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プルーム森の吸血姫  作者: 杠葉 湖
第4章 恩讐を超えて
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第4章 恩讐を超えて 1

 季節は移り、ノーザン地方に厳しい冬がやってきた。

 野獣の咆哮のような音を立てながら、連日雪が吹き荒れ、瞬く間に全てを冷たく凍える世界へと変えていく。

 冬眠の準備をしていた動物達は巣穴へと引きこもり、色とりどりの葉を散らした森の木々は、寂しげな枝に白い帽子をかぶらせる。

 当然手に入る食料も少なく、ただでさえ厳しい天候の上に、視界不良、さらには痛みを感じる冷気が凶器となって襲いかかり、食料採取も連日命がけの日々が続いていた。

 その日もルディは、背負った籠と頭の上に雪をたっぷりとのせて、身を激しく震わせながら、館へと戻ってきた。

「た、ただいまぁ……」

 かじかむ手で扉をゆっくりと開けると、頭やコートの肩に積もっていた雪を払いのけて、館の中へと入る。

 そしてギギギと鈍い音を立てながら扉を閉めると、重い足取りで暖炉のある部屋へと向かった。

 館の中は薄暗く、外の冷気の影響もあってかなり寒い。

 しかし、それ以上に体を冷たくしていたルディには、この環境でも暖かく感じられた。

 暖炉のある部屋では既にリーザが先客としており、椅子に腰掛けて書物を読んでいた。

「今、戻りました……」

「遅かったのう。あまりにも遅かったゆえ、わらわはてっきり、おんしがのたれ死んだのかと思ったぞ」

 ルディの言葉に、リーザは振り向くこともせずに、本に視線を落としたまま答える。

「そ、そんなわけないでしょ……さぶい……」

 ルディは背負っていた籠を降ろすと、煌々と赤く燃え盛る暖炉の炎の前に陣取り、手を何度もこすり併せた。

「はぁ……あったかい……」

 そして、幸せそうな表情を浮かべる。

 時折パチパチッと音を立てて火の粉が飛び上がる暖炉の炎は、今まで冷たく孤独な世界にいたルディの心を癒やしてくれた。

「おんし、よくそんな些細なことで幸せそうにできるのぅ」

 リーザは抑揚のない声で話しかけると、ペラッと音を立てて本のページをめくる。

「幸せだよ。生きてるって素晴らしいね」

 ルディは着ていたコートを脱ぎ、メイド服姿になると、再度暖炉の前で手をこすりあわせた。

「暖かいなぁ……」

 そして時折両手にフーフーと息を吹きかけ、炎の前にかざす。

「ふぅ……」

「……おんし、先程からため息ばかりではないか」

 リーザはパタンと本を閉じて机の上に置き、椅子から立ち上がると、ルディに歩み寄った。

 そして、彼の近くに置かれた籠の中身を確認する。

「何じゃこれは?キノコしか入っておらぬではないか」

 リーザは呆れたように言う。

「おんし、あれだけ時間をかけて、たったこれだけしか食料を採種してこなかったのかの?わらわを餓死させる気か?」

「そんなこと言ったって、外があんな感じじゃ、仕方ないじゃないか。歩き回るのも苦労だよ」

「言い訳はよい。おんしはわらわの従者じゃぞ?主人を餓死させる従者がどこにおるのじゃ」

「無茶言わないでよ。大体、こんな天候で出歩かせる方がどうかしてるよ。リーザ様はボクのこと、どう思ってるのさ?」

「そうじゃな……」

 リーザは籠の中をガサガサと漁り、ぶっきらぼうに答える。

「好きじゃな……」

「えっ!?」

 その言葉に、ルディは鼓動をドキンと高鳴らせる。

 しかしリーザは普段と変わらぬ様子で、籠から手を出すと、掴んでいたキノコをルディの前に差し出した。

「おんしも稚拙な計略を巡らせるのが好きじゃな、と言ったのじゃ。このようなモノを採ってきおって」

「えっ……」

 リーザの言葉の意味がわからず、ルディは困惑する。

 リーザはニヤリと笑った。

「知らぬとは言わせぬぞ。これは強烈な幻覚を見せるキノコじゃからな。大方、わらわに食べさせて幻覚を見せている間に逃げ出す算段だったんじゃろうが、そうはいかぬ。これは没収じゃ」

 リーザはそのままポケットへとしまい込む。

「それよりも、いつまでそうしておるつもりじゃ?わらわは腹が減った。はよ、夕餉の準備をして参れ」

「えーっ?」

 ルディは不満の声を上げた。

 ここから離れたくない、心の底からの本音が、言葉になって現れる。

 しかりリーザはお構いなしに、

「何じゃ?嫌と申すか?なら、おんしがわらわの夕餉になると言うのか?」

 と言って口を開け、牙を見せた。

「い、今すぐ作ってきます!」

 ルディは慌てて立ち上がり、籠を持つと、足早に部屋を出て行く。

「……ふん」

 誰もいなくなった部屋の中で、リーザは椅子に腰掛けると、そのまま本を読み始めた。

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