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プルーム森の吸血姫  作者: 杠葉 湖
第4章 恩讐を超えて
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第4章 恩讐を超えて 4

 その日は珍しく雪も雨も降っていないと言うことで、ルディは苦労する事なく館を出た。

 いつもなら館を出るとすぐに襲ってくる痛みを伴う寒波も、全てが白の世界で閉ざされる視界不良も、今日はない。

(でもなんだろう。この胸騒ぎは……)

 ルディは胸の辺りを押さえた。

「どうかしたのかえ?」

 そんなルディの不審な様子に、リーザが声をかける。

「何でもないよ」

 ルディは平静を装うが、リーザはニヤリと笑った。

「無理はよくないぞ?おんし、大分うなされておったようじゃからのう」

 ルディは表情をこわばらせる。

「……見てたの?」

「無論じゃ」

 リーザは頷いた。

「おんしが食した幻覚キノコの効能をこの目でしかと確かめねばならんかったからのう」

「そう……」

 ルディは呆れたように、ため息をつく。

「それで、リーザ様はついてくるの?これから食料採取に行こうとしてるボクの後を」

「バカを申せ」

 リーザはルディの質問に、今度は否定する。

「最近館に閉じこもってばっかりじゃったからのう。天候はいいとは言えぬが、仕方あるまい。わらわもたまには外に出て運動せんとの」

(だったら館の中を掃除してよ!)

 ルディは心の中で叫ぶ。

 慣れてきたとはいえ、館の掃除は重労働であった。

「そんなことより。ほれ。はよいかぬと、雨やら雪やらが降ってきてしまうぞ?」

 リーザはルディに行動を催促する。

(……大丈夫だよな……)

 ルディは持っていた弓の弦をピンとはじいた。

 弦は振動して、動きを止める。

 続いて腰の辺りにつけた鞘から剣を抜き、天にかざす。

 折れていたり、ひびが入っているなど、特に問題は見当たらない。

「どうかしたのかえ?」

 リーザが不思議そうに尋ねるが、ルディは静かに首を横に振った。

「なんでもないよ」

 そして、剣を鞘に仕舞う。

「それじゃあ、行くかな」

 ルディは手に息をかけると、歩き出した。

 リーザがその後をついてくる。

 雪はやんでるとはいえ、連日の降雪の影響でそれなりに積もっている。

 森の木々も真っ白に染まっていた。

 その木々の間を、キュッキュッと心地よい音を立てながら新雪を踏みしめる音が2つ。

 その音の後に、2組の足跡がつく。

 無言でいるのも気まずいので、ルディは話しかけることにした。

「ところで、リーザ様はボクがここに来るまでは、どうやって冬は生活していたの?」

「そうじゃのう」

 リーザは思案気な表情を浮かべる。

「赤い果実酒を飲んでおったかの?」

「赤い果実酒?」

 ルディは嫌な予感を覚える。

 しかしリーザはかまわず続けた。

「おんしが感じているように、冬のプルーム森は極端に食料が手に入りにくくなるからのう。そこで、わらわは町や村に行って……」

「わ、わかったから。もういいよ」

 ルディは慌てて遮る。

 そんなルディを見て、リーザは冷たく笑った。

「まぁ、今年は大丈夫じゃな。おんしという非常食があるからの」

「…………」

 リーザの笑えない冗談に、ルディはそのまま無言になってしまう。

(ひょっとして、これが胸騒ぎの正体……?)

 ルディの脳裏に一瞬予感がよぎるが、すぐさま消えた。

(いや、違う……一体何だって言うんだ。この胸騒ぎは……)

 そんなルディの心配事などお構いなしの様子で、リーザは話しかけてくる。

「しかし、おんしも酔狂よのう。こんな人里離れた森に迷い込んでくるとは。何か目的があったのかえ?」

「ま、まぁ、ちょっと……ね……」

「ま、わらわには関係ないことじゃがな。おかげでおんしという玩具が手に入ったわけじゃから」

「…………」

 そんな感じでたわいのない雑談を交わしながら、森の木々をかき分けるように歩き続けること20分。

 目前の丘の上に、小動物が現れた。

 色が白く、耳が長く、つぶらな瞳でルディ達を見ている。

「アレはスノーハーゼではないか。冬眠から目を覚ましてしまったのかの」

 リーザは物珍しそうに言った。

「ルディよ。おんしに厳命する。あの獲物を、絶対に逃すでないぞ」

「はいはい。わかりました」

 ルディは剣の反対側の腰にくくりつけていた入れ物から矢を一本取りだし、弦にセットすると、狙いを定める。

 小動物はひょこっと姿を消した。

「逃がさない!」

 ルディは勢いよく弦を弾いた。

 矢が獲物目掛けて飛んでいく。

 矢はそのまま丘を越えて見えなくなった。

「……ハズレじゃな」

「当たったって!」

 ため息をつくリーザに、ルディは反論する。

「ちゃんと当たった証拠見せるから!」

 そして足早に、矢の飛んでいった方向へと向かう。

「ほんに、子供じゃのう……」

 リーザはヤレヤレとため息をつく。

(リーザの奴、いつもいつもボクを馬鹿にして!ボクだってやる時はやるんだ!)

 一方ルディは、少し怒りを覚えながら丘を登る。

 丘の上につくと視界が開け、広場のようなところに出た。

 遠目ではわからなかったが、まるで意図的に伐採されたかのように、その空間だけ木が生えていない。

(こんなところあったんだ……)

 ルディは物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回し、少し離れたところに目的の獲物が倒れているのを発見した。

(ほら見ろ!)

 ルディは足早に仕留めた獲物の元へと向かう。

 そして獲物の元にたどり着き、絶句した。

 獲物は確かに、矢に胴体を貫かれて絶命していた。

 しかし、その矢は2本刺さっていた。

 ドクンドクン

 ルディの鼓動が急に高鳴る。

「一体誰が……」

「……よもやこんなところで会うとはな……」

 突如発せられた抑揚がない声に、ルディは思考を停止させる。

 聞き覚えのある声。

 しかし、決して聞きたくなかった声。

 ルディは恐る恐る、声のする方角を振り向く。

 果たしてそこには、大きなマントを羽織り、弓を手にした、大柄の男が立っていた。

 表情は厳つく、冷たい目で、ルディを見下すように見ている。

「久しぶりだな」

 ルディの額から汗が滴り落ちる。全身が震えて言うことをきかない。それでも、声を絞り出した。

「父……さん……」

 まるでルディの心情を表すかのように、鈍色の雲から大粒の雨が墜ちてきた。

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