パンが無ければ
男は激怒した。
今年は不作ゆえ、食糧が満足に市民に渡らぬ。
そこにきて国の政策ときたら、『国の備蓄庫にある食糧を売り出す』という耳を疑うものだった。
怒りのまま男は城に乱入し、遂には女王の間まで突き進んだ。
五人もの兵士に取り押さえられながらも、それでも男は叫んだ!
「聞け!女王よ!備蓄庫の食糧を売り出すという政策は如何なものぞ!?
多くの民は、この不作に既に貯金も尽きておるのだ!それをした所で懐の余裕ありし貴族が買い占めるのが明らかであろう!?
それでは結局、我らには食糧などまわって来ぬ!」
これに答えたるはしかし、女王ではなく大臣だ。
「その方が申すこと最もである。
しかしな、実のところ備蓄庫にこの状況を収めるだけの貯蓄はないのだ。
当然貴族は買い占めよう。なれど、金が無きは国も同じ。
この不作に八方手を尽くし、予算も当て、もはや満足に扱える金貨も数えられる程度よ。
これこの今になった所で貴族は何かと理由をつけ出資をせぬ。
此度の政策の本筋は、一度貴族どもに食糧を買わせ、その資金で他国から食糧を輸入する事ぞ!」
「同じことだ!また貴族が買い占め、余った分を高く市井に流すだけであろう。
真実貴様らは、貧乏人は死ねと言っておるのだ!」
「我らとて、いかにより多くの民を救うため考えた政策よ。もちろん輸入の分には貴族に買い占めは控えるよう厳達す!」
「それでは遅いのだ!現に隣村では、食べ物が買えず倒れる者もでたと聞く!
まずは備蓄庫を民に開放し、そののちに他国から援助を受ければ良かろう!?」
「出来ぬな。国の威信に関わるし、何より我が国ほどでないにせよ、不作は他も同じ。
先立つ物もなく援助だけ乞えば、待つは属国はては植民地よ」
「民が飢えるよりマシだ!!」
「話にならぬ!各国食糧乏しき中で、国という体裁を失えば、今より更に酷い惨状になると何故考えが及ばぬか!?」
「ええい埒が明かぬ!しからば!そこな女王よ!貴方の考えをお聞かせ願おう!」
そこで、遂にずっと二人の話を聞いていた女王が口を開いた。
「えっとー、なんか君らの話は難しそうでよくわかんなかったー。
つまり………どういうこと?」
ギリッ!
女王のあまりの無知に歯を食いしばり、それでも男は訴えた。
「民はパンを買う金も無いと申しておるのです!!」
「なるほどねー。パンが無ければ……大臣、アレを!」
「御意!」シュバッ!
大臣は風のような速さで立ち去り、シュバッ!
すぐさま舞い戻った。
しかしてその手に持っていたのは…?
「パンが無ければギターを弾けばいいじゃない!」
エレクトリックギタァァアー!!!
「な…!ふ、ふざけているのか!?」
「いいえ大真面目よ!君の話はなんかー、イマイチ要領を得ないっつーか?
まあー、言葉じゃ伝わらなくても、言いたいこと全部音に乗せてアタイに…いや、国中に響かせて伝えてみなさい!!」
「チッ、女王よ。後悔しても知らぬぞ」
男は、今しがた自分を押さえつけていた兵士達から離れた。
それからそっと赤いギターを撫で、ゆっくりと肩に掛けた。
…前傾姿勢に脚を開き、片手を宙に掲げ一言。
「ェェェエエィ!!ロックンルォーォォオーッッッル!!!!」
ギュユワワワァーン!!
ワンマンステージが幕を上げた!!
ギャン!ギャン!ギュギュワン!
ジャカジャカ!ガテガテガテガテ!!
男の壮絶な演奏に瞬時に酔いしれる城内!
「女王様!かの者が操るテレキャスター!さながらアンプからファズがブレイクしてオーバードライブでありますぞ?!!」
(※作者にギター知識はありません)
「それだけじゃないわ!超絶カッティングから流れるようなグルーヴがEマイナーによってディストーションしている!?!?」
(※作者にギター知識はありません)
兵士すら感嘆の声をあげる。
「あの男やべえな…!ギブソンがレスポールのオーディオテクニカでバティストゥータだ!!」
(※もう何言ってんのかわかってません)
城内から流れ漏れるギターサウンドに魂を揺さぶられ、
もっと近くで聴きたいと、山のように民が城へと雪崩れ込んでくる!
今や城は巨大なライブ会場!俺らが立ってる場所が武道館だ!!
ロックが死んだなんて誰が言った!?言わせねえよ!この男がいる限りはなァ!!!
一人の男が一本のギターで打ち鳴らした音は、
CD不況が叫ばれて久しい昨今の中で500万枚という大セールを打ちたて、
その売り上げで国は飢えをノリノリ乗り越えましたとさ。
センキューベイベー!!




