裏法律
『【裏法律】』
ボソッと藤本が言う。
『【裏法律】が執行されたんだよ、君の父親に』
【裏法律】とは、2058年に政府が発表した非公開の法律に国民やメディアが名付けたもの。その内容を知るものは国の官僚の1%と最高裁判所長官だけと言われている。
国民は情報の開示を強く求めたが国は決して応じることは無かった。そして15年の時を経て国民のその記憶が薄れてきているというのが現状だ。
藤本の机の上にあった『㊙︎裏法律』のファイルをこちらの卓上に置く。そしてその中から一枚の紙を取り出しこちらに差し出す。
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裏法律(極秘)
第四章 潜入捜査行為
第一条
内閣総理大臣及びそれに決められた防衛大臣からの指名により国の内外に関わらず潜入行為を果たす者の成果が著しく悪い場合に執行することができる。
第二条
潜入行為をする者が〔放棄、情報の漏洩、失敗、行為の発覚〕、このうちのいずれかにも当てはまる場合次の刑を処することができる。
・20年以上の懲役
・5億以上の罰金
・(その者に12歳以下の後継(養子も含む)がいる場合)子供の強制保護。但し期間は存在しない。
基本的人権の尊重は無効となる。
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『君の父さんの職業は食品関係の仕事のはずだ。表向き、ではの話だが』
そして藤本はさらに驚くべきことを口にする。
『実は君の父さんは前職の自衛官を退職して、なんと驚きの20年間もお国のためにスパイ行為を続けていたんだよ。しかーし、つい先週やらかしてしまったんだよ。中国の甘〜い言葉に誘われて我が国の情報を半分も流してしまった。こちらとしても人選を誤ったことをとても後悔しているよ。』
父は昔、自衛隊に勤めていたなんて話は聞いたことがあったがスパイ行為なんてしているなんて欠片も感じさせなかった。
『情報を半分も流されてはこちらとしては「はい、そうですか」と流すわけにはいかないものでね。この紙の3つ目を執行したわけだ。まず、君の家には5億払えるほどのお金は無いはず。そして君の父親は罰を執行するまで3日考える時間が欲しいなんて言い出すもんだから、こちらから先手を打ったわけだ。夜逃げでもされたら堪ったもんじゃないからね。』
『ユイは、ユイはどうなる…。何かあったら許さねえぞ…』
父親に対する怒りよりユイのことが心配でならなかった。
『心配しなくてもいい、地下室でお休みになられているところだ。丁重に扱っている。なんせまだ幼い女の子だ取り扱いには細心の注意を払っているよ。』
その時、部屋にバイブ音が鳴り響いた。
『申し訳ない。スマホのアラームが鳴ってしまったようだ。』
そう言って藤本は左内ポケットに手を入れる。そしてスマホを取り出す…かと思われたが実際にスーツから出てきたのは一丁の拳銃だった。
『っ…!』
『おおっと、ポケットが逆だったようだ。すまないすまない。』
拳銃を戻し右の内ポケットからスマホを取り出しアラームを止める。
『そろそろ時間のようだ、地下室へご案内しよう』
手のひらの上で踊らされるとは正にこのことなのだと思った。流石、国の力だけはある。用意周到すぎて抜け目がない。父親が夜逃げしようとしたのを先回りで止め、長野県の山の奥という人目のつかないところまで呼び寄せる。銃をチラつかせることで間違っても反抗するなと牽制する。
いつの間に切ったのか口の中に鉄の味が広がっていた。
法律の書き方なんて詳しくないから正しくはないです。
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