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プルーム森の吸血姫  作者: 杠葉 湖
第3章 心重ねて
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第3章 心重ねて 7

 やがて宴も終わり、ひっそりと静まりかえった夜の村道。

 星と月上がりが照らす中、リーザとルディが肩を並べて歩いていた。

「なかなか楽しかったのぅ。辺境にしては立派な収穫祭じゃった」

「うん、そうだね」

 ルディは振り返ると、名残惜しそうに、遠ざかっていく村の広場の方を眺める。

「これでまた、来た道を戻ってリーザの屋敷に戻らなくちゃいけないんだよね」

「そうじゃ。館に戻ったらやることがたくさん待っておるからの。時におんし、何か重要なことを忘れておらんかの?」

「重要なこと?」

 ルディは首をかしげる。

 リーザはため息をつくと、ルディを冷たい瞳で見つめた。

「誰がいつ、わらわのことを呼び捨てにしてよいと許可したのじゃ?」

「あっ!!」

 途端にルディは青ざめた。

 村祭りがあまりにも楽しく、隣にいる吸血鬼の呼び方まで注意を払うのを忘れていたのだ。

(どどど、どうしよう!さっきリーザが言っていた「やることがたくさん待っている」っていうのは、きっと拷問に違いない!とと、とにかく謝らないと!)

 ルディはその場に正座で座り込んだ。

「もも、申し訳ございませんリーザ様!私のような下賤の者が、リーザ様を呼び捨てにするなど!」

 そして手のひらを地面につき、額を地べたにこすりつける。

「心にもないこと言いおって。そんな謝罪をされて、わらわが許すと思ったのか?」

 リーザは冷たく言い放つが、表情を和らげた。

「顔をあげい、ルディよ。わらわはそんなことでは怒ったりせぬ」

「ほ、本当に?」

「本当じゃ。ついでに言うと、はよ立たぬと本当に怒るがの」

「は、はい!今立ち上がります!」

 ルディはそそくさと立ち上がる。

「まったく、おんしは早合点しすぎじゃ」

 リーザは肩をすくめる。

「わらわがおんしに対して折檻など、無粋なことをすると思ったか?するわけなかろう」

「え?でも……」

「今宵のわらわは機嫌がよいのじゃ。おもしろい余興も見られたし、うまい物もたらふく馳走になったし、何よりおんしと踊ることができたからのぅ」

 そして、にこやかに微笑む。

(ドキン!)

 今まで見たことのないリーザの表情に、ルディの胸は高鳴った。

 それはどこにでもいるような少女の柔和な笑顔で、いつも感じている冷たい殺意など、微塵も感じられない。

(か、かわいい……)

 ルディは心の底からそう思った。

 ドキドキドキと、ルディの鼓動が早くなっていく。

「どうした?おんし、顔が赤いぞ?」

「な、なんでもないよ!!」

 ルディは慌ててそっぽを向いた。

「変な奴じゃの」

 リーザはクスッと笑うと、そのままルディの背後から抱きつく。

「えっ!?」

 突然のリーザの行動に、ルディは驚きの声を上げた。

「リ、リーザ様!?」

「しかし、罰は罰じゃ。あんなことを言ったおんしには、きちんと責任をとってもらわんとのぅ。しかと目を瞑るのじゃぞ」

 リーザは耳元でささやき、ふぅっと息を吹きかける。

「!!」

 ルディは硬直し、ギュッと目を瞑った。

(血を吸われる!!)

 ルディの脳裏に、短かった人生が走馬燈のように駆け巡っていく。

(短い人生だった……)

 ルディは心の中で、やりきれないため息をついた。

 1分、2分、3分……

 しかし、時が流れて行くが、いっこうに痛みを感じない。

(……あれ?)

 ルディは心の中で呟いた。

 首筋に痛みは感じない。

 代わりに、体が軽くなったような、浮遊感がある。

(……なんだこれ?)

「もう目を開けてもよいぞ」

 リーザの声に、ルディはおそるおそる、目を開ける。

 そして飛び込んできた光景に、あっと驚きの声を上げた。

 それは、遙か遠くに離れた地表と、いつもより近い星空の光景であった。

「えっ!?えええっ!?」

 ルディは理解できない事態に、手足をバタバタとばたつかせる。

「こ、これ!暴れるでない!」

 背後からリーザの声が聞こえてきた。

「リ、リーザ様!?これは一体……」

「見てわからんのか?おんしを抱えて飛んでおるのじゃ」

 戸惑いの声を上げるルディに、リーザが笑いながら答える。

「おんし、高いところが苦手じゃろ?わらわを呼び捨てにした罰じゃ」

「いや、ボクは別に苦手って訳じゃ……」

「なんじゃ?そうなのか?」

 リーザは残念そうに言うが、すぐさま声の調子を戻す。

「まぁよい。わらわは機嫌がよいからの。出血大サービスじゃ。このまま飛んで帰るから、おんしも夜空の散歩を楽しむがよいぞ」

「あ、ありがとう」

 ルディは戸惑いながらもお礼を述べ、改めて地表を観察する。

 そこには、ルディの知らない光景が広がっていた。

 いつもは大きく感じる森の木々も、豆粒大くらいの大きさしかない。

 遙か遠くにそびえ立つ山々。

 月と星明かりが反射して、水面を輝かせる湖。

 そのどれもが、ルディにとっては未知の、新鮮な光景であった。

(リーザはいつもこんな光景を見ているのか……)

 ルディは背後で自分を抱えている吸血鬼の少女のことを思い浮かべた。

 いつもは自分に辛くあたる吸血鬼。

 いつもは人間のことなど何とも思っていない吸血鬼。

 しかし、今はいつもよりも楽しそうな雰囲気が感じられる。

 ルディにとっては、今まで見たことのない彼女の姿が、そこにはあった。

(あんな表情もできるんだよな……なのに、どうして……)

 ルディは先ほど楽しそうに踊っていたリーザを思い浮かべ、ハッとする。

(ひょっとして……寂しかった……?)

 ルディは改めて、過去の彼女のことを思い出してみた。

 笑うことはあっても、どこか影があり、どこか寂しそうであった。

 心の底から笑っている彼女の姿など、一度も見たことがない。

 それなのに、先ほど見せた、あのあどけない笑顔。

 ルディの鼓動が高鳴る。

(罰とか言ってるけど、ひょっとしてボクにこの光景を見せたかったから飛んでるんじゃ。じゃなきゃボクを抱えて飛ぶなんて事……)

 ルディはそこで思考が止まった。

 抱えて飛ぶと言うことは、密着していると言うことである。

 そして、柔らかい膨らみの感触が2つ、ルディの背中に感じられた。

「…………」

「どうしたのじゃ、おんし?」

 急に黙りこくったルディに、リーザが不思議そうに尋ねる。

「な、なんでもないよ……」

 ルディは顔を赤らめたまま、地表に顔を向ける。

「おかしな奴じゃの」

 リーザはクスクス笑いながら、自分の館へ向かって飛んでいく。

(ひょとしてボク……この吸血鬼のことが好きになってしまった……?)

 ルディは一言も発せないまま、ぼんやりと森の木々を眺め続けるのであった。

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