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プルーム森の吸血姫  作者: 杠葉 湖
第2章 忌まわしい記憶の彼方に
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第2章 忌まわしい記憶の彼方に 5

 そして翌朝。

 昨日支給されたメイド服姿のルディは、剣を携え、洞窟の前に立っていた。

「ここ……だよな……」

 リーザに渡された手書きの地図と、洞窟の入り口を見比べながら、ルディは呟く。

 本当なら洞窟に来ずにこのまま逃げ出してもよかったのだが、「おんしが逃げたら近くの町の人間を皆殺しにするとしようかの」とリーザの宣告されたため、ルディに逃げ道は残されていなかった。言わば人質を取られているようなもので、人のいいルディには、見ず知らずの人質を見殺しにすることはできなかった。

 もし仮に見殺しにしたのなら、自分のせいで殺されてしまった人々への罪悪感から、自ら命を絶つであろう。

「ホント、迷惑だよな……なんでボクがこんな事……」

 ルディはため息をつくと、たいまつに火をつけた。

 洞窟の中は、まるでルディの運命を暗示するかのごとく、闇に染まっている。

「……何事も起こりませんように……」

 ルディは神に祈りを捧げると、たいまつを照らしながら洞窟の中へと入っていく。

 洞窟の中はひんやりとしており、それでいて空気が乾いていた。

 人五人が並んで歩けるくらいの広さがあり、ゴテゴテした岩肌が辺り一面を覆っている。

 物静かなため、自分自身の足音がとても大きく聞こえた。

(流石、盗賊が宝を隠していた洞窟のことだけはあるな)

 ルディはそんなことを思いながら歩を進める。

 しばらくばかり歩くと、道が二手に分かれているところにたどり着いた。

「……どっちだろう……」

 ルディは左右の道を見比べた。

 どちらもさして、変わりなさそうに見える。

 考え込むこと数分。

「……とりあえず、右に行ってみるかな」

 ルディは懐から取り出した地図の裏に先の尖った木炭でメモを行うと、それを再び懐にしまった。

 そして、たいまつを照らしながら先へと進む。

 しかし進むにつれ、ルディの直感が嫌な物を感じ取り始めていた。

(何だろうこの感じ……なんだか嫌な予感がする……)

 ルディはいったん歩みを止めるが、首を二度三度、横に振った。

(いやいやいや、ボクは何を臆病になっているんだ。こんなの気のせいだきっと)

 そして再び歩を進める。

(あんな冷酷吸血鬼と一緒に暮らしているせいで、普通の感覚が麻痺してるんだきっと。こんな洞窟、どうって事ない)

 自分に言い聞かせるように心の中で呟きながら、先へ先へと進む。

 しかし程なくして、その不吉な予感はすぐに現実の物となった。

「グルルルルルル……」

 低い、獰猛な唸り声がルディの足を止めた。

(な、なんだ今の……)

 ルディは不安な気持ちになりながら、たいまつの炎をその声の方へと向ける。

「グルルルル!」

 今度は先ほどよりも大きく声が聞こえると、その正体が姿を現した。

 それは血走った二つ目の目をぎらつかせ、全身に覆われた青黒い体毛を逆立たせ、涎を垂らしながら舌を出してルディに迫ってくる。

「フ、ファルク……」

 ルディは声を詰まらせながら、後ずさりした。

 ファルクとは体長130cmくらいの山奥に生息する怪物で、凶暴な性格から人々に恐れられている。

 四足で大地に立ち、獲物を見つけると俊敏な動きで相手に襲いかかり、鋭い牙を突き立て絶命へと追い込む。

 この怪物の特徴は群れをなして行動するところにあり、実際、ルディが発見した一匹の後にもう二匹、彼に殺気を放ちながら現れた。

「ぼ、ボクがファルク程度で、殺られると思うなよ!」

 ルディはたいまつをその場に置くと、右手で腰の鞘から剣を抜き、身構える。

 メイド服に剣とは、何とも妙な取り合わせだが、そんなこと言ってられない。

 まさに、油断が死に直結する状況である。

 ジリッ、ジリッ

 ファルクは一歩一歩、確実にルディとの間合いを詰めてくる。

 ルディの額から流れ落ちる汗。

 次の瞬間。

「ガウウウウ!」

 ファルクが一斉に襲いかかってきた。

「やあああああああっ!!」

 ルディは剣を振り下ろし、一匹目の頭に斬りつけた。

「てええええええっ!!」

 そして、そのまま左下から右上へ、直線的に剣を振り上げ、二匹目の体を斬りつける。

「グワアアアアアアア!」

「くっ!」

 ガチン、と三匹目がルディの腕を噛み砕こうとするのを寸前のところで交わしたルディは、倒れるような体勢になりながら三匹目の腹を斬りつける。

「ギャウウウウウウ!!」

 三匹は断末魔をあげると、そのまま地に身を横たえ、動かなくなった。

「ハァ、ハァ……」

 ルディは鼓動を高鳴らせたまま立ち上がると、二度三度剣を振り、ついた血を振り払う。

 そして剣を鞘に収めた。

(し、死ぬかと思った……)

 ルディは胸に手を当て、二度三度と、大きく深呼吸をする。

 怪物との戦闘はこれが初めてではない。

 むしろ、修行するために、自分を鍛えるためにプルーム森へとやってきたルディにとっては、怪物との戦闘は望むところで、本来の目的を果たしたともいえる。

 しかし、どちらかというと戦うことが苦手なルディにとっては、戦闘自体が命がけの行為であった。

「ホント、あの吸血鬼のせいでロクな目に遭わないよ……」

 ルディはたいまつを拾い上げ、ファルクが現れた方へと進む。

 そして、少し進んだところで、立ち止まった。

「……冗談じゃないよ……」

 ルディは絶望的な気分で呟く。

 たいまつの明かりは、下へ降りる階段を照らしていた。

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