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プルーム森の吸血姫  作者: 杠葉 湖
第4章 恩讐を超えて
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第4章 恩讐を超えて 8

「ガハッ!」

 ルディは血を吐き出すと、そのまま崩れ落ちるように膝をついた。

 地面に降り積もった白い雪が、鮮やかな赤い血に染まっていく。

「ル、ルディ!?」

 リーザは狼狽した様子で、ルディを見る。

 彼女も決して軽傷とは言えなかったが、彼のその傷は、明らかに生命に影響を及ぼす深手であることは一目瞭然であった。

「しっかり!しっかりするんじゃルディ!!」

 リーザは必死にルディに声をかける。

「リ、リーザ……」

 ルディは口元からは血を垂らしながら、弱々しく顔を上げた。

「よかった……無事……だったんだね……」

「この大馬鹿者が!わらわを庇う真似なんぞしおって!」

 リーザに叱責されたルディは、彼女に向かって弱々しく微笑む。

 リーザにはその笑顔がとても痛々しく、彼女の心に深く突き刺さった。

「待っておれ!今、手当をするからの!」

「無駄だよ……」

 ルディは震えた手を伸ばし、リーザの肩に手をかける。

「リーザ……ボクの血を吸うんだ」

「な、何を!?」

 ルディの突然の言葉に、リーザは戸惑いの声を上げる。

「このままでは、確実に父さんに殺される……だから、ボクの血を吸うんだ」

「それはできぬ!そのようなことをすれば、おんしは!」

 リーザは首を力強く横に振る。

「リーザ……ゴメン……」

 不意に、ルディはリーザを抱き寄せて、唇を重ね併せた。

「!!」

 リーザは目を見開く。柔らかい唇の感触を伝って、懐かしい血の味が口の中に入ってくる。

 リーザはそのまま瞳を閉じた。

 決して忘れられない、甘美な味。

 リーザの吸血衝動が高まっていく。

 やがて、ルディは唇を離した。

 リーザはゆっくりと目を開ける。

 時間にして十秒程度であったが、それはリーザにはとても長い時間に思えた。

「おんし……何を……」

 リーザは突然の出来事に戸惑いながら、ルディをみる。

「ゴメン……」

 ルディは小さく呟いた。

「だってボクは……君のことが好きだから……」

 そして、崩れるように前屈みに倒れる。

「お、おい!?」

 リーザは彼を抱き留めた。

「……このたわけが……わらわをこのような気持ちにさせおって……」

 リーザは表情を変える。そしてルディを抱きしめたまま大きく口を開けると、彼の首筋に牙を突き立てた。

 ビクン、とルディの体全身が脈を打ったように震える。

 リーザは構わず、彼の体から溢れ出てきた血を吸い上げた。

 甘く、濃く、優しい味。

 様々な思い出、感情が、リーザの全身を駆け巡っていく。

 吸血行為をしばらくしていないリーザにとって、それは今までに感じたことのない快感であった。

(ルディよ……おんしを絶対死なせたりはせんからの!)

 瞳の色が、黒から赤に変わる。

 やがてルディの首筋から口を離すと、ルディを静かに地面へ横たえた。

「待っておれ。すぐに終わらせるからの」

 ルディに優しく微笑むと、表情を険しい物に変え、肩に刺さっていた矢を抜き、雪面へと投げ捨てる。

 そして雪面に堕ちていたレイピアを拾い上げると、レスナーに向かって構えた。

 レスナーも弓を背中にしまうと、大剣を身構える。

「その死に損ないを使ってパワーアップしたつもりか?吸血鬼よ」

「ぬかせ。わらわの従者を侮辱することは許さんぞ」

「なら、その従者共々、冥土に送ってやる!」

 レスナーはリーザに向かって駆けだした。

「それはわらわのセリフじゃ!」

 リーザもレスナーに向かって駆け出す。

 そして互いの攻撃が届く距離になり、先にレスナーが仕掛けた。

「むぅん!」

 なぎ払うように大剣を水平に振る。

 リーザをそれをかがんでかわし、すぐさま体勢を立て直すとレイピアをレスナーめがけて突きだした。

 しかし、レスナーはそれをかわし、続けざま剣を垂直に振り下ろす。

 リーザは横に避けると、レイピアを振り下ろす。

「無駄だ!!」

 レスナーは大剣を振り上げる。

 レイピアの刃先が折れて、空中に飛んでいく。

「あ、ああっ……」

 リーザは絶望の声を上げた。

「これで終わりだ!吸血鬼!!」

 レスナーは残忍な笑みを浮かべると、そのまま大剣を振り降ろした。

「ぎゃああああ!!」

 リーザの断末魔とともに、彼女の体が左右へ真っ二つに割れる。

「終わったな」

 レスナーがニヤリと笑う。

 しかし次の瞬間、真っ二つになった体が霧となって消えた。

「何!?」

 驚きの声を上げるレスナー。

「もらったぞ!!」

 背後の空から現れたリーザが、レスナー目がけて急降下してきた。

「くっ!!」

 レスナーは一八〇度回転し、大剣を振り上げる。

 それはリーザの額を捕らえて、二つに割った。

 しかし、それもすぐさま霧状に変化し、霧散する。

「こっちじゃ!!」

 そのすぐ下で、リーザがレスナー目がけて突進する。

「こわっぱが!!」

 レスナーは大剣を振り下ろした。同時に、リーザがレイピアを突き出す。

 そして、二人の影が交錯した。

 ビュウウウウウ……

 肌を突き刺す冷たい風が、粉雪を伴い吹き抜ける。

 リーザが着ているタキシードの肩の部分がビリリと破れ、血が勢いよく噴き出した。

 リーザは苦痛に表情をゆがめる。

 レスナーは残忍な表情を浮かべた。

 しかし、その額にはレイピアの剣先が突き刺さっていた。

「貴様の敗因は、わらわと、わらわの従者をバカにしたことじゃ」

 リーザはレイピアを額から引き抜く。

 傷口から勢いよく血が噴き出し、レスナーはそのまま雪面へと倒れた。

「……父様、母様、ついに、ついにやりました。わらわは、わらわは憎き怨敵をこの手で討ち、一族の敵を取りました」

 そして天を見上げる。知らず知らずのうちに、涙がこみ上げてきて、目からこぼれ落ち続けた。

「ううっ……ひっく……父様、母様……!」

 リーザはレイピアを雪面に置くと、声を殺し、むせび泣いた。

 少しばかりの間、リーザの嗚咽の声が、辺り一帯に響き渡る。

 やがてリーザは目元をぬぐうと、レイピアを右手にとって、目の前にかざした。

「汝、仮初の姿に戻り、汝のあるべき場所へと還元せよ」

 するとレイピアは光り輝き、リーザの着ているタキシードの右腕の腕章になって収まる。

 リーザはそのままルディの元へと歩み寄った。

「待たせたの」

 リーザはルディの背中深くに突き刺さっていた矢を抜くと、雪面へと投げ捨て、彼を抱え上げる。

「……終わったの?」

 ルディは少しだけ目を開けた。

「ああ。おんしのおかげでな」

「そう……それはよかった……」

 ルディは力なく笑う。

 リーザは寂しそうに笑った。

「それじゃあ、帰ろうかの。わらわの館へ」

「うん……そうだね……」

 ルディはそれだけ言うと、ゆっくりと目を閉じる。

「ほんに、仕方のない奴じゃ……」

 リーザの目からは、再度涙がこぼれ落ちていた。

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