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チャイム

『おにいちゃーん!おそーい!』

『はいはい、今行くから』


 毎年この時期になると嗅ぐこの匂い。プールバックのビニールの匂いが水々しい感覚を思い出させる。風を通すために開けた窓からは野球部の暑苦しい掛け声が入ってくる。本日8月上旬、日本列島では9割の観測地域で夏日及び真夏日となった。

 ここは、東京都。天気は雲ひとつない快晴、最高気温32度と夏本番を感じさせる気温。とにかく暑い。

 先程から俺・ハルトを急かしているのは今年小学1年になった妹のユイ。身長110センチ前後、髪は背中まで伸びた金髪。俺が黒髪なのに対してユイは祖母譲りの天然の金髪。母の方の祖母が海外の人らしくひと世代越えて遺伝したのだろう。母親は黒髪だ。

 身長といえばユイは去年と比べて大きくなったものだと実感する。


 毎年4月2日、我が桜井家で行う恒例行事、身長測定(柱に刻み込む)。俺は3センチ伸びたのに対してユイは4センチ伸びていた。「ユイ、大きくなったな」と言って頭を撫でてやると甘えてくる。こっちまで幸せな気持ちになる。

 俺は成長止まってきたかなと言うと「またおじさんみたいな事言って!」と母から返ってくるのがお決まりだった。父はいつもニコニコしている。幸せな家庭だ。


 ユイと俺はいつでも一緒だった。遊びに行く時や買い物に行く時、寝る時などいつもユイが隣にいた。ユイが小さい時、仕事が忙しい親の代わりにユイの世話は半分以上俺がしていた。

 時々祖母や祖父が世話をしに来てくれるのだがユイは俺から離れるとすぐに泣き出してしまうため祖母と祖父は泣々俺にユイを託していた。最初はユイの世話が面倒だと思っていた。しかし時間が経つにつれてユイに対する気持ちが変わってきた。

 優しく育って欲しい。健康になってほしい。怪我をして欲しくない。守ってやりたい。俺はありったけの愛情をユイに注ぎ、大切に育てた。だからユイは俺に懐いてくれた。ユイが元気に笑っているところを見ると、心がお湯で満たされるような幸せな気分が全身を包んでいくのであった。

 お互いがお互いを必要とし合う、かけがえのない存在となっていた。


 2人分のプールバックを背負って立ち上がる。ユイはすでにスクール水着の上からワンピースという子供の特権を使っているのでバックは少しばかり軽かった。

 ユイはすでに1階の玄関でサンダルを履いて待機中だ。これ以上待たせるとユイが機嫌を損ねるので急ぐことにする。

 今日はゆっくりしたかった。故に何故プールなのか。その訳は10分前に遡る。


 中学から続けていたサッカーを高校でも継続することにしたわけだが、夏休みのほとんど毎日が部活、部活部活部活部活…。

 極めてごく限られた貴重な休みくらいはゆっくり過ごしたいものだと考えていた……が甘かった。

 仕事に行く両親を見送る際に母が俺とユイに言った。


『そういえばハルト、今日部活お休みでしょ?ユイと一緒にプールにでも行ってきたら?』


 「ちょ…」と言った時には遅かった。

 じゃあねーと言って仕事にいく両親。

 すでに隣にユイはいない。

 俺が2階に上がっていく時にはユイは小さい口を使って浮き輪に空気を入れていた…様に見えるだけで全く空気が入っていなかった。


『ほら貸してみろ、入れてやる』


『ありがとう、おにいちゃん。大好き!』


 そう言って抱きついてきた妹の頭を撫でる。女の子というものは髪を撫でられるのを嫌がるらしいがユイはとても嬉しそうだ。


 そんなこんなで今に至る。

 明日も部活だというのにプールで疲れてはどうしようもない。あまりは体力を使わないように気をつけよう。


 階段を下り始めたその時。物語が動き出す音が鳴る。


ピンポーン ピンポーン

初投稿です。少しでも直したほうがいい点などありましたら教えてください。

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