5.long and slow
「うわあっ!」
「ぎゃっ!」
ああ、ぶつかる。視界がスローモーションになる。ゆっくり、ゆっくり。近づいていく。お互いに止まる術はない。
曲がり角を曲がると幸い美少女はいなかった。ただし代わりに猛スピードで突進してくる顎長のイケメンがそこにいた。私は予想外の、そしてある意味では予想通りの展開に困惑したが、落ち着いて困っている暇などなかった。自分でも驚くほど冷静に客観的に目の前の光景を分析して私は瞬時にこう判断した。避けられない。私は目を閉じた。こうなったら流れに身を任せよう。
「ゴッ」
しばらくの沈黙。
……今鈍い音がしたぞ。
目を開けると、例のイケメンは頭を抱えてうずくまっている。その頭上に視線を向けると、フライパンがあった。その取っ手に視線をずらすと、幼馴染の手があった。その先には幼馴染の本体。どうやら彼がやったらしい。
「危ねえなおい!まほが怪我したらどうするんだよ!」
「す、すいません……!出直してきます……」
イケメンは逃げていった。
「ありがとう。えっと、何が起きたの」
「ぶつかりそうだったからつい」
「フライパンで阻止したと?」
「まあな」
そう言ってドヤ顔になった。
まて。なんでフライパンを持っている。
彼はずっとフライパンを持ったまま走ってて気づかなかったのか。私の部屋を出たときからずっとか。
もしやと思って私は彼の胴体を見た。私は青くなった。
「ん。何だ?」
そう言って首をかしげる彼はエプロンをしたままだった。