四話目
◆四話目◆
「ほんとにどんな仕事でも受け入れるのか?」
朝早くから聞こえてくる、子供らしい声。
「そうしようよ!その方がいっぱい仕事来るよ!」
「ギルドかよ……。おい怪物退治とかの依頼来たらどうするんだ、闘えるのか?」
「それはリンの担当だよ」
「お前なぁ!」
テーブルに着き、二人で新たな仕事の話をしているようだ。
昨日の出来事ですっかり結束したリンとイオは、お互いに意見を言い合っていた。
「……ったく。解ったよ、取り敢えず依頼内容は自由にするぜ。人殺しとかそういうのだけ少し規制かけるけど、後はフリーだからな。覚悟しとけよ」
「決まりだね」
仕事の中身が決まった所で、次の問題を引っ張り出す。
「んで、本当に此処でやるのか?」
「そうしよう?場所借りたりするの面倒だと思うんだ」
「来るかな、こんなとこまで」
「町でチラシとか配れば大丈夫じゃない?」
結局リンの家でやる事になった。
チラシと看板作れば大丈夫だろうというイオの考えに、リンは少し不安を覚えつつ頷く。
やってみなければ解らない。考えるのはそれからだ。
そんなわけで、二人は看板を作る為に近くの森へ入っていった。
看板の素材となる木が必要だと判断したからだ。
まだ太陽も低く、朝の独特な涼しさが感じられる。
がさがさと雑草を掻き分けつつ進んで、不意に先を歩いていたリンが止まった。つられてイオも立ち止まる。
「この木が丁度良いかな」
目線の先には、他の木に比べ太くてがっしりした木があった。
「何するの?」
「何って、看板作るんだろ?」
どうやって?という顔のイオに、リンは待ってろ、と口にした。
そして木に近づくと、その焦げ茶色をした幹にそっと片手を押し当てた。
そして何かを感じ取るようにゆっくり目を閉じて、一言呟く。
「変化」
その言葉に反応するかのように、大きな木の全体が淡い緑色に光り出した。
「解体」
瞬間、木がバラバラと紙のように表面からめくれ始めた。何千、何万もの木の欠片が、リンの前でゆっくりと渦を巻いている。
「構築」
最後の一言で、舞い散っていた紙のような破片たちは、地面一箇所を目指して吸い込まれるように集まった。
強い風が吹き、リンやイオの服がばたばた音を立てた。
暫くして、全てが止んだ。
ゆっくりイオが目を開けると、草の上に大きな板……看板が横たわっているのが見えた。
「……わぁ、凄い……っ!!」
テンションが高いイオを、リンは笑ながら見た。
魔力と呼ばれるものを木に流し込み、其処で変化させたーーー、何て言っても、きっとイオには欠片も理解出来ないのだろう。
「文字どうする?」
口許を綻ばせたまま、リンはそう問いかけた。
「そっか、まだ決めてなかったね」
はた、と思い出したように顔を上げる。しかしまだ興奮は収まっていない様子だった。
「単純に、″悩み解決相談所″じゃダメかな?」
「ほんとに単純だな!」
「解りやすい方が良いかと思って」
まぁ変な名前付けるよりマシか……、とリンは渋々首を縦に振った。
正直、自分に名前を考えろと言われても、変なのしか出てこない気がする。
溜め息を吐いて、すっ、としゃがんだ。
右手の人差し指と中指を立て、看板に空書する。最後の文字を書き終えると、指の先がうっすら光ったように見えた。
途端、空書した跡が今度は白く輝いて、文字が浮かび上がっていった。
木で出来た看板に、青色で″悩み解決相談所″という文字がある。
その完成度の高さに、イオはさっきにも増して興奮していた。
「やっぱりリンは凄いや!」
「いやこれ、魔術の基礎ら辺のとこなんだけどな……」
魔力を流して、物体を操る。
元素という、この世の何処にでも存在し、魔術を使うのに必要とされる”素材”が要らない、単純に己の魔力を操作する技術のようなもの。
魔術師にとっては、魔術を学ぶに於いて基礎と言われる。
確かに、それだけを極めて強くなる魔術師も居るが、大抵は其処から元素の領域に踏み込んで行くので、普通最初に基礎として習う。
本当に知らないんだな、と少し不憫に思った。もちろん口には出さなかったのだが。
更にリンは他の木を一つ選び、それを使って多めにチラシを作った。
そして移動魔術とかいうもので、家まで一瞬で運んでいった。
この森は町で管理していて、許可を取れば少量の木を使う事が許されるんだ、とリンはイオに解説したのだが、イオは「お金使わなくても良いんだね」と笑顔で返した。恐らく何か勘違いしているようだった。許可といっても少しは金を渡さなくてはならないのである。
作業が昼までに終わったので、二人は休憩をとってから午後には別行動した。
リンは家を掃除したり、来客用に少し改造したりすることにした。
イオの方は、町に行ってチラシを貼ったり配ったりしに行った。
夕方には全て終わり、オレンジ色の夕日が町を照らす頃には、二人並んで家の前に立っていた。
家の屋根辺りには、先程作った看板が掲げられている。
相談所、と書かれた矢印付きの棒が、ポストのように家の前に刺してあった。
「何か、変な感じだな」
「どうして?」
「自分の家が仕事場になるとか」
リンが自らの家を見つめながらそう言った。
「仕事、来ると良いな」
ぽつりと漏れた言葉に、
「来るよ、きっと」
またぽつりと返事が返った。
「てか疲れたな。今日は早めに寝ようぜ。明日仕事来るかもしれねぇし」
不意にリンが声を上げた。イオも、そうだね、と振り返って笑って見せる。
「リンは気が早いねぇ」
「お前だって楽しみにしてるだろうが」
「え、そう見える?」
「お前全部顔に出るんだぜ。自覚してねぇのか」
「えっ、本当⁈リンの観察力が凄いだけなんじゃ無くて⁈」
二人でたわいもない会話をしながら家に入っていく。
明日から仕事場となる、その家に。
仕事、と言っても、きっと最初はもの探しとかそんなもんだろうな、とリンは考えていた。勿論、確証は無いが。
仕事。
そしてそれは唐突に、早速やって来たのだった。