屈辱の峠
『それにしてもいい髪質だ〜。汚しがいがあるってものだ。』
藤本はユイの髪を手のひらですくい上げ、まじまじと艶やかな髪を見た。その後、顔を近づけユイの髪の匂いを嗅ぐ。
(ごめんユイ、俺見ることしか…できないよ…)
それでは飽き足らなくなった藤本は垂れ下がったユイの顎を持ち上げ、意識のない無防備な顔を眺める。
『美しい…美しいぞ!私は、この子の苦痛にもがき苦しむ顔が…見たい!』
両手でユイの顔を支えながら、唇にしゃぶりつく。その際にまたユイの髪を撫でるようにして触っている。
流石に息が苦しかったのだろう。ユイがビクッと動いた。
『………。……ん、んっーー!んーーーーーーーーー!!!』
ついにユイが目を覚ましてしまった。状況が掴めず混乱しているのだろう。手や足をバタバタしている。
しかしその細い手足には拘束器具が付けられているため、力の強い男相手には何も抵抗できていない。
『おやおや、起きてしまったようだなユイちゃん。永遠に目を覚まさなかった方が楽だっただろうに』
『い、いやぁーーー!おっぇ…んっ、んー!』
藤本は容赦なく再び襲う。
嗚咽を含む悲鳴がスピーカーを通して聞こえてくる。
耳を塞ぎたい…。
目を閉じたい…。
今すぐこの部屋から逃げてしまいたい…。
今ならユイにもばれてない、逃げてもユイが俺から見捨てられたなんて思うこともないのではないか。
だがその考えは直ぐに打ち消された。
『い…いや、…おかあさん、おにいちゃん、助けて!!きゃああああ!』
耳を裂くような悲痛な叫びに俺は脳を揺さぶられる。
バカ野郎。藤本だけは絶対に許さないって誓ったはずだろうが。何を弱気になっているんだ俺は。ユイの拷問をただただ見ているだけでは何も変わらない。何か助ける方法を考えろ。考えるんだ。
『元気な子供は嫌いじゃないよ、ユイちゃん』
そう言って藤本はユイから離れ部屋の隅にあった何かをふたつ拾った。
そう、それはさっきまでこの大男たちが持っていた鞭。
『え…おにいちゃん?おにいちゃんなの!?た、助けて!おにいちゃん!』
ついにユイが俺を見つける。
藤本という視界を遮っていた障害物がどいた今、ユイの視界に映るのはガラスとその向こうにいる俺と大男3人。
会わせる顔がない…。俺は無意識に目を反らしてしまう。
『残念だったねユイちゃん、お兄ちゃんに捨てられちゃって』
『そ、そんなことないもん!おにいちゃんは絶対にそんなことしない!』
『ほー、小学生にしてはすごい勇気だね。お兄ちゃんを馬鹿にしたことをゆるせなかったのかな?それともまだこの状況をわかってないのかな?』
藤本のやつ、ユイに誤解させるようなことを言いやがって。
藤本は自分の持っている鞭ふたつを上にあげた。
『ユイちゃん、私はね元気な子は嫌いじゃないよ?大声を上げるのも許す。でもね…』
ニヤっと笑いこちらを見た。鞭はグルグルと巻かれた状態でもっており、ユイにそれを叩きつける風には見えない。鞭を見せつけるような感じで持っている。何かを企んでいる目だ。
『私に口答えする者は誰であっても許すことはできない…』
俺の目を見つめて笑う藤本。
俺は大事なことを見逃している気がした。
待て、なんで藤本は鞭を2つしか持っていない?先ほど大男たちが持っていた鞭は合計で3つのはずだ。
しかし、床に残された鞭らしき影はない。ということは…。
気が付いた時にはもう遅かった。大男2人に両手を掴まれ大の字に広げられていた。そしてもう1人の大男がベルトと腰との間に差し込んであった鞭を取り出す。
そう、大男の1人が鞭を隠し持っていたのだ。
『やめて!おにいちゃんには痛いことしないで!』
バチン!という乾いた音と共に俺の背中に一本の衝撃が走る。
『グハッ…』
(嘘だろ…、こんなの痛いってレベルじゃない。気を張ってないと意識が飛びそうになる。痛すぎて声も出ない。)
大男はもう一発鞭を振り下ろす。
バチン!
今度は鞭の先が右肩の傷口に当たり、想像を絶っする痛みが脳、身体を襲う。
『やめて!ねぇ、やめて!!おにいちゃんを虐めないで!!』
悲鳴のような叫び声が響く。
『ユイちゃん、なんでお兄ちゃんが虐められてるかわかる?』
『そんなのわかんないよ!なんで、なんで、おじさんはおにいちゃんを虐めるの!ぼうりょくっていけないんだよ!お母さん言ってたもん!』
『それはねユイちゃん。ユイちゃんがおじさんの言うことをしっかり聞いてくれてないからだよ?おじさんの言うことを聞いてくれるっていうなら、虐めるのをやめてもいいよ?』
『うん、わかった。おじさんのゆうこと聞く。』
ユイは俺を助けることで頭がいっぱいで藤本の言うことをあまり聞いてない。完全に意味を理解してないだろう。二つ返事って感じだ。
『それじゃあユイちゃん、これから私のことは「ご主人様」って呼びなさい。ほら、言ってみて?』
『ご…、ご主人様…』
『そうそう、よくできました。それじゃあもう一つ。「ご主人様、お兄ちゃんの代わりに私を虐めてください」って言ってみて?』
『ご主人様、おにいちゃんの代わりに……………わ、私を………虐めてください…』
ユイの目にも悔しさが表れている。その証拠に言葉が詰まっているのがわかる。
『よくできました。ご褒美あげなきゃね』
部屋を見渡す藤本。そして、何かを発見したのだろうか、表情が変わる。
部屋の隅に歩いて行きパイプ椅子を手に取る。ユイが拘束されている前に置き、足を組みながら座る。
そして藤本は右足が上になるように足を組み直し、ユイの顔の前でくるくると足首を回す。
『……どういうこと?』
ユイは素で聞く。藤本はニコニコしながら答えた。
『舐めさせてやる』
藤本の心にスイッチが入ったのがわかった。
『でも、これ靴…』
藤本は右手をあげて、大男たちに合図を出す。
彼らは合図を受け、バチンと一発俺の背中に鞭を叩きつける。何度食らっても慣れることはないいたみだ。悶絶するような激痛が背中に広がる。
そして藤本はニコニコしながらユイに言う。
『な、め、ろ』
『………わかった…』
ユイが革靴に口を近づけたその時、ユイの右頬を、右足で思いっきり蹴りつけた。その際に白い小さな物が部屋の奥に飛んでいくのを見た。
『わかった、じゃない。「かしこまりました、ご主人様」だ』
ユイは蹴られた恐怖でガタガタと震えていた。声を出せるような精神状態ではない。
『聞こえなかったのかな〜?もう一回だけ言ってやる。「かしこまりました、ご主人様」だ』
『かっ、かし…かしこまり、ました。ご、ご主人様…』
無言で足をあげる藤本。それを震えながらぺろぺろと舐めるユイ。
俺はついに立てる気力を失い前に倒れそうになる。大男たちは俺をパイプ椅子に座らせ、足とパイプ椅子の足を手錠で繋げ、動けないようにする。手も後ろで固定される。
『血がついているんだが?』
舐めた後に血がついている。
さっきの蹴りのせいでユイは歯が取れたのだろう。出血しているはずだ。
『ご…ごめん、なさい…』
ユイは自分の頬を使って血を拭き取ろうと頑張っている。
藤本は踏んだガムを壁に擦り付けるかのように、ユイの顔で拭き「もういい」と一言言って立ち上がる。
『そろそろ時間だ。ハルト君、今日はもうお別れだ。』
藤本が手を振る。
バチバチといった何か弾けるような音がしたのに後、俺は意識は闇に落ちた。




