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怒りと絶望の間

S_028の部屋の間取りがわかりづらいため挿絵つけました。

下の扉がハルト達が入ってきた扉です。

上は二つ扉は部屋を行き来する通路(外には繋がっていません)です。


挿絵(By みてみん)

 俺の心は憎悪に満ち溢れていた。


『さて、ハルト君。君達は私との15時の約束をなんと、5分も遅刻したと報告を受けている。』


『何が言いたい!』


『それはもちろん…』


 腕を高々とあげ、パチンと指を鳴らす。

 藤本の指の音を合図にユイがいる部屋の金属扉が開いた。そこから出てきたのは大男3人。ユイを連れ去ったあの男たちだった。


『学校で習わなかったのか?遅刻はいけないことだと…』


『お前、まさか…』


『そのまさかだよ、これから妹さんには遅刻相応の罰を受けてもらうよ。目に焼き付けるといい』


 藤本は腕を軽く上げ中にいる男達に合図をする。男達は部屋の中にあった鞭を1人ひとつ手にした。


『やめろ!!やめてくれ!!ユイには手を出すんじゃねぇ!』


 俺はガラスを破ろうとばかりに叩く。かなりの振動は向こうの部屋にも伝わっているはずだが男達は見向きもせずにユイに近づく。

 男達を止めるにはどうしたらいい。

 答えは一つ。藤本を殺せばいい…。

 自問自答をコンマ数秒で終わらせ、瞬時に藤本に向かって走り出した俺。押し倒せばこっちのものだ。

 しかし、考えはそう甘くはなかった。

藤本は読んでいたのかの如く、左胸ポケットから拳銃を取り出し、流れるようなフォームで一発を俺に向けて発射した。

弾丸は俺の横を通り抜け後ろの壁に当たり金属音を響かせる。

 俺としたことが、頭に血が上って藤本が拳銃を所持していることを忘れていた。


『おやおや、もしかして忘れてしまったわけではあるまいな、ハルト君。わざわざ、スマホを取り出すときに見せてあげたというのに』


 銃声に驚き動きを止める。心臓が止まるかと思った。

 くそ!どうすればいいんだ!このままだとユイが!

 ふと右肩に違和感を感じ、左手を使い服越しに触って確かめる。何か熱いものが触れ火傷したかのようなジンワリとした感覚が広がっていた。

 右肩に触った左手を見てみると紅い鮮血がべっとりと付いていた。


『ひぃっ!』


 思わず悲鳴をあげる。さっきの弾丸が命中したのだ。幸い弾丸は掠った程度で、傷口はあまり深くはなく、命に関わる程ではない。


『こっちにはコレがあるんだ。反抗していいのかな?否、いいはずがない!更にこちらには人質のようなものまであるのだからな!ふーはっはっはっは!』


 怒りと恨み、そして痛みで頭がおかしくなりそうだ。血はまだ止まってない。床に小さな血だまりができていた。


『ユイに、ユイに手を出したらっ……!』


不意に、言葉を遮るように腕を引っ張られた。そして一言。


『動かないで…』


 引っ張った主は渡辺であった。こいつも何かするつもりなのか。

 こういう場合、頭に拳銃を突きつけるのがお決まりってものだ。

 しかし帰ってきた言葉は予想を大きく反するものだった。


『包帯巻くから、動かないで……わかる?』


 そう言って渡辺は救急箱らしき箱からハサミと包帯、さらにそれを止めるテープを取り出した。

 不意を突かれたような、拍子抜けしたような…。口をポカンと開けたまま、素直に治療を受ける。


『渡辺〜、お前は少し優しすぎなんだよ。そんなもん放っておけば治るものを』


 藤本は腕を上げ中の男達に合図をし、動きを止めさせる。渡辺は藤本の言葉に少しも反応せず黙々と包帯を巻いてくれる。


『大丈夫?きつくない?』


 よく見たらかなり若い。今まであまり顔は見ていなかったので少し驚く。スーツを着ているせいもあっただろう。俺と同い年と言われても否定できない顔立ちだ。

 俺はコクリと頷き、ありがとうございますと一言お礼を言った。


『別に、この部屋を血に染めたくないだけです』


「では、私はこれで」と言って部屋から出て行く。

 残された藤本と俺。渡辺がいなくなったことにより変な空気が漂う。必然と睨み合いになった。均衡を破ったのは俺。


『ユイからあの男達を離してもらおうか』



 無茶な願いだ。無駄とわかっていてダメ元で要求する。今になって右肩が痛み出した。さっきの怒りのせいでアドレナリンが出ていたのだろう。左手で傷口を抑える。


『そうだな、あいつらには離れてもらうとしよう』


 そう言って男達に合図を出す。

 従ってくれるとは予想外だ。渡辺のおかげで気分が覚めたのだろうか。

 男達は部屋の奥にある通路を通ってこちらの部屋に入ってきた。


『それでは私が行ってくるよ』


 大男3人と俺を残し、藤本は当然のようにユイのいる部屋へ向かった。

 っ…!一瞬反応がおくれた。

 気を抜いていた俺がバカだった。藤本が俺に従ってくれるほど優しいやつではないことは、今まで死ぬほど体験してきたはずなのに。多分ここにいる大男達も銃を所持しているだろう。しかし、今の俺が立ち向かったところで銃を使うまでもないだろう。

 藤本はすでにユイの目の前に立っていた。スピーカーから中の音声が流れくる。ユイの部屋の音声はマイクを通してリアルタイムでこっちのスピーカーから流れてくるらしい。


『ハルト君、私がこの子への拷問を止めるわけがないだろう。実は私はこういうシチュエーションが大好きでね。身動きを取れない女の子を眺め、虐め、そして苦しめる。考えるだけで震えがとまらないよ。最高だとは思わないかねハルト君!』


 こいつ、狂ってやがる。人間じゃない。


 今にでもユイを連れてここから逃げたい。だが、ユイの命を握っているこいつらには逆らうことはできない。

 気が狂いそうになるほど藤本が憎い。でも、大男3人は常に俺の後ろで銃を構えている。俺が殺されたらユイはどうなる?無責任な兄ではないはずだったのに。

 ユイの金髪に藤本の手が伸びる。


もう無理だ…。


何も抵抗できない…。


見ているしかない…。


そして俺は希望を捨てた…。



(ユイ…ごめん…)

結構詰め込んだのですがユイが虐められるのは次回になりそうです。


感想、ご指摘宜しくお願いします。


『360度世界が変わって見えた』って表現を使ったことがあるのですが、一周したら何も変わらなくね?って最近気付いたペンギン隊長でした。

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