未来から来た自分の娘とイチャイチャとラブコメするまでの前日譚
何の気無しに自室の押入れを開けると、
そこは大正時代の浴室と繋がってしまった。
脱衣所で肌を露わに悲鳴をあげた美しい女性。それが彩子さん。若き日の僕のひいお婆ちゃんだった。
不思議と押入れは、彩子さんが居る時だけ過去の浴室と繋がると分かった。
向こう側からはひたすらに繋がり待ちであったが、小物を戸に挟めばこちら側からも見えると発見もした。
「私が居て、開けて大丈夫な時は、戸に赤いハンカチーフを挟んでおきます。
それ以外の時に開けたら許しません」
それ以来押入れに赤い布が挟んであれば、僕は彩子さんと会えるぞと喜んだ。
ただ、残念ながらあの日以来、乙女の柔肌を拝んでいない。一度、ハンカチが無いにもこっそり開ければ、着替える前の彩子さんに見つかり、とくとくと説教されたものだ。
それから交流を重ね、僕らは自然と仲良くなった。
「カイさんの時代には一家に一室風呂場があるのですね。なんと羨ましいことでしょう」
彩子さんの時代は銭湯が基本だそうで。ただし銭湯までがやや遠く、近所では内風呂のある近くの庄屋に浸かりに来る事が多い。
この庄屋の浴室が押入れと繋がっているのだ。
「花の色は移りにけりないたづらに、命短し恋せよ少女」
小野小町とゴンドラの唄を並べたものだが、成る程しっくり来るものだ。「女学校で流行っているのですよ」と彩子さんは口ずさむ。
「本当は袴でなく、もっとハイカラなセーラア服に憧れてますの」
彩子さんの袴姿は綺麗で似合っていると僕が言えば、耳まで真っ赤にして「ひ孫にからかわれてしまいましたわ」と恥ずかしがる。
なんだこの可愛いひいばあちゃん。
「今日はぼた餅を作ってきましたの。この時代のカイさんのお口に合えば良いのですが…」
一口たべて、うん。美味しい!ひいお婆ちゃんのぼた餅の味だ。懐かしいなあ。
そう感想を伝えれば「お・ね・え・さ・ん!!」と怒らせてしまった。
ケースバイケースで曾祖母と年頃の娘とを切り替える彩子さんは、聡明と言えたし魔性でもあった。
「嫁入り前の身で殿方に裸を見られたと、どうして言えましょうか」
浴室と現代が繋がったとは誰にも言ってないそうだ。あまり長居しては、風呂を貸してくれる庄屋に迷惑がかかるのだと。
一度一度は短い時間だが、僕は彩子さんと話すのが好きだし、この逢瀬めいた秘密は僕だって大事にしていた。
「もうこんな時間。名残惜しいです」
僕らは掌を合わせ、見つめ合い、そんな時は決まって机の引き出しがガラガラと開き、
「あー、なになに恋人みたーい!」
っと、先日未来と繋がった机の引き出しから、未来の僕の娘パルテが出てきて冷やかすのだった。
「結婚が決まりましたの。あちらの家に嫁ぐので、此方に来るのは今日で最後にします」
つまり僕の曾祖父とだ。
「カイさんによく似てらしてよ。でも、カイさんよりは男らしいかしら。
カイさんみたいに助平でなければいいのですけれど」
いつかこうなる日が来るとはわかっていた。
馬鹿だなあ、自分のひい爺さんに嫉妬するなんて。
「少し…泣かせて下さい」
僕の胸に顔を埋め、彩子さんは静かに涙した。僕は、黙って彼女の頭を撫でた。それくらいしか、できる事が無かったんだ。
またいつの日か、きっと会えるから。
「ばかね。その頃はもう私は、よぼよぼのお婆ちゃんで、カイさんはまだまだ小さい童子でしょうに」
確かにそうだ。でも僕はひいお婆ちゃんっ子だったから。
「ふふ、ひいお婆ちゃんじゃなくて、おねえさん、でしょ?」
くすくすと、目に涙を浮かべながら、それでも僕らは笑顔でお別れすることができたんだ。
さて、と。
「あれ、パパお出掛けするの?」
ああ、墓参りにでもな。
「ふーん。ひいひいお婆ちゃんの墓参りかあ。私も一緒に行っていい?」
え、お前も一緒に来るの?
「なによー?こんなカワイイ娘が一緒に行くって言ってんだから、もっと喜んでよね!」
かわいい……?
未来からきた中学生の我が娘。
ガッシリとした体格に立派な髭と甲冑を着込んでいる。
その姿は武田信玄そっくりだ。
紀元前440年頃に古代ギリシャにて建設された甲斐の守護大名。
それがこの娘。パルテノン信玄だ。
「そうと決まれば早く早く!疾きことパルテノンの如しだよっ!」
いやちょっと待て、古代ギリシャで戦国大名で娘で中学生でオッサンって時系列とか色々おかしくね?ねえ!?
「いいから行くよパパ!風林火山!風林火山!」
っていうかパルテノン要素ねえぞコイツ!!
えっ、なんか机から続々と馬に乗った侍が出てきてんだけどあっ、ちょっ、放して!うわあ馬怖い!!
「行くぞ皆のどもォー!!」
僕の悲鳴も虚しく、パルテノン信玄は騎馬隊3000騎を率いて走り出した!
「パパだぁ〜っい好き!!」
完




