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ワカサギフィッシュインザスクールプールバイバイ




「よし、誰もいないな?」


「さすが冬場の日曜だ」



中学二年の冬。僕ことイムラヤと友人のシキシマは、隣町の高校のプールに忍び込んでいた。


「しっかし、本当なんだろうな?このプールにワカサギがいるって噂は」


「ああ。なんせあの学年一位のハカセ君が言ってたんだ。信じて見る価値は充分さ」


こんな田舎だ。僕ら中学生の遊びといったら釣りくらいなもの。

しかし最近はただ釣りをするにもマンネリしてきたと思っていた。

もっと変わった魚を釣ってみたい…。


そんな折にこのワカサギの噂だ。飛びつかない筈がない。


プールの表面は、この寒さで氷に覆われており、

氷の下は濁った水や藻などで、魚がいるかどうかも確認できない。

まあ、


「「釣ればわかることだ」」


僕たちは氷上を歩き、適当な場所を決めて氷に穴を空け釣り糸をたらす。


二十分は経った頃だろうか。


「全然アタリも無いね」


そう言ってシキシマを振り返ると、彼は釣り糸を上げ、その針先には小さな魚が…


「いや、なんか、ワカサギ釣れたわ」


「マジ!?」


「は…はは…!何で高校のプールにワカサギが居るんだよ」


「今更言ったって知らないよ。ちょっと見せてくれ!うわあ!やっべこれ本当にワカサギじゃないか!」


「ていうか、このワカサギ。なんか変な匂いする…。いや、変っていうか良い匂いだけど、何の匂いだろう?」


「確かに鮎や山椒魚には特徴的な匂いがするってきくけど、

ワカサギから匂いがするって話は寡聞にして聞いたことないね。

どれどれ」


くんくん…



!!?


「な…こ…この匂いはまさか!?」


「分かったのか!?」


「ああ間違いない!これは、プールの授業が終わった後の、乾ききっていない女子の髪の毛の香りだ!!!」


「それだ!!?!」


「も、もももっと近くで嗅いで確認しよう!」


あまりの発見に興奮した僕は、ついワカサギを掴み……



あれ?



「おい、どうしたイムラヤ?ワカサギ持ったまま固まってんぞ?」


「うん、その、普通、魚を触ったらニュルっとした感触があるもんだろ?

なのにこれは…」


それきり次の言葉が出てこない僕に痺れを切らし、シキシマもワカサギに触れる。


「なっ!こ、これ!…女子のスク水の質感じゃねぇか!!」


「だよなッ!!?」


そうなのだ。触った質感が、まんまスク水のソレなのだ!


おっと、なんでスク水の質感が分かるんだと野暮な事は聞かないでくれ。

男子中学生はお菓子と不思議で出来ている。これ常識アルよ。


「それにしても、女子の髪の香りにスク水の質感…どうなってやがんだコイツは…!?」


「…なるほど!わかったぞ!

なあ、この高校の名前は知ってるよな!?」


「ああ?そんなん当たり前だろ。

ここは聖ピエール女学園……女学園…?!」


「そう!ここは女子校!!

つまり、このワカサギは、うら若き女学生たちが浸かったプールという名のエキスを存分に享受した存在…

さながらワカサギと言う名の女子校生なんだ!!」


「な…なんだってー!!?」


「誰がこんな場所にワカサギを放流したか知らないが、

今日の釣り、言い換えれば女子校生のオネーサンとのデートと同義!!」


「ヤベェ、人生初デートだ…!!

…ん?ちょっと待てよ」


「なんだよ僕の推論に何か不満でもあるのかい?」


「いいや、お前の理論は完璧だ。疑うべき穴さえない見事さで核心を突いている。

だからだ。濡れた髪の匂い、スク水の質感…魚の形をした女子校生…なあ?

なあ?もしかして……


このワカサギを食べたら、


それはもう『童貞卒業』したと同義になるんじゃねえか…?」


「…!!?」


なんといふ!なんといふ着眼点!?

侮っていた。シキシマもまた、僕と同じく一人の変態だったのだ!


「ははは…は…いやでも、さすがに…」


「そ、そうだよ。幾ら何でも…うん…」


「あ、ああ…」「お、おう…」


「……………」

「………………」


しばらく僕らは無言だった。


北風が僕らの頬を撫でて過ぎ去る…



先に動いたのはシキシマ!

「あっ、UFO!?」

「え?」


しまった!?あからさまな嘘に気を散らされた!

その隙を見逃す奴ではない!


「いっただっきまー…!」

「しゃらくせぇぇえ!!」


バキョッ!!


僕の右裏拳がシキシマにクリーンヒット!

彼の手から零れたワカサギを掴…背中に衝撃メギョ!ぐぱぁ!?


「やりやがったなクソシマぁぁあ!!」

「かかって来いやイムラヤぁぁあ!!」


ドゴ!バキ!ゴキ!ドグポッ!ポキン!ズブシャアアアー!!


僕ら幼稚園からの友情が崩壊するのは一瞬だった。嗚呼、諸行無常(※余談だが聖ピエール学園は仏教系)


「ぐはぁ…はぁ…なあオイ?ワカサギ…どこ行った?」


「あ?知らねえよお前が持ってたんじゃな…あそこ!?!」


視界の隅に写ったワカサギ!

彼女はなんと健気にも氷の上を跳ね、まさに今、穴からプールに戻ろうと…やめろ…ああ…っ!


ポチャンッ


「「あああああああああああああああああ!!!?」」


「ちっきしょー!諦められっかよ!!」


シキシマは穴に駆け寄り、悔しさから何度も氷上を叩きつける!


ゴツーン!ガツーン!


「おっ、おいバカ!そんなに叩いたら……あっ」


パキッン!!

ばしゃああああーっん!!


氷が割れて、シキシマは冬のプールへと落ちる!


「うわあああああ冷てええええ!!」


「バッカ野郎が!」


助けようと駆け寄った時、僕は不可思議なものを目にした。


プールは濁っていたが、それでも目を凝らせば…シキシマの周りにワカサギが集まっている!?


「それも10や20じゃない。ワカサギ100匹は居るぞ!?」


「ワカ…サギ…?ワカサギ…?」


「いいから!早く僕の手を掴め!」


「あは…あはははは!!

見える!見えるぞ!!

俺には百人のスク水女子校生が…俺の周りを泳いでいるのが見える!

ああ!ああ!なんという眼福!!楽園はここにあった!!」


「くそが!遂に寒さでアタマやられたか!!?」


無理矢理手を差し出そうとしたその時!


ザブン!!


プールに波が起きた。

波はシキシマを飲み込み…その瞬間見た。


大量の…おそらくプールにいる全てのワカサギが、シキシマの口内に突入しているのを…!


「シキシマアアアアアア!!?」


僕はプールに飛び込み、なんとかシキシマを見つけ引き上げた。





寒い。


プールサイドで僕は全身震えながらタオルで身体を拭いていた。

多分唇とか超紫になってると思う。


「お前のせいでとんだ日曜日になっちゃったよ…シキシマ?」


しかしそんな僕とは対象的に、シキシマはひとつも寒がらない。

水浸しなのに涼しい顔だ。


「なんで平気なのお前?」


「ミ…みずノなかノほうガ…すゴシやすイ…ぴちょ」


決してやせ我慢ではない。

水のように澄んだ瞳でシキシマはそう答えた。



ああ…。そうか…。


これが非童貞…

『卒業した者』が魅せる余裕ってヤツなんだな。


なんだか、お前が遠くなっちまった感じがするよ。


でも、いいんだ。

卒業おめでとう。

お祝いしよう。


だって僕は、お前の友達だから。


ワカサギフィッシュ インザ スクールプール バイバイ…



「さあ、帰ろうぜ。僕たちの街に」



「ぴちょ…ヤヤヤ…ヤット、ぴちょ。にんげんノ…からだ…てニいレ、タ…!」




完!

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