オニガリザン
《ご覧ください!世界各国で破壊を繰り返す怪獣、ジャドウキが遂にここ日本…島根に上陸した模様です!?》
「チッ、邪童鬼の野郎。とうとうコッチの存在に気付いたか…!」
ラジオから流れるニュースに山根君は悪態をついた。
ジャドウキ、突如として現れ世界を蹂躙している怪獣…いや、古代文明の巨大生体兵器。
「まだ気付かれたと決まった訳じゃないわ。たまたま、この遺跡の近くに上陸しただけかも」
そう言った当の景山さんだが、その表情は暗い。
わかっているんだジャドウキは。この遺跡には…奴を倒せる唯一のチカラ。
古代兵器オニガリザンが封印されていると。
「ラジオによると、一直線にこの遺跡のある安来市に向かってるらしい。確定だな。
さて、伝承によれば、この先の洞窟の奥にオニガリザンが封印されているそうだが…」
柊先生は僕を見て続けた。
「走れ太郎君。一人で行くんだ」
「そんな!ここまで一緒に来たのに!」
「どのみち封印は古代人の末裔である君にしか解除できん。
我々はせめて、奴の足止めくらいはしてやるさ」
無謀だ!
30メートルの巨体に、いかなる現代兵器も跳ね返すオリハルコンの皮膚、破壊を撒き散らす圧倒的暴力であるジャドウキに、
生身の人間など無力でしかない!
「だから、太郎君がはやく封印解除して私たちを助けてね」
「心配すんな。ジャドウキなんて俺のペン回しでギャフンと言わせてやるよ」
「柊先生…景山さん、山根君…。くっ!わかった!だから皆も無事でいてよ!!」
応っ!と頼もしい返事を背に僕は駆け出した。
ゴスン…ドスン…
この地響き…。
ジャドウキの足音だ!?
くそ!はやく!はやく!はやく!
僕は心臓が張り裂けるほどに駆けた。そして…
「これが…オニガリザン…!!」
洞窟奥に眠るように片膝立ちした。30メートルもあろうかという巨大ロボット。
独特の光沢と肌触り、装甲は魔鉱石ルリイロカネか。
そして手に持つひと振りの大太刀こそが、鬼を斬る神剣『鬼狩斬』
「伝承は…本当だったんだ…!」
ロボットの胸部までよじ登り、僕はいつも身につけている古代樹のペンダントを握りしめる。
するとペンダントが教えてくれる封印解除のキーワード!僕は叫んだ!
「バリダ・バリ・ダダドンダ!動け!オニガリザァーン!!!!」
胸部のルリイロカネが眩い光を放ち、僕をコクピット内部へと取り込んだ!
『私を眠りから起こしたのは貴方ね』
コクピットに座る僕に対面して立つ少女がいた。
「君は…?」
『私?私は…貴方達がオニガリザンと呼んでいるモノよ』
「だったらお願いだ!この機体を動かしてくれ!ジャドウキがすぐそこまで来てるんだ!」
『嫌よ。だって私が起動しようがしまいが、結果は同じですもの』
「そんな!?お願いだよ!友達や先生が危ないんだ!だから…!」
『はぁ…。やはり数万年くらいじゃ人間は変わらないものね。
近しい者のためなら、鬼になるのも厭わない。
…それがジャドウキを生み出したというのに』
「どういうこと…?」
『いいわ。教えてあげる』
少女は指先で僕の額に触れた。
すると、流れ込んでくるイメージが…!?
花が咲く庭園で走り笑う二人の少女がいた。
ひとりはこの少女で、もう一人は?
『彼女はリーシア。貴方達がジャドウキと呼んでいるモノよ』
ジャドウキは人間だった!?
『彼女は私の友達だった。本当に仲が良かったのよ私達。
でも、ある日それは終わりを告げる』
景色が変わった。
病院のような場所でベッドに寝るリーシア。
口には呼吸器、腕にはスパゲティのようにたくさんの管が機械と繋がっていた。
『未知の病気でね。もう助からないって言われたわ。でも、彼女の父親はそれを認めなかった』
ひとりのやつれた男が、病室からリーシアを運び出した。誰にも見つからぬようにこっそりと。
『父親の名はハーダム博士。天才科学者であった彼は、娘を冷凍睡眠装置に入れた。
いつか治療が出来る時代に賭けた。
冷凍睡眠装置が壊れないよう、壊されないように、自動修復自立反撃機構を搭載した装置を開発したわ』
映るイメージに巨大な怪獣。
まさか、その装置が?
『ええ。ジャドウキよ。
何が原因かはわからない。暴走したジャドウキは世界を壊し出した。
ここにきてようやく己の過ちに気付いた博士は、対抗兵器としてオニガリザンを開発。
何も知らない私は、そのパイロットに選ばれた。
終わらないジャドウキとの戦いが続いて五年後。私はある事に気付いたの。
コクピットから出られない事と、自分の体の成長が止まっている事を!』
気付くの遅くね?
『うるせえ。そして博士は言ったわ。オニガリザンからは、ジャドウキを倒すまで出られないし成長もできないと。娘は冷凍睡眠の監獄から逃れられずにいる。ならば友人である君も同じ苦しみを背負い戦うべきだと。
ジャドウキがリーシアだと知ったのはその時ね』
なんて勝手な!?ひどすぎるよ…!
『ふふ、でも…笑っちゃうわよ?私はどうしても外に出たくて。子供のままが嫌で、ジャドウキを倒したわ。リーシアだと知っていながらよ!!
最低でしょ。私』
イメージが切り替わる。
ジャドウキを倒し、核となる冷凍睡眠装置を抜き出し、それでも握り潰せずににいるオニガリザンの姿…。
壊せなかったんだね。
『…そうよ。ジャドウキとオニガリザンとの激しい戦いで、世界はとっくに滅亡してたの。
滅びた世界で一人きりになるのが怖かった…。
だから私は、冷凍睡眠装置を隠して、眠りについた。
核を壊さぬ限り、自動修復機能でいつかまた復活すると知りながら…!
これでわかったでしょ?私を起こしても、ジャドウキと戦えばまた世界は崩壊するわ。ジャドウキが世界を破壊するのとなんら違いは無い』
そこでイメージは消えた。
オグオオォォー…ォオン!!
空気を震わす咆哮。ジャドウキがすぐ近くまで来ている!
「確かに君のいうことも一理あるかも知れない。
でもさ、何もせずに終わるのなんて嫌だ!!
山根君はガサツだけど、実はすごく優しくていい奴だし。
景山さんは美人で頭がよくて、でも鼻にかけずにテスト前には勉強を教えてくれる。
柊先生は僕ら生徒を見守ってくれて、でも悪いことしたらちゃんと叱ってくれるんだ」
『それが何?』
「僕ら、友達になろう。みんなで一緒にリーシアちゃんを助けに行くんだ!」
『馬鹿じゃないの?助けるなんて、どうやって?方法は?』
「そ…それは……やりながら考えるよ!!」
『あっはははは!!ほんと、おバカさんね。
でもいいわ。気に入った!
貴方の馬鹿に付き合ってあげましょう!』
キュユィィゥー…ィン…!
エンジンの始動音!オニガリザンの瞳に光が宿る!
「ありがとう!太郎だ!」
『?』
「友達なんだから名前くらい覚えといてくれよ!」
『ああそういう。だったら私の名前は…アーナム!アーナムよ!
さあ、行くわよ太郎!』
「うん!オニガリザン……」
「『発進!!』」
ゴアアアアアアアア!!
オニガリザンは洞窟の天井を突き破り、地上へと飛び上がった!
そして目にしたのは………
ズタズタになって倒れたジャドウキと、
誇らしげに立つ山根君、景山さん、柊先生、リーシア。
『ぅえっ!?リーシア!!?』
「やあ遅かったですね太郎君」
「へー、それが古代兵器オニガリザンなのね?」
「み…みんな無事だった!?」
「おう、いやしかし、まさかペン回しのペンをロケットえんぴつに変えるだけで、空間ごと切り裂く神空波になるのは新発見だったぜ」
「山根だけじゃ自動修復する相手を倒せなかったわ。
やっぱり覚醒した私のサイコキネシスで核を抜き取れたのが一番の功績よね」
「それにしても、ボクがたまたま持ってた万能薬でリーシアさんの病気が治って本当に良かった」
「あなた方三人こそ、私を悪夢と病から救い出してくれた恩人…!
鬼を狩る者たち…デモンハンターズですわ!!」
あれから十年がたった。
ペン回しの山根
サイコキネシスの景山
万能薬の柊先生
オニガリザンに乗り込むアーナムとリーシア
彼らはデモンハンターズとして各地に出没するハーダム博士の魔の遺産『鬼シリーズ』と、今日も死闘を繰り広げているだろう。
一方ぼくは、10年前の自身の徒労に終わったあの日から、
何をやっても虚しく感じてしまっていた。
(頑張っても無駄とでも思っているのか?)
そんな声が頭に響く。
(人はやり直せるのだ。人でなくなりペンダントとなった今だからこそ、そう思える)
声は古代樹のペンダントから聞こえてくる。
気付いたのは数年前。このペンダントの正体はハーダム博士の意識体だった。
誰にも言ってないし、言うつもりもない。
そして捨てることも…出来ない。
(我輩がいなければ、お前は本当にひとりぼっちになるからなぁ…)
それはアンタも同じことだろ?
デモンハンターズの皆は、自堕落な生活を続ける僕に愛想をつかせて離れていった。
仕方ない。何をやったって長続きしないんだ。
僕はテレビを付けた。
(競馬中継…?おい、まさかまた賭けたのか?)
そんな僕でも未だに熱中できるものがある。
そう、ギャンブルだ!!
(太郎!わかってんの!?負けて今月も家賃払えなくなっても知らぬぞ!おいっ!?)
だからこそ……!
絶体絶命背水の陣……!
こんなヒリつくギャンブルだから楽しいんじゃねえか……!!
勝てば豪遊…!
負ければ腹いせにペンダントの力で鬼シリーズを暴れさせる…!
それだけの事よ……!
(この…!人として最低のクズ……ッ!!)
BAD END




