シュガーエッグ
今日は記念すべき日だ。
今日は、付き合って半年になる可愛い恋人と同棲する。その記念日。
新築のアパート、僕ひとりだけなら、ちょっと広いし家賃も高め。だけど、彼女と一緒なら丁度いい広さだし、お互い働いているから家賃だって負担にならない。
くいくいっ、と、彼女が僕の袖を引っ張る。
なんだろうと振り向くと、彼女は無言のままメモを広げて見せてきた。
メモ用紙に書かれていたのは『チューして下さい』なんて、あらかわいい。
これから毎日、こんな砂糖を吐き出しそうな甘い生活が続くのだ。僕は甘党だからわくわくするね。
目を瞑り、唇を突き出す彼女。
慣れてないのか、なかなかの変顔になってしまっているけど、そんな所がまた愛おしい。あばたもエクボとはよく言ったものだよ。
僕は、そっと顔を近づけ、ふわりと唇を重ねた。
キスするのだって初めてじゃないのに、顔を真っ赤に照れながら彼女が言った。
「…う」
う?
うれしい…て言うのかな?
「ウポォゥッフ!」
くぽーぉん!
彼女は、口から鶏の卵を吐き出した。
吐き出したそれを、愛おしそうに胸に抱き、僕に言った。
「…産まれたみたい」
「ん?」
「私と貴方の子供よ」
「ああん?」
「キスしちゃったから、子供ができちゃったのね」
「よっしタイム!そーかそーか。卵を口の中に入れてたから、あんなブッサイクなキス顔してたんだな」
「おォん!?ブサイクって失礼ね!違いますー!キスしたせいで孕んで産みまちたー!
ちゅーしたら子供ができるって、あずきちゃんでも言ってたもーん!」
「あずきちゃんはそんなピッコロ大魔王みたいな出産はしません!」
「ふふふ、だったら、女の子ならあずき、男の子ならピッコロ大魔王って名前にしましょうか」
「御免被るわぁー。なんなの?卵吐き出してどうするつもりなの?」
「羽化するまで温めるわ!」
「その卵、どうせスーパーで買ってきたやつだろ?」
「うん、お一人様ワンパックで安かったの」
「やっぱり買ったやつじゃん!無精卵じゃん!?温めても無駄じゃん!?」
「まあ!なんでそんなに冷たい態度なのかしら!
私たちの子供なのよ?もっと真剣に考えてよ!!」
「それは僕たちの子供じゃないし、鶏の子供だし、何より無精卵だっつうの!」
「無精卵無精卵って!無精卵って言えば責任逃れできるとでも?
認知してよッ!!」
「くそが!付き合いきれねえよ!」
「待ちなさい!なに逃げてるの!?
私たちどんな困難も二人で立ち向かうって約束したじゃない!ねぇ待って!」
「煙幕!」シュボォー!
「うぬぅぅ!小癪な真似をォー!
ぐぎぎぎぎィ……どこじゃぁ〜………どこに行きよったァ〜…!」
ガタン!
「ソコかあああああ!!殺ャァアアアアア!!」
ズドムッ!
「ひゃははは!殺った!…いや、これは丸太!?」
「変わり身の術さ。本物の僕はここさ!」
「台所なんぞに隠れておったか!ひひひ!しかしこれでもう逃げ場はないゾ!!」
「ああ。そうだな。お前の言う通りだ。
もう逃げも隠れもしない!
さあ、その卵を…僕たちの子供をもっと近くで見せておくれ!」
「貴方…!やっと父親としての自覚が芽生えたのね!嬉しいっ!
ええ、ええ、これが私たちの子供………いや待てしばし!」
「どうした?早く見せておくれよ?なあ?」
「近寄らないで!!!」
「おいおい、さっきから逃げるなと言ったり来ないでと言ったり変だぜお前?」
「……どうして、さっきから両手を後ろに隠しているの?」
「…………」
「その手に持ってる物を見せなさいッ!!」
「……やれやれ、バレちまったなら仕方ねえな。そんなに見てぇなら見せてやんよォー!」
ババーッン!
「ハゥア!?そ、そそそそれは!ほかほかご飯にしょうゆ差し!!
まさか貴方…この子をたまごかけご飯にして食べるつもり!??」
「だと、言ったら?」にやり
「あな恐ろしや!外道!!悪魔!!鬼畜米兵!!我が子を喰らうサトゥルヌス!!
おんどりゃーこの短編集をグロでR15指定するつもりかボケぇぇえー!!」
「なんとでも言うがいい。へへ、美味そうな卵だ。オラもう我慢できねぇだーよ!!」
「ヤメテ!この子に手を出さないで!代わりに私がラップを歌うからヤメテっ!ミューゼク、スタート!」
ドゥンチャ♪ ドゥンチャ♪
そして彼女は歌い出した!
「Heyヨォォー!! (yoooo!!!)
二人の愛からコケコッコー!
それ食うお前マジ無鉄砲!
思い出そうぜ俺らの邂逅!
出会いは放課後夕暮れ学校!
授業をサボった社会へ反抗!
キレて罰を言い渡す先公!
鶏小屋の掃除で候!
小屋の場所がわからず迷子!
(セリフ)あの時…本当に心細かった。だけど君が…君が助けてくれたんだよ。
鶏小屋ならあそこだよって…。
色とーりーどりーの鶏がー
飛ーべーもしない小屋のなかー
トーニィー君は留学生 (say)
とーりーあえーずバックレたー
翌日マジギレ先公に!
よくも逃げたと叱られた!
今日こそ掃除しろと脅され留学生に押し付けた!(トニーィィイ!!)
トニーの友人のお前は一緒に!
小屋の掃除を手伝った!
影から見守るアタイはお前ら!
眺め笑った滑稽ね!yo!コケコッコー!カモ!コケコッコー!
こんな私でよければけ、結婚……して下さい////」
「ばかっ、お前いきなり、卑怯だぞ…////」
「答え…聞かせてもらっていいカナ…?」
「そんなんお前…もちろん……結構結構コケコッコー!!」
「ぃよっしゃらあああああああ!!!!!」
こうしてこの日は、僕らの同棲と、結婚記念日となった。
あ、卵は常温で傷んでたから捨てた。
happy end




