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4.パノプティコン
家を出た私たちは学校へと走る。全力疾走だ。本当は箒に乗って飛べばあっという間だけど、この魔法はできるだけ使いたくない。一つの記憶が脳裏をよぎる。
ーーあれは2年前の春だった。その日も遅刻ギリギリで、周りに人がいないことを確認してからやむなく箒に跨って20cmほど浮き上がったその瞬間だった。どこからともなく宅急便風の魔女が飛んできて箒に跨りながら「あら……あなた新人?」と声をかけてきた。飛行距離わずか20cmである。なんという、なんという目聡さか。水泳選手も顔負けのリアクションタイム。脅威。恐怖。私は常に監視されているのだろうか。まさにパノプティコンであるーー
思案を巡らせながら私たちは走る。全力疾走も少し疲れてきた。もうすぐ学校だ。最後の曲がり角がみえる。気を抜いてはいけない。あの角を曲がれば食パンを咥えた美少女でも飛びだしてくるかもしれない。