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ミソロギア  作者: dusk☺︎
第一章
8/27

七話目

洞窟は、思ったより深かった。

暗くてよく見えなくなってきたので、リンは魔術で火を灯して、落ちていた木の棒の先に着火する。

オレンジ色に照らされる岩の表明。

湿っているのが、不気味だと感じた。


イオは怖がるというより、怯えているようだった。

ぴったりリンにくっついている。その身体は、微かに震えていた。

何かの記憶を思い出したのだろうか?それともこのような場所で何かあって、それで記憶を失ったのだろうか?

……唯、暗い所が苦手なだけか?

考えを巡らせながら、リンは歩を進めていく。

何度か岩の角を曲がり、ぐねぐねとうねった中を進んでいると、不意に何かを蹴った感触があった。

「…?」

不思議に思って下を見、火で照らすと、


「……え………っ」


人の手が落ちていた。

ゆっくりと根元を追っていくと、二の腕から先が、無い。

本当に、手だけが落ちているのだった。

思わず目を見開く。

これは、相当やばいかもしれない。

イオも気づいたのか、ひっと息を飲んでそれを凝視した。

「やべぇな……どんな奴なんだよ……?」

はは、と何も面白く無いのに漏れた笑い声。

果たして対抗出来るのやら、と弱音が出そうだ。

しかし依頼を受けた以上、ここで引き返してはいすみませんでした、では済まない。


行くしか、ない。


リンはごくりと喉を鳴らして再び歩き始めた。離れないように、イオも着いて歩く。

進んで行くにつれて、不気味さが増す。しかし、さっきの手以来、人の身体は落ちていなかった。


そして、また角を曲がって……目の前が、黒一色に染まった。

驚いて、しかし声を発さないようにしながら、恐る恐る顔を上げる。

漆黒の毛。……いや、羽毛だ。

洞窟の穴ギリギリまでモフッと広がった大量の羽毛が、二人の視界を閉ざした。


……巨大な鳥だった。


リンもイオも、それを見上げて思わず絶句していた。

怪鳥はモコモコと動いている。しかしその場から移動はしないところを見ると、どうやら眠っているようだ。

そして此方には気づいていない。


……チャンスだ。

リンはイオに、指で合図した。

″俺が先に仕掛ける。タイマツを貸すから、少し下がってろ″

意味を理解して頷いたイオに、タイマツを渡す。

彼が下がったのを確認して、リンは右手に魔力を集中させた。

身体の奥底から手先に向かって、力が流れてくるのが伝わってくる。

大分溜まったのを感じると、感づかれないように小声で呟いた。


(フラム)小球(グローブル)


右手の内部から外部に魔力が流れる。手をすり抜ける時、魔力から変化し魔術となって、それが熱を帯び始めたのが解った。

紅の小球が、手の上で燻る。

そして未だ此方に気づかない怪鳥の背に向かって、……それを撃ち込んだ。


「ギャ⁈⁈」


下品な叫び声が洞窟に反響した。途端、怪鳥の身体が炎を纏い、激しく暴れ始める。

血走った目が、二人をギロリと捉えた。

「イオ、走れ!!」

今出る精一杯の声でリンが叫び、来た道を全速力で戻り始めた。

理解できていなさそうなイオの手を引くと、後ろから追ってくる怪鳥に負けじと足を速める。

ひたすら道を駆け戻り、心臓が跳ね上がるのも無視して逃げる事を最優先させる。


もうすぐ出口。

光が見えた瞬間、リンは外に向かってイオの手を離した。

走ってきた勢いでイオは外に出る。

いきなり止まったリンを、不安げに振り返ったのが目の端に映ったが、言葉を発する隙は無い。

洞窟を出るギリギリで片足を軸にして、瞬間的に半回転すると、洞窟の奥に向かって両手を伸ばす。

地を揺るがすような音と共に、火達磨になった怪鳥が暴れながら此方に走ってくるのが見えた。瞬時に確認する。そして逃げながら溜めた魔力に命令を与え、魔術へと変化を起こす。


(フラム),(ヴェント)爆発(エクスプロート)!!」


自然存在式から魔動変化式へと即座に上書きしていく。

怪鳥が目の前に迫って来た途端、対象となったその存在は、


……爆発した。


リンはその勢いで後ろに跳ね飛ばされる。怪鳥はもがく隙も無く、木偶のようにその場で固まったまま、跡形も無く散った。

血肉まで焦げて、後には何も残らなかった。

死ぬかもしれなかった恐怖と、敵が消えた安心感を同時に感じて、リンは不意に力が抜けた。

イオだけは、自分の目で見た事が信じられないかのように、ただ茫然としていた。


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