第六話 ~少年の日記 その1~
八月十七日 (金) 天気 晴れ
今日から、日記をつけてみようと思う。
この先、随分と長い人生を歩む上で、きっとこの日記はかけがえのないものになると、ジルさんに勧められたからだ。
あまりこういうことはしたことがないから、長続きするかはわからないが、マメにつけていこう。
今日はいつも通り、屋敷の掃除と勉強と、武術と魔法の訓練をした。
特に何か新しい発見があったわけじゃないのだけれど、今日も一日楽しかった。
屋敷内の庭園の手入れをしていると、勉強の息抜きと称してエリザさんがやってきて、手伝いをしてくれると言いだし、得意な第二魔法を使って水やりをしてくれた。
魔法ってあんな使い方をしてもいいのかなと思ったが、この世界じゃこれが普通なのだろう。
……だからといって、広範囲の水魔法で水やりをするのは間違っている気がするが。
ちなみにエリザさんはジルさんに見つかってすぐに図書室に連行されていた。
終始笑顔だったのが逆に怖い。
勉強に関しても、特に進展はなしだ。
第三魔法の仕組みを頑張って読み解こうとしたものの、さっぱりわからなかった。
早くモノにしなくては……
まあ、第一魔法と第二魔法を完璧に理解するのに二週間もかけているのだから、どうせ第三魔法も理解には時間がかかるだろう。気長にやろう。
さて、訓練に関してだが……
武術の方は、今日も身体の基礎を作る訓練しかしなかったので、何か出来るようになったわけじゃない。
魔法も、第一魔法と第二魔法を少しだけ練習して、無詠唱の練習をひたすらやっていただけなので、特に発展はない。
強いて言うなら、無詠唱のコツが少しずつ掴めて来たような気がしているくらいだ。
……気がしているだけで、会得にはまだまだ時間がかかりそうだが。
しかし、この屋敷で執事見習いとして雇ってもらってから、少しずつ自分の身体が強くなり始めているのがなんとなくわかる。
早く強くなって、エリザさんの役に立たなくちゃ……
さて、今日はこの辺で終わろうと思う。
明日もまた平和な一日を過ごせることを祈って、眠るとしよう。
おやすみなさい。
「ふぅ……」
疲れたように息を吐いて、俺は日記を閉じた。
……そういえば、弟は元気にやっているのだろうか。
今度、ジルさんにあの王国の情報を聞いてみよう。
そう思いつつ、俺は日記を机の中にしまって、ベッドに寝転ぶ。
瞼を閉じると、すぐに眠気がやってきて、気がついた時にはもう意識を手放していた。