退廃革命
「来るなああー!この娘がどうなっても構わないのかー!」
「いやあー!助けてー!」
ひったくり犯が人質をとってビルに立て籠もる事件が発生。
やれやれ、俺はタバコを足で揉み消し、おっと最近はポイ捨てにも世間様はうるさいからな。
「おい若造、これやるよ」
俺は説得にあたっていた警官にシケモクを押し付け、代わりに拡声器を取り上げる。
「あー、あーもしもーし、そこの立て籠もり野郎ー、母ちゃんが泣いてるぞー」
「うるすぅぇー!俺の母ちゃんは郵政民営化したその日から涙を忘れた女だ!
この程度じゃ泣かねえよ!」
「いやぁー!アメリカの要求で国債がなんとかかんとかー!」
「そっかー、なんか複雑そうだから突っ込んだこと言えねえけど、
スクーターの郵便配達が増えたのはオジサン的にちょっとセンチメンタルだー」
「わかったらなら逃走用の車と現金百万円分用意しやがれ!!」
「きゃぁー!車は軽四はやめてぇー!最低でもレクサスでぇー!」
埒が明かないな。
俺は拡声器を置いて、先ほどシケモクを押し付けた若造に言う。
「さて、やるぞ」
よし来たと顔を輝かせた若造は、ラジカセのスイッチをオン!
ズンチャ ズンチャ と軽快なリズムが流れでる。
おっと自己紹介が遅れたな。俺の名前は…いや、どうせ短編だけの使い捨ての俺に名前なんて大層なモンは必要ねぇな。
俺は、刑事だ。それで充分。
foooooooooo!!!
俺が腕を上げ指を立てると、
後方20人の警官も同じポーズをとる。
さあはじめるぜ…刑事ダンスの時間だ!
ズンチャ ズンチャ!
流れるミューゼックに身を任せ俺たちは踊り出す!
この一体感…たまんねぇ!!
集まっていた野次馬たちも、そのうち一人、また一人とダンスの輪に加わってくる。
気付けば200人のビックダンサー集団!
「ちくしょう!こんなダンス魅せられて、突っ立ったままなんて我慢ならねえぜ!」
「きゃあー!私もダンス部だった学生時代の血が疼くぜぁー!」
ズンチャ ズンチャ!
犯人と人質もたまらずダンスの輪に飛び込む!
面白くなってきたぜ!
ギュルンギュルーン!
ブレイクダンスを取り入れた犯人の華麗なターン!
カクーン ガシーン!
ロボットダンスで対抗する俺!
ス…ススススー
ムーンウォークで縦横無尽に歩き回る人質!
(へっ、やるじゃねえか)
(テメェもな…!)
言葉はなくともダンスで通じる事だってある。
俺たちは夜まで踊り続け、最後はみんなとハイタッチして別れた。
「またやっちゃいましたね」
「あっ」
若造に言われ気付いた。犯人取り逃がしてたわ…。
「また始末書モノですかね」
「…死にたい」
完




