青い太陽
その日、太陽は青になった。
なんの予兆も、脈絡さえなく、太陽は青になったのだ。
この異常事態に、様々な者が様々な仮説を唱えていた。
ある量子物理学者は、「近年の宇宙観測によって、人々の太陽の認識が改まり、量子の揺らぎから青色へと反転したのではなかろうか」と、
二重スリット実験を参考に説明した。
ある生物科学者は、「宇宙風によって太陽系外から特殊な電磁波が地球に降り注ぎ、それが原因で生物の視覚野に異変が生じたのではないか?」と、
いくつかの共感覚の症例を挙げて説明した。
ある哲学者は、「何者かが、イデアと呼ばれる真理の世界に存在する太陽を青く塗り変えたのだ。
我々はイデアを基準に世界を見ているのだから、そのような結論に至る他なかろう」と、
完全なる三角形がどーたらこーたら説明した。
ある某少年漫画編集部のミステリー調査隊は、「つまり…、これはノストラダムスの大予言だったんだよ!!」「な…なんだってー!!?」
と、まあ、あまりに色んな仮説がポコポコ沸いてくるもんだから、人々はどれが正しいのか分からず混乱してしまいました。
しかし、この世には大衆が疑問に思う事柄に、良くも悪くも果敢に挑む職業がありますよね?
そう、マスコミです。
そのマスコミの中でも極めて華々しく、華麗な者…人呼んでアナウンサー!
ある一人のアナウンサー、彼女は人々の疑念を解決するため、今、太陽への直接インタビューを敢行するのであった!
──はじめまして太陽さん。取材にご協力いただきありがとうございます。
「はじめまして。インタビューなんて40億年以上生きてきて初めての体験なので、なんだか緊張しちゃいます」
──あら、じゃあこれが初体験なんですね!太陽さんのハジメテを独占できるなんて、ちょっと興奮します。
「も、もう!何言ってんですか!かかか、からかわないで下さい!」
──あはは、すみません。それで、早速本題に入らさせていただきますが、
最近太陽さんが青くなられた理由、お聞きしてよろしいでしょうか?
「はい、わかりました。あ、あのですね。
私、今まで『私は太陽だぞー!大きいんだぞー!』って、すんごい思い込みをしていたんですよ」
──思い込み?すると、太陽さんは大きくないと?
「ええ。なんでも広いこの宇宙には、私より大きい恒星なんて、それこそ星の数ほどあるって話を聞きまして…」
──それは、誰から聞いたんでしょうか?
「木星君です。木星君に『俺は恒星になれなかったけどさ、でもさ、君だって恒星って割には超新星爆発できないよねぇ?やっぱりさー、恒星ってのは超新星爆発してナンボだと思うんだよねー』
って言われて、それで、気になって調べたら、いろいろ分かってしまったんです」
──確か太陽さんの10倍くらいの質量が最低条件でしたね。
超新星のこだわりはブラックホールに対する憧れ、みたいなものでしょうか?
「いえ、確かにブラックホールはかっこいいと思います。
でも私はそれより超新星爆発によって飛散したチリやガスがまた集まり新たな星を生み出すってのが羨ましくて…。
私だけかも知れませんが、女として生まれたからには、赤ちゃんっていいなって、つい思ってしまうんです。
でも、私はせいぜい白色わい星になれたらいいくらいだから、分不相応な夢だったんですよ…」
──そういった事が原因で太陽さんは青くなられた?
「ああっ、違います!その原因は、ちょっと話が戻るんですが、やはり私より大きい星がたくさんあるっていうのがショックだったんです。
我ながら自尊心が高いですね。嫌な女ですよ全く」
──そんな、私は太陽さん、すごく立派な女性だと思います。強い芯を持ちながら温かい光を与えてくれる太陽さんは、まるで太陽のように素敵な方だと。
「えへへ、お世辞でも嬉しいです」
──お世辞じゃありませんよ。お天道様に誓ってもいいです。
ところで、先ほどいろいろ調べてショックだったと仰いましたが、差し支えなければ一番ショックが大きかったことを教えていただけますでしょうか?
「それはやはり、あれですね。私より700倍も大きい星があると知った時ですね。
もう、今まで私は大きいと良い気になってたのが恥ずかしいやら悔しいやら悲しいやらで、一気に血の気が引きました。顔面真っ青です」
──もしかして?
「はい。ようするに、その時私が青くなったのです。
全く、アンタレスは怖ろしいですよ」
──あんたレズ!??
ちょっ、太陽さん何言ってんです!?
わっ、私はレズじゃありません!百合です!レズじゃなくて百合ですからッ!!間違わないでください!!
「…うん?はあ、よく分かりませんが、えーっと、レズと百合って違うんですか?」
──全っ然違います!いいですか!百合って言うのは、こう…!
クイッ
──あら太陽さん、プロミネンスが少し曲がってらしてよ?
「はっ、はわわわわわ!!?アナウンサーさん何を!?
や、やだぁ…全国中継でみんな見てますからぁ…」
──ふふふ、見せつけてあげようじゃないか。太陽さんの核、すっごくドキドキしてるのわかるよ?
「あああんドキドキしすぎて赤色巨星にまで膨張しちゃいそうだよぉぉ〜ぅ!!」
──もっと君とフレアいたい…!ペロペロ。ペロペロペロペロ!
「ひゃんっ!?そこは温度が低い所だよぉ〜!そんな黒点舐めたらやぁぁ〜!!」
──うふふ、太陽さんったら恥ずかしがって真っ赤。まるで太陽みたい。
「あ…ああ…んっ!ああああああああああ!!!!」
こうして太陽は、元の真っ赤な太陽に戻ったのです!
「つまり…、百合(?)は宇宙を救うんだよ…ッ!!」
「な、なんだってー!!?」
完