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ミソロギア  作者: dusk☺︎
第一章
2/27

一話目

彼方まで広がる海に、ぽつりと浮かぶ一つの島。

ルドネシア王国という国に所属するその島は、1日あれば一周出来てしまうくらいの大きさだからか、人も其れ程多くない。


そんな小さな島の一角で、ちょこんと突き出た岩に腰掛け、釣りをしている少年が居た。

リン、という名前の、この島に住む15歳の少年。

隣に置かれたバケツには、何も入っていない。

釣り竿を持った彼の格好は少し風変わりで、ポンチョに黒いピチッとしたシャツ。その下にだぶだぶのズボンを履いてベルトでとめた感じだった。


「釣れねェー!」

不意にリンは叫んだ。

もう何時間もこうしていたのだ、そろそろ限界だって来る。

「……もう行くか」

少ししんみり呟いたリンの、短いダークレッドの髪が、風になびいた。

左の一部の髪がとても長いようで、それを三つに分けて二つはリング状に、残りはそのまま垂らしていた。彼が立ち上がると、それらはポンポンと揺れる。

釣り竿の糸を戻そうとしたその時、


「⁈」

びぃん、と。

糸が張った。

「おっ……⁈」

何かが掛かった。小魚じゃない、ずっしりとした重み。大物の予感がした。

「む、ぐ、ぐ、ぐ……!」

一向に糸の先が上がらないので、リンはひたすら力任せに引いた。

ここで逃したくはない。

精一杯力を込めていると、少しだけ釣り竿の先が軽くなった気がした。

……今だ。

「せぁっ!!」

竿が、ぐんっと上に上がった。ばしゃぁぁ、という音と共に獲物が釣り上げられる。リンはその衝動で尻餅をついた。

「つ、釣れた……!」

額に少し浮かんだ汗を拭いながら、リンが釣り竿の先を見た。

そして唖然とした。

「え、あれ、此処どこ⁉︎」

そこには、釣り糸の先を持ったまま焦っているびしょ濡れの少年が居たのである。

暫く二人で見合って、そして二人同時に叫んだ。



「「誰⁉︎」」




* * *




「で、お前は海に落ちて溺れてた時、釣り糸が食い物に見えたと。それで思わず掴んだと」

「うん、そうそう」

どんだけ腹減ってたんだよ、とリンは思った。溺れて苦しい時にまで食い物の事を考えられるとは、相当食い意地がはっているのか唯の馬鹿なのか。

てか釣り糸が食い物に見えるって何。そんな奴聞いた事もない……あっても可笑しい話だけど。

しかし、その割には釣り上げても糸が切れない程体重が軽いようなのだが。


釣り上げられた少年は、まだびっしょりと濡れている。それでも彼は平気そうだ。

……濡れても立っているアホ毛は阿呆の象徴だろうか?

しかし、見れば変わった服を着ていた。

緩い生地の上下黒い服に、特徴的な白い布を片方の肩からかけている。一部が腕にかかっていて動きにくそうだ。服の襟首には高そうな宝石が付いていた。

少なくともこの島の人間じゃない、とリンは感じた。


「いやぁでも助かったよ、有難う。……ええと、何ていう名前なんだい……?」

雫の垂れる銀髪を弄りながら、少年は聞いた。左頬にかかっていた髪が横に流れると、青い星のような模様が見えた。

刺青だろうか。

片頰だけに?……何処かで、似たようなものを見たような気がするが、思い出せない。

……そんな事、如何でも良いか。

少年の模様を見つめながら、問いに答えようとして、しかし無意識に、リンは出まかせの言葉を放った。

「何処の誰かも解んねぇ奴に言えるかよ」

……あ、またやっちまった。

リンは言った直後に後悔した。

いつもの癖で、名前を聞かれると答えるのを拒んでしまう。

自分でも自覚している、嫌な癖。

……絶対悪い印象持っただろうな。

しかし少年はあっけらかんとしてこう言った。

「僕?僕はイオっていうんだ。よろしくね」

にっこりと笑って、付け足す。

「僕、何にも解んないんだけど……良かったらこの島の事とか、教えてくれないかな?」

リンは目を見開いた。

始めて会って、始めて交わした会話でハッキリ突っぱねられて、ここまで返してきた奴は過去に居ただろうか。

記憶に残る中では、殆ど居なかった気がする。

少し、興味が湧いた。

「あぁ、……ごめん。俺はリンっていう」

呟くように言葉を漏らす。小さく謝罪を付け足したのは、謝らなくては感じの悪いままだと思ったからだ。

「この島の事なら何でも聞いてくれ。大体は把握してるから」

口許に笑みを浮かべる努力をして、それからリンは手を差し出した。

しかしイオは何をするのか解っていなかったようで、少し動揺して見せる。

あ、知らないのか。

……まじか。


「握手」

リンはそのままイオの片手を掴んで握った。

「挨拶とか、交渉成立した時とかにするんだよ、やったこと無いのか?」

「ごめん、知らないや」

イオの表情はきょとんとしていて、本当に知らないのだという事が伺える。

大体何処の国でも、握手はすると思っていたリンは、此奴まさか何も無い辺境の地から来たんじゃないかと疑ってしまった。








イオの服が少しでも乾くのを待って、それから二人はリンの家に向かって歩いた。

特に行く当ても帰る所も無いとイオが言ったので、リンが自分の家に連れて行くことにしたのだ。

町の外だからか、殆ど建物も見当たらない道を、二人で話しながら通った。

「ねぇリン君、本当に君の家に行っても良いの?」

不意にイオが投げかけた質問に、リンは前を向いたまま答える。

「リンでいいよ。てか行く当て無いって言ってる奴、置いてけないだろ」

「誰かに迷惑かからない?その、家族?とか……」

「居ねぇし」

さらっと出てきた爆弾発言に、イオは一瞬遅れて驚愕の表情を浮かべた。

「親父は仕事でどっか行ったっきりだし、母さんは数年前死んだ」

「……ごめん」

イオが震えた声で呟いた。

「良いって。今はもう慣れた、し……?」

そこでイオがついて来ていない事に気付いて、リンは振り返った。

そしてぎょっとした。


立ち止まって俯いたままのイオが、ぼろぼろと泣いていたのである。

「は……、えっ?何どしたの⁈」

「ぼ、僕……何にも考えずに……っ、変な事聞いちゃって……ごめん…」

「あ、いや……何で泣くの⁈」

リンには、何故イオがそんなに大泣きしているのか解らなかった。

どうしたものかとオロオロして、何か言わねばと口を開く。

「ほら、もう行こうぜ?暗くなるしよ……」

「……うん」

涙で潤んだ翠色の瞳を上げて、イオは小さく頷いた。


そしてリンの少し後ろについて歩き始めた。

「……」

「……」

……犬か‼︎

リンは心の中でそう叫んだのだった。


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