サイキック兄妹
超能力。
それは人智を超えた特殊なチカラ。
サイコキネシス、発火能力、テレポート、テレパシー、未来予知、重力操作…etc
時は近未来、政府は増え続ける超能力をランクによって区別し制御を試みていた。
強力な能力者ほど政府から手厚い庇護を受けられたが、反面それは鎖。
優れた能力者ほど政府から監視され、制約され、最高位のAランク能力者は自らの意思で能力を使えぬ程であった。
だが、ここにひとつ都市伝説が。
その噂では、Aを超えたSランクの超能力がいるというのだ。
Sランクは神の領域、使い方次第で一夜にして世界の在り方を変えてしまう恐ろしい災厄。
あまりの凶悪さに政府さえ制御不能であるという。
しかし、あくまで都市伝説は都市伝説。
現実にSランクなんているはずない。
Bランクでさえ街一つ跡形もなく消し去れるのだ。
Sランクなんて者が存在していたら、今頃世界は何度滅んでいるかわかったものじゃない。
何でも力で全てが思い通りにいく、そんな超越者が一般社会に溶け込むなんて考えるほうがおかしいだろう。
沙川キョウタ、彼を除いて。
コン、コン、
扉がノックされる。
キョウタは読みかけの小説をパタリと閉じ、扉を睨んだ。
「誰だ?」
『あら、かわいい妹にそんな殺気立った声で呼びかけないでくれる?』
扉の外に居たのは妹、沙川ルリリであった。
「やけに早いじゃないか。部活はどうした?」
『今試験期間だから部活ないのよ。それより開けてくれない?』
「嫌だね。大事な読書の時間を邪魔されたくないんだ」
『あらそう。妹の頼みを無下にして、キョウ兄ひどいね。
それなら、ずっとここで話し掛けて邪魔してあげようかしら?』
これだから妹という生き物は。
わがままで自分勝手、怒りさえ沸いてきそうだ。
「あんまり俺を怒らせるなよ」
『くすくすくす。怒らせるな、ですって?
怒ったらどうするの?超能力使うの?』
「お前…!なぜそれを!?」
『ああやっぱり!気付かないとでも思った?
しかもタダの超能力じゃないよね?Sランクでしょキョウ兄』
「……何を、どこまで知っているんだ!」
『キャキャキャキャキャ!!ばーっか!何も知らねえよ私は!
簡単なカマ掛けに引っかかりおって!ほんにキョウ兄は愚か愚か!かんらからから!かんらからから!』
扉一枚隔てて狂ったように笑い出す妹。
おかしい、超能力者と知れたら普通は怖れられる。
俺は、家族から畏怖の目で見られるのが嫌で、ずっと能力を隠してきたのに、それなのに、
この妹から感じる違和感は何だ?
『キョウ兄は、昔から何でも出来たよね。
運動も勉強も、私がずっと習ってたピアノだって、片手間で触ってたキョウ兄のが上手いんだもん…。ほんと、私なんかが出来ることは、いつも軽々とこなしちゃうんだキョウ兄は…。
今だから言うけど、私、そんなキョウ兄のこと大っ嫌いだった!!!』
「ルリリ…」
『なんでキョウ兄が超能力者って気付いたかわかる?
ふふ、それはね。私も目覚めたのよ超能力に!
あーあ、でもやっぱりだ。やっぱり私に出来てキョウ兄に出来ないことは無かったんだね…』
妹も能力に目覚めたなんて…。
しかも話ぶりから察するに、こいつも俺と同じS級の可能性が高い。
対応を誤れば、世界がやばいぞ…!
「俺は、どうすればいい?」
『簡単なことだよ。まずはこの扉を開けて、ねえ?ほら?早く?ねえ?ねえ!ねえったら!!」
ガチャ!ガチャガチャガチャ!!
激しくドアノブを回す妹。カギを掛けてて助かったが、妹の能力次第では、カギなんて有って無いような物だ。
『なんで?なんで開けてくれないの?キョウ兄なんで!?私のこと嫌いになっちゃったの!?
私キョウ兄のこと好きだよ!愛してるよ!だから!ねえ!!開けろっつってんだろクソ兄貴ィィイイ!!!』
今度は扉が壊れんばかりに叩く妹、口調も乱れて冷静ではいられなくなっている。
だがここで扉を開けるのは愚策だ。他に何か方法は…くそッ!思いつかねえ!
『ふーん。そっかぁー、じゃあ、いいんだね?
使うよ?私の超能力…!』
ユギュユィィ…ィィイイ…!
空気が歪む。耳触りなこの音、世界を改変する音。Sランク超能力の音…!
「しまっ…!?」
バシュウーン!!
世界が
改変された
『あはは…あーっははははははァ!!
見たか!見たかキョウ兄!これが私の超能力![家のダブルのトイレットペーパーをシングルに変える]異端の能力!!!』
「キッサマァァアアー!!!」
『いいから早くトイレ出て!漏れちゃうぅぅうー!!!』
結局、俺のSクラス超能力[家のトイレを増設する]異端の能力で世界は救われた。
完




