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プルーム森の吸血姫  作者: 杠葉 湖
第2章 忌まわしい記憶の彼方に
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第2章 忌まわしい記憶の彼方に 4

「ななな、なんでこんなところに!?」

 ルディは額に汗を浮かベ、視線をそらしながら言葉を絞り出す。

「何故って……禊ぎのために決まっておろう。最近オスが一匹紛れ込んだせいで、館の中が獣臭くてかなわんからのう」

 リーザはにやりと笑う。

「で、わらわの裸体を見た感想はどうじゃ?何?女神のように神々しかったと?そうかそうか。それなら仕方ないのう」

「い、いいから早く、何か着てよ!」

 見せつけるようにポーズをとるリーザに対し、ルディは顔を真っ赤にしながらリーザに背を向ける。

「ほんにウブな奴じゃのう……わらわはおんし如きに裸体を見られたところで、何とも思わんというのに」

 リーザの一言がルディの胸に突き刺さる。

(それってボクを男としてみてないって事かよ!)

 ルディはそう叫びながら振り向きそうになるのを、辛うじてこらえた。

 リーザの露骨な挑発に乗って振り向いたところで、何をされるかわかった物ではない。

 それに、吸血鬼とはいえ裸の少女を前に、平静を保てる自信がルディにはなかった。

「仕方ないのぅ」

 リーザは挑発をやめると、近くにおいてあったタオルで体を拭き始めた。そして、着衣をまとう。

「ほれ、もうよいぞ」

「…………」

 ルディは恐る恐る、リーザの方を振り向く。

「…………!」

 そして、そのまま言葉を失った。

 そこには先ほどとは打って変わって、ワインレッド色をさらに黒くしたような色のドレスを身にまとったリーザがいた。

 いつものタキシード姿とは違い、女性らしさを感じる。

 その高貴な独特のオーラから、ルディの口からついつい率直な感想が漏れてしまう。

「お姫様……」

 果たして、その言葉をリーザは聞き逃さなかった。

「そうかそうか。お姫様か。まぁ、確かにわらわはプルーム森の姫じゃからな」

 リーザは上機嫌になりながら、いろいろとポーズをとってみせる。

「ルディよ、わらわが許す。今宵は思う存分、わらわに見惚れるがよいぞ」

 しばらくその様子をマジマジと見つめていたルディであったが、ハッと我に返り、素朴な疑問を口にした。

「ど、どうしてそんな格好を……?」

「どうして……じゃと?」

 ルディの言葉に、リーザはピタリと動きを止める。

「おんし、覚えとらんのかえ?」

「えっ?何を?」

「そうか……覚えとらんのかえ……」

 リーザは一転して悲しそうな表情を見せる。

(な、なんだなんだ?)

 ただならぬ様子に、ルディは悪寒を覚えながら、恐る恐る尋ねた。

「ひょっとして、ボクが何かした?」

「うむ」

 リーザはコクンと頷く。

「おんし、昼間倒れたじゃろ?わらわがおんしを部屋まで運んだんじゃが」

「う、うん」

「そのとき、おんしが言ったんじゃ。わらわが違う服を着た姿も見たいとな」

「えっ!?」

 予想していなかった答えに、ルディは驚きの声を上げる。

「無論、わらわは断ったんじゃぞ?おんし如きに命令される言われもないし、ましてや、あのタキシードは代々一族に伝わる、言わばわらわのアイデンティティ、存在意義そのものじゃったからな」

「あ、あの服装にそんな意味が……!?」

「それなのに、おんしは違う服装が見たいとほざきおった。わらわの父から譲り受けた大切な服装を脱いで違う服を着ろと。あの惨劇で一族の血に染まったあのタキシードを脱げと。一体おんしは何様なのじゃ!と」

「え、えっと……」

「しかし、おんしが今にも死にそうじゃったからな。わらわも鬼ではない。おんしが少しでもよくなればと思い、こうして身を清め、おんしが喜びそうな服を身にまとった、というわけじゃ」

「………………」

 ルディは口をつぐみ、うつむいた。

 自分にそんなことを言った記憶が、全くない。

 しかし、意識が朦朧としていたのは事実であり、とんでもないことを口走ってしまった可能性もある。

「リーザ、その……ありがとう」

 ルディは上目遣いでリーザを見る。

「よいよい」

 リーザはニコニコしながら、次の瞬間、とんでもないことを口走った。

「おんしの態度に、わらわの怒りは絶頂じゃ。死刑決定じゃ」

「ええええええええっ!?」

 リーザの言葉に、ルディは青ざめる。

「ど、どうして!?」

「ひとつ。わらわはおんしに呼び捨てにしていいと許可した覚えはない。ひとつ。おんしはわらわに服を着替えさせるという屈辱的なことを強いたのにもかかわらず、そのことを全く覚えていない。ひとつ。わらわがおんしを部屋に運んだ時、わらわを押し倒して辱めようとした。よって死刑じゃ」

「そ、そんな……!!」

 言いがかりレベルの指摘に、ルディは下をうつむいたまま言葉を失う。

 しかし、リーザはそんなルディを見て、ニヤリと笑った。

「まぁしかし、このまま死刑にしたのでは、わらわが器量の小さい吸血鬼と思われかねん。そこで、おんしにはチャンスをやろう」

「チャンス……?」

 ルディは顔を上げて、リーザを見た。

「うむ。ここから半日ほど歩いたところに洞窟がある。そこには盗賊が隠した金銀財宝のお宝が眠っておるでの。そこから、おんしがわらわに似合うと思う服を持ってくるのじゃ」

「ええええっ!?」

 リーザの難題に、驚愕の声を上げる。

「と、盗賊の宝を盗んでくるなんて、ボクには無理だよぉ!」

「心配するでない。既に昔の話じゃ。今は、人間は誰もいない無人の洞窟じゃ」

「そ、そっか……」

 ルディはホッと胸をなで下ろす。

 もし盗賊がいたなら、とてもではないが今の彼では太刀打ちできないであろう。

「もっとも、おんしが断るのであれば、わらわが即、死刑を実行するだけじゃが」

 そして口を開き、牙を見せつける。

「わ、わかりました!行きます!行かせていただきますリーザ様!!」

 ルディは、首を縦に振るしかなかった。

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