天空の山下小学校
「おや失礼。もしや本年度からの校長先生ですか?」
「ええそうです。着任式より前に、学校の間取りを覚えるついで、散歩をしていたところです」
「なるほど、熱心でいらっしゃる。
あ、私は昨年度より引き続きこの学校の教頭職をしております。
どうです、この山下小学校は?」
「のどかで広々としていて、良いですね。何よりも空を飛んでいるって事が素晴らしい」
「そうでしょうとも。本校は全国初の天空小学校校舎ですからね。
天空指定された昨年度は色々と慌ただしかったですが、やっと落ち着いたという処ですな」
「やはり苦労はありましたか?」
「お恥ずかしながら、手探りの日々でした。なにせ空飛ぶ小学校なんて前例がない。
しかもこの辺り平地で高い山がないので超低空で飛ばざるを得なかったのが大変でした」
「はて?高い山がなければ、それこそ悠々と上空まで飛べそうなものでしょう?」
「いやはや、それがそうでもないのです。なにせ『市立山下小学校』でしたから、市内にある山より高く飛ぶことは出来なかったのです」
「山下だから、山より上に行けない…?」
「その通り。まったく、馬鹿な話ですよ。そのせいで何軒ものビルや建物にぶつけて街を破壊してしまった」
「道理で、本年度から『県立山下小学校』になった訳ですね。
県立の小学校は珍しいとは思いましたが、そんな理由があったとは。
でもこれで、街を壊すことも無くなりますね。我が県は標高1760メートルのナロウ山がありますから」
「壊してもどうせ税金で予算おりますし、街破壊は心も懐も痛まない最高のストレス解消だったんですけどねえ。残念です」
「ん?」
「いえお気になさらず。しかし、問題の全てが解決したわけじゃありません。
厄介なのが一つ、残ったままなのです」
「ほう。それはどのような?」
「校歌です。校歌の内容が、天空校舎に反するとPTAや生徒達から多くの苦情がでているのです」
「ならば、いっそ校歌を変えてしまわれてはどうでしょう?」
「やや、しかし山下小学校の校歌は120年前より作られた伝統ある物。改革派と同じく保守派の意見もまた根強い。
卒業式では、改革派生徒は校歌の斉唱を拒否して座しておりました」
「確かに困りものですな。君が代の斉唱拒否問題さえ心が痛むのだ。校歌も学童皆で歌ってもらいたいものだよ。
して、その校歌のどこに問題があるのです?」
「校歌のBメロ部分に『大地を踏みしめる よろこびの若者よ』って歌詞がありまして、
空に浮かんでるのに大地を踏みしめるのはオカシイのでは、と改革派は言いますね」
「それでも、浮かんでいるといっても校舎はグラウンドごと浮遊しているので、特に眉を顰めることもないでしょう」
「それだけならば。ですが、Yメロの『僕らは地上に根を生やす 大地の化身』という歌詞もまた難しく」
「無駄にメロ多い校歌ですな。学生が卒業まで校歌覚えられるかちょっと心配ですわ」
「はっはっは。学生の可能性を信じてみるのも教育者冥利ではないでしょうか」
「おっと、確かにそうですな。
ならばこの歌詞は、進化して飛び立った、大地としての新たなる可能性と考えてはいかがでしょう?」
「おお!確かにその解釈ならば大丈夫ですな!
いや、でもしかし…最も曲者は校歌のサビなのです」
「この際です。ありったけの力技で納得できる説明を考えようではありませんか」
「頼もしいですな!そうそのサビが『僕らは大地 大地こそ我
我らにとって空は唾棄すべき存在
諸悪の根元 不倶戴天 地を捨て空を舞う鳥よ プライドを捨ててまで飛びたいか 憐れ哀れなり
もし空を飛びたいといふ不届き者がいようものならば
我ら学徒みなすべからく
大地の怒りを余さず伝える鬼となりて
腑抜けた彼奴等の魂ごと 打ち滅ぼさん
ちょこっとジャンプしただけでもう 打ち首モンだぜ?
さあ大地に愛を 地上に祝福を 空に死を!空に死を!
ああ 山下 山下小学校』なんですけど?」
「よし!歌いたい奴だけ斉唱させとこう!」
「さっすが校長先生!!」
完!




