後悔
まずい、まずい、まずいまずいまずいまずい!
ユイが誘拐された。あの時すぐに階段を降りていれば!俺がもっと言い聞かせていれば!プールに行こうなんて思わなければ!ユイを助けられたかもしれないのに…。
『くそっ!俺がしっかりしてないから!』
ガンッ!と机に拳を振り下ろす。その衝撃で机の上にあるものが飛び跳ね、大きな音を立てる。
ユイが誘拐されたのは昼の13時。親に連絡、警察に通報、近所の人への連絡等、いろいろなことをして現在23時になった。出来るだけのことはしたつもりだ。これからの自分たちにできることはただただ警察からの連絡を待つだけだった。
『ハルトのせいじゃないわ、私がもっと言い聞かせていたら….』
『まずは落ち着け!まずは状況を整理しよう、まず…』
まずを連発している父が一番落ち着いていない。俺が口を開く。
『ユイと俺がプールに行くっていうのは知ってるよね…』
『えぇ…』
『あぁ』
俺はあったことをすべて話した。居留守にしようとしたこと。男たちがユイの頬を殴ったこと、全てを。
母は半分聞こえてはないのではないかというほど泣いて、目が真っ赤になっていた。父は静かにして聞いていた。
『その男たち、どんな格好だった…』
静かな声で俺にきく。こんな真剣な父の顔を見るのは初めてだ。さっきまでの慌て様はどこに行ったのか。
『スーツ姿だった。それと2メートル弱くらいの身長…』
『そうか…』
少し間があって答えた。
『今日はもう寝よう。心を休めるんだ。俺が警察からの電話を待つ』
母は泣き疲れ果てたのか、すぐに寝むりに着いたようだ。おやすみと父に言って俺は自分の部屋に行く。
ユイの部屋は俺の部屋のとなりだ。ユイがいない部屋はとても静かだ。寝られるはずがなく一晩中ユイのことを考え続けていた。
ユイがいない夜はとても長く永遠にも感じられた。