あの……」

 ルディはドキドキ鼓動を高鳴らせながら、リーザを見る。

「これが、おんしに対する罰じゃ」

 リーザは恥ずかしそうに微笑む。

 遠くで鳥の鳴く声が聞こえた。

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