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プルーム森の吸血姫  作者: 杠葉 湖
第2章 忌まわしい記憶の彼方に
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第2章 忌まわしい記憶の彼方に 7

「ただいまー……」

 ルディが館に戻ってきたのは、既に陽も沈み、月と星が空に浮かび輝く時分であった。

「何じゃ?ずいぶん遅かったのう」

 疲れきった様子で館に入ってきたルディを、ワインレッドをさらにどす黒くしたような色のドレスを着たリーザが出迎える。

「わらわはてっきり、おんしが逃げ出して戻ってこないものとばかり思っていたのじゃがな」

 リーザはニヤリと笑いながら、ルディを見る。

「今宵は久方ぶりの血まみれパーティーじゃと胸を躍らせて町に行く準備をしていたのじゃが。惜しいことをしたのう」

「それは残念だったね、リーザ」

「リーザ、じゃと?」

 呆れるようなルディの言葉に、リーザはピクリと眉をひそめる。

「あ、いや、リーザ様」

 ルディは慌てて言葉を訂正した。

「……まあ、よいわ」

 リーザは前で腕組みしながら、ルディを見る。

「で、何故こんなに時間がかかったのじゃ?」

「行った洞窟にキングファルクがいたからね」

「キングファルク、じゃと?」

 リーザはその単語に、考え込む仕草を見せる。

 そして間を置いて、ポンと手を叩いた。

「おお。そう言えば。昔、あの洞窟を根城にしていた盗賊の噂を突然聞かなくなったことがあったかのう。そうかそうか。アレはあやつらの仕業じゃったか」

「知ってたなら先に言ってよ!おかげでこっちは死にそうになったんだから!!」

 抗議の声を上げるルディに、リーザはフッと笑う。

「何を情けないこと言っておるのか。おんし、男じゃろ?それくらいの危機を乗り越えられないでどうする?」

「ぐっ……」

「まぁ、ファルク如きに後れをとるおんしでもなかろう。服がボロボロなところを見ると、随分と苦戦したようじゃが。それよりも」

 リーザはそう言って手を前に差し出した。

「わらわへの土産は?」

「そ、そうだった」

 ルディは言われて、洞窟で手に入れた純白のドレスを袋から取り出し、リーザに差し出す。

「リーザ様に一番似合うと思う衣装を持ってきました」

「ふむ」

 リーザはドレスを受け取ると、それを広げて自分の体に合わせてみたり、マジマジと見つめたりする。

「……まぁ、この程度じゃろうな」

 そしてため息をついた。

(あれ?)

 その素っ気ない態度に、ルディは違和感を覚える。

(ひょっとして……選択を間違えた?)

 そして、徐々に恐怖感が高まっていく。

(どどど、どうしよう!このままじゃ殺される!!)

 ルディはとっさに、拾ってきた石のような物体のことを思い出した。

「あああ、あの、これも!!」

 すぐさま袋から取り出し、リーザに差し出す。

「そ、それは!?」

 リーザはそれを見るや、途端に目の色を変えて、ルディから奪い取るように受け取った。

 そして、天にかざしたり、叩いたり、じっと凝視したりして、一通り確認したあと、ルディを見る。

「おんし、これをどこで!?」

「洞窟の中で、だけど……」

「そうか……そんなところに……」

 リーザはギュッと、その石を握りしめる。

「あ、あの……それは……?」

 困惑しながら尋ねるルディに、リーザは遠いところを見るような視線になりながら、語った。

「これはな、『レジネ鉱石』と言って、大変貴重な鉱石なのじゃ。その昔、わらわが父様にもらった物での。とても大切にしていたものじゃ」

「えっ!?リーザ様の物だったの!?」

「そうじゃ。吸血鬼にしか見えない文字でわらわの名前を書いておいたから、間違いない」

「でも、そんな大切な物がどうしてあんなところに?」

「……奪われたのじゃ」

「え?」

「人間に奪われたのじゃ。わらわの父様や母様が殺された、あの忌まわしい夜の日に」

「…………」

 ルディは何も言えなかった。

 初めて、リーザが抱える心の闇に触れたような気がした。

 それはとても深く悲しく暗い物で、近くにいるだけで自分も呑まれてしまう。

 そんな恐ろしささえ感じた。

「ルディよ。礼を言うぞ。わらわの大切な宝を見つけてくれて」

「い、いや、それほどでも……」

 ルディは苦笑する。

 踏んづけてしまった、などとは口が裂けても言えない。

 ルディの額にうっすらと汗がにじむ。

「見てみい。この鮮やか赤色を。まるで血の色のようじゃ」

 リーザは上機嫌で鉱石を撫でる。

 そして思い出したように、ルディを見た。

「そうそう、おんしが持ってきたこのドレスじゃがな。わらわとしては、とりあえず合格じゃ。大切に使わせてもらうぞ」

「本当!?よかった……」

 リーザの言葉に、ルディはやっと安堵の表情を浮かべる。しかし、それを見てリーザは蔑むような冷笑を浮かべた。

「ああ。本当じゃとも。ちなみに、わらわが着ているこのドレスも、元は白だったのじゃぞ」

「えっ!?」

 予期せぬ言葉に、ルディは嫌な予感を覚える。

「どうやってこの血の色に着色したのか、知りたいかえ?」

 そしてリーザは口を開き、牙を光らせる。

「いえ、いいです……」

 ルディは即座に首を横に振る。

 彼の全身には言いようのない悪寒が駆け巡り続けた。

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