3.廊下は走らない。
扉をあけると異世界であった~…なんてことはなかった。あったらたまったものじゃない。幸いそこは異世界でもなければ雪国でもなく、まぎれもなく私の家の私の部屋を出たところの廊下だった。いつものように。何食わぬ顔で彼が待っていた。
「まほ。なににやけてんの。早く早く」
「へいっ」
気の抜けた返事をしつつ、私たちは急ぎ足で階段を降りた。
あ。
「今何時?」
私が聞くと、彼はキッと私をにらんでからすぐさま右腕を確認する。表情がいちいち可愛いんですが。彼の女子力の高さには底知れぬものがあると思う。
「7時30…今31分になった。」
「まずい。」
「え?」
「…朝ごはんに4分しかかけられない。朝はしっかり食べたいのに!」
「なら早く起きろよ!」
確かに。私は大急ぎで用意を済ませた。ただ、あろうことか朝ごはんに8分も使ってしまったせいで本当に時間がなくなった。だから少し魔法を使ってしまった。私の魔法レパートリー第16番「一瞬で歯磨きと洗顔を済ませる魔法」だ。
私のネーミングセンスについては言及しないでほしい。いや、違うんです。言い訳はあります。そう、これはただあえて中二病的な言葉を避けたかったからであって決して私のセンスの問題ではないのです。だから何があっても「安易」だなどとは言わないでほしい…。まあ、できれば魔法は使いたくなかったな…。
「あれ、そういえばしほちゃんは?」
しほは私の妹だ。例の中学3年生にあるまじきナイスバデーの持ち主だ。ナイスバデーって死語だろうか。とにかくスタイルがいい。そういえばどこに行ったんだろう。しほはたまにいなくなる。まあその日のうちに帰ってくるから、異世界にとばされているわけではないだろう。でも本人に聞いても微妙に言葉を濁すあたり、私は彼氏の家にでも行っているのではないかとにらんでいる。最近の中学生進みすぎて姉ちゃんついていけない。ほら、しほは私と違っていわゆるリア充だから。きっと彼氏の一人や二人いるだろう。そういうことには縁がない私としては羨ましい限りだ。ラノベの神様、私にも青春をさせてくれ。