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藤本 真哉

藤本視点の物語。

 藤本は目の前で静かに目を閉じている金髪の小さな女の子の髪を触りながら昔のことを考えていた。


 藤本は20年前に国家公務員の仕事に就いた。当初の目的はやはり金だ。若かった頃の自分は公務員という安定した収入をとても夢見ていた。昔から金には目が無かった。それ故だ。

 しかし16年前いきなり地方に飛ばされることになった。上司に理由を聞いても「上の命令だ」とだけしか教えてはくれなかった。幸い藤本に家庭はなく未婚だ。特に断る理由もなく素直に受け入れることにした。

 場所は長野県の山の奥。厄介払いされたのだろうと当初は思っていた。しかしその意味はすぐにわかった。



『今日からここで働かせていただく藤本です。どうぞ宜しくお願いします』


 館長室に呼ばれた藤本は最初の挨拶をする。

 この施設で働く職員は藤本を含めて3人。かなりの小規模だ。

 1人目の職員は鈴木 一雄。見た目40歳くらい。中年太りした腹が少し目立つ。優しそうな顔立ちで笑うと笑窪ができる。いつも笑っている。この館の館長らしい。

 2人目は木村 俊広。とても若い顔立ちだ。おそらくまだ20代。肌は茶色く焼けており海の男を連想させる。耳にピアスをし、仕事中とは思えないほどスーツを崩して着ている。


『宜しくお願いします藤本さん。ここに異動になったということは厄介払いされたんすかね。実は俺も上司から直接言われまして、「お前は邪魔だ!」とかいわれたんス。参っちゃいますよね』


 木村の言葉に少しイラっとしたがそこは大人の気持ちの入れ替えを使い抑える。こいつとは上手くやれなさそうだと思った。


『コラ木村、言葉をよく選んで使え!すみません藤本さん。こいつまだ大人の世界に片足入れただけなんです。どうか許してやってください。』


 鈴木が謝ってくる。木村はというと「へーい」とあまり反省はしていない様子であった。


 仕事内容はこうだった。全国的に増加傾向にある未成年の犯罪減少のための解決案の提示。もう一つは犯罪をした中でもあまり危険性のない子供の保護、及び社会復帰のための教育。ということらしい。故にこの施設には幾らかの子供が保護されているということだ。


『これから子供たちにあなたを紹介します。付いて来てください』


 館長室を出た鈴木は右に曲がった。そして突き当たりにあるエレベーターのボタンを押した。


『階段はどこにあるのでしょうか?』


『階段は館長室を左に曲がったらありまスよ、最初は迷っちゃいまスね』


 木村が答えてくれる。丁度エレベーターが開いたので鈴木がエレベーターの扉を押さえてくれているのに感謝しながら乗り込む。鈴木は3階を押した。エレベーターのボタンは〔1、2、3〕の3つ。1の下にボタンがあるのだが押しても光らなそうだ。


『2階はどうなっているのでしょうか?』


『2階は子供達が運動できるように小規模ですが体育館があります。』


 なるほどと考えているとエレベーターの扉が開いた。どうぞと鈴木が扉を抑えてくれる。本当に優しい人だ。

 子供達は男女別で4人1部屋の生活をしていた。中には2段ベットが左右に2つあり奥には扉があったのでトイレだろう。部屋の天井の四隅には防犯カメラが設置してある。顔は生き生きとしていて楽しそうだ。不自由な生活はしていないらしい。子供を入れている部屋が12部屋あったので単純計算で48人がいることになる。

 部屋の前に立ち毎回丁寧に自己紹介をした。子供達は毎回笑顔で手を振ってくれるとてもいい子達だ。

 その日の仕事は子供達部屋の見回りだけで1日が終わった。1階の一室を借り寝泊まりをすることになっていた。初日の仕事は精神的にとても疲れたのでその日はすぐに寝た。鈴木と木村はこの施設から家が近いらしく自らの家に帰って行ったので夜は子供達と藤本だけとなる。


 新たな職場に就いて1年がたった。子供達とり仲良くなれ木村とは特にトラブルはなったがそんなある日、国からある一通の手紙が届いた。


 ____________________________________________

 この文章は読み次第シュレッダーなどにかけて処分すること。コピー及び無断転載を禁ずる。


 長野県保護管理施設の児童を神奈川県保護管理施設に移送せよ。


 この命令が守られない場合は国が強制的に児童の移送を行う。


 理由に関しては一切伝えることができない。


 以上


 ____________________________________________


 3人は館長室でその手紙を読んだ。

 読んだ後はシュレッダーかけろという。理由が言えない程の秘密事項のようだ。


『神奈川保管って噂に聞けば児童に暴力を振るうことが日常茶飯事だとか聞くんスけど』


 それは木村や鈴木から前々から聞いていた。神奈川県保護管理施設は全国の中でも児童の扱いが特に悪いのが有名らしい。しかしそれは権力によって隠蔽されるため全く手の施しようがないとも聞いていた。


『鈴木さんどうしますか?』


 鈴木は時間をくれと言って1人館長室にこもった。1日、また1日と時間が過ぎる。子供達を見捨てたくはないのだろう。中々決断を下すことができない。

 しかし国はそんな悠長なことをさせてはくれなかった。


 手紙が届いてから5日目。施設の前に2台の自衛隊の軍車と1台の自衛隊の移送車が荒い音を立てて止まった。


『後30分以内に児童を引き渡しなさい。さもなければ命の保証はない。大人しくいうことを聞きなさい』


 拡声器を使い自衛隊員がこちらに呼びかける。窓から見る限り30人ほどの自衛隊員がいる。そして一人一人が銃を構えている。


『自衛隊ってここまでするんスかね…。す、鈴木さんここは大人しく子供達を渡した方が…』


 バンッと机を叩き立ち上がる鈴木。顔は決意に満ち溢れているようだった。


『急いで子供達を一階に集めろ。今すぐだ!』


 鈴木は藤本と木村に命令する。

 もし藤本が館長なら悩むことなく神奈川県保護管理施設に子供達を渡しただろう。死にたくはないから。

 故に鈴木の発言には安心した。これ以上無駄な抵抗するならば自分だけでも逃げようかと思っていたのだ。

 言われた通り子供達を1階に集めた。子供達はとても怯えているが自分の命がかかっている今、子供の精神状態などどうでもいい。最優先は自分の命だ。


『よし、今から8人ずつにわかれろ。今まで秘密にしてきた地下室に移動する。大きな声を出すな』


 藤本は一瞬鈴木が何を言っているかわからなかった。地下室へ移動する?何を今更子供達を隠そうというのか?このままでは自分が殺されてしまう。

 しかし今逃げようとしたところで鈴木と木村に押さえつけられるだろう。最悪邪魔なので殺されるかもしれない。今はまだ動く時ではない。

 エレベーターの1の下にあったボタンはあるパターンでボタンを押すことによって使用可能にできる地下へのボタンだったのだ。

 子供達を地下室へ移動し終わり自衛隊が突入してくるまで残り5分となった。

 地下は光が全く見えない暗闇だった。しかし鈴木が壁に設置してあったボタンを押すと今では珍しい白熱電球が一定間隔で光りだした。子供達は地下の奥へと行き息を潜めている。木村は子供達を心配させないために一緒に地下へ残ることにした。故に1階に残ったのは藤本、鈴木の2人。館長室にいた。


『私はここの館長だ。子供達を守る責任がある。すまんが藤本…後を頼んだ』


「頼んだ」の意味はとても深く感じた。子供のこと。まだ大人に成りかけていない木村のこと。そしてこの施設のこと。何より子供の未来を託されたのだと思った。

 鈴木は藤本に背を向け館の入り口へと歩き出した。藤本にはわかった。鈴木はこれから無謀な賭けをしに行ったのだ。残された時間は2分。最後の示談交渉のため鈴木は裸で強大な権力へ向かっていった。


『30分が経過した。これより我々は…』


 拡声器の声が途切れる。そして微かにだが鈴木の声が聞こえる。なんとか移送だけはしないでくれと聞こえた。


『残念ながらそれには応じられない。今から私達は強制的に移送作業を行う。そこをどきなさい』


 鈴木は入り口の前に立ちふさがっているのだろう。無数の銃を向けられながら恐怖に立ち向かっているのが想像できる。


『そこをどいてくれ、移送作業の邪魔になる。もしこれ以上反抗するようならば…』


 バリーンと入り口のドアのガラスが割れる音がした。銃を発射したのだろう。


『これでも退かないというとのか…。ならばしょうがない…』


 今度は1発の鋭く乾いた音が聞こえた。同時にバタリと何かが倒れる音も。


『これより強制移送作業を開始する。開始!』


 ものすごい数の人数が建物に入ってくる音がする。その音は一瞬たりとも止まることはなく動き続けている。館長室の上の天井がドシドシと響く。そしてその音はやがて遠くなり3階へ進んだことがわかる。

 藤本は少しばかり恐怖を感じているがそれでも冷静に館長のイスに座りコーヒーをすすっていた。

 ついに3階の足音が無くなる。誰もいないことに気づいたのだろう。少しして足音が近づいてきた。藤本は目を閉じてその時を待った。


『動くな!子供の姿が見えないのだがどこへ隠した』


 ドンとすごい音がして扉が開いた。入ってきたのは3人。それぞれが銃を持ってこちらに向けている。


『まぁ少し待ってください。今コーヒーを楽しんでいるところでしてね』


『そんなことは聞いていない。5秒以内に答えろさもないと撃つ。5、4、3、2、1…』


 3人が銃の引き金を引こうとした時、藤本の口が動いた。





『地下室ですよ…。この部屋を出て右に行ったエレベーターでいけます……』






 再びコーヒーを飲み始める藤本。


『そうか、協力に感謝する。後でこちらから褒美が送られるだろう』


 藤本はニヤッと笑って2杯目のコーヒーを淹れ出した。

この話は藤本が所長になる前の話です。


次回は本編です。


感想ご指摘よろしくお願いしますm(_ _)m

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