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狼の独争  作者: 紅崎樹
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シルビア・ヴァリュースの場合

6 シルビア・ヴァリュースの場合

 学校に行くと、アンネちゃんが入院して暫く学校に来ないことになったという連絡が入った。この辺では何が起こるかわからないので、この学校で長期欠席者がいてもそう不思議ではないのだが、こうも立て続けにとなると流石に皆も不審に思うようだ。

 カティリア君に続きアンネちゃんまでもが長期欠席。カティリア君に関しては、欠席の理由もわからず、かれこれ一週間以上学校に来ていない。

「シルビア」

 朝の学活が終わるとカナちゃんに声をかけられた。何のためらいもなしに私に話しかけてくれるのは、この教室の中にもうカナちゃんしかいない。

「アンネ、大丈夫かな。心配だね」

「そう、だね。どうしたのかな」

 カナちゃんは此処へ来てまだそこまで経っていないから、皆よりも余計不安だろう。しかし、どんな言葉を掛けてあげればいいのかなんて私にはわからない。

「なんかね、反乱軍の銃撃に巻き込まれたらしいっていう、物騒な噂が流れていたけれど」


「……え?」


 カナちゃんにとっては何気ない台詞だったのかもしれない。さらっと出てきたその台詞によって、私は頭を思い切り殴られたかのような衝撃を受けた。

「あ、あくまでも噂ね?」

 その後の話は、よく覚えていない。


 その日はずっと授業に身が入らなかった。今朝のカナちゃんの言葉が頭の中で反芻する。

 そして、昨日のことを思い出した。襲撃から無事帰ってきた後、私の相棒が言っていた台詞を。

 ――子供を一人、撃った。

 あの時はそこまで深刻に考えていなかった。走り出した後に背後から銃声が聞こえたのを覚えていたし、それが相棒の発砲したものだということも薄々わかってはいた。しかし、私の知る所ではないと考えていたのだ。


 私は幼い頃、『レイ』という殺人鬼により両親を失った。当時私は、その現場に居合わせなかったがためにただ一人残されて、親戚に引き取られた。その頃の私には、両親が殺されたことなど理解できなかったし、急に親戚に引き取られたことを不思議に思うこともなかった。

 私を引き取ってくれた親戚の家は、とてもとても貧乏だった。それなのに、幼くして両親を失った私のことをとても大事に育ててくれた。生活費を削り、私を学校へ通わせてくれた。

 だからこそ私は、国のしていることを知ることができた。

 学校へ通い、他の人たちと同じように字を読めるようになった私は、家の物置に積まれてあった書物を手に取った。初めは、ちょっとした興味本位からだった。私を引き取ってくれた叔父と小母は生まれも育ちもリギーツェだが、二人とも学校には通えず読み書きができないのだ。だから、山積みのその書物が何故此処にあるのか不思議なくらいだった。

 一体、其処に何が書かれているのか。それは、私がそれを読まなければわかるはずのない事だった。

 私は、本を開き読み進めていくうちに、だんだんと怒りで手が震えていった。

 そこには、今までこのチャートキタン国のしてきたことが事細かに書かれていた。チャートキタン国の三大都市のぜいたくな暮らしが、誰のおかげで成り立っているのかも、その他の地域で暮らしている人々がどれほど貧しい暮らしをしているのかも。国王が、貧しい人々から巻きあげた金で何をしているのかも。

『この国の王は自分のことしか考えていなくて、その他の人間などケダモノと同じと考えている』

(私の両親が殺された時も、国は何の処置もしてくれなかったそうだ)

(叔父と小母があんなにも一生懸命働いているのに、いつまで経っても貧しいままなのは、国のせいだったのだ)

 私はその時決意したのだ。

 反乱軍に入ろうと。


 反乱軍は、国に逆らい、自分たちの正義のために闘う組織だと聞いていた。私も私の正義のために、誰もがいい暮らしのできる国になればいいとそう願って、反乱軍に入ることにした。

 私が入った頃はまだ、一つの組織としてまとまっていた。軍員の一人一人が、より良い国へ変えるため、一つの目標に向かっていたのだ。

(それが……まさか)

 時が経つにつれ、反乱軍はどんどんと大きくなっていった。軍員の人数を把握できなくなるまでに。そのうち、ただ暴れたいだけの連中が反乱軍を名乗り始めた。いつしか反乱軍は、国だけでなく国民へも危害を加えるような存在になってしまっていた。

 私は、幾度となく反乱軍を抜けようと思った。しかし、かつて同じ未来を求めて戦ってきた仲間たちを置いて、自分だけが抜けるような真似はしたくなかったのだ。

(……アンネちゃんが)

 どうしてアンネちゃんが撃たれるような状況になったのか、私はよくわからない。相棒が言うには、アンネちゃんが私のことを追いかけようとしていたそうだけど。

 もしそれが本当なのであれば、私がアンネちゃんを巻き込んだことになる。きっと私がシルビアだということに気が付いて、私を追おうとしたのだろう。

 私が、アンネちゃんを巻き込んだ。

 その事実をちゃんと受け止めなければいけない。

(そうよ)

 そして私はようやく決意した。

(反乱軍なんて、なくなればいいんだ)


 ある夜、一人の少年が家を訪ねて来た。

 親戚の小父と小母は、二人ともすでに他界している。私が中学に上がる前、病気を患ってそのまま……。今は独り暮らしをしているのだ。生活費や学費は、国に支援金をもらってどうにかしている。あんなに恨んでいたのに、そんな国に支援してもらっているというのも変な話だが。

「はい」

 珍しくインターホンが鳴り、家に誰かが訪ねてくるなどいつ振りだろうと思いつつ、私は玄関の戸を開けた。そしたら其処には少年が立っていたのだ。

「どちら様?」

 少年は、黒のキャップに黒のパーカー、おまけにジーンズという黒ずくめの格好をしていた。帽子の鍔から覗いて見える肌は、真っ白だ。それはまるで作り物のようで、闇に怪しく浮かんでいた。無造作に束ねられている髪の毛は、色素の抜けかかったような茶色をしている。

「ワヌーム隊って聞いて、あんたは何を思い浮かべる?」

 その声を私はどこかで聞いたことがあるような気がしたが、それがどこだか思い出せない。それに、この少年と会うのは初めてのはずだ。

 少年は何の許可もなしに、私を押しのけて勝手に家に上がろうとしてきた。

「ちょ、ちょっと君!」

「俺の質問の答えが先だろうが。あんた、反乱軍の一員ならそんくらい聞いたことあるはずだろう?」

 乱暴な言葉づかいで言い放たれ、私は畏縮してしまった。

 先ほど彼は『ワヌーム隊』と言った。勿論、聞いたことはある。

 国が指揮を執っている警察とは違った、一つの大きな組織だと聞いた。国民のことを第一に考え、国をより良いものにすることを大きな目標として掲げているそうだ。勿論、警察だって同じ目標を掲げているが、警察のそれは形式だけのものだ。ワヌーム隊は国が関与していない分、より自由に色々な事件に当たることができるらしい。

「とてもいい組織だと思うよ。でも、それが、どうしたっていうの? 君は何?」

 ずかずかと他人の家に入っていく少年の後ろを、ただ付いて歩く私。リビングにたどり着くと、少年はぐるりと勢い良く振り返った。

「よし、ここで話をしよう。その辺に座らせてもらうぜ、お姉さん」

 その辺と言っても、私の家には最小限の家具しか置いてない。少年は机に腰掛けると、脚をぶらぶらと揺らしながらゆっくり口を開いた。

「さっきお姉さん、ワヌーム隊のことを『いい組織』っつったよなあ? 俺もそれには同感だ。でも、変な話だよなあ。反乱軍が? 追われてる身だっつうのに? どうしてそんなことが言える」

 少年の一言一言が、私の心に突き刺さる。少年は、私が反乱軍であることをあらかじめ知っていたようだが、それについて問いただす余裕もなくなっていた。

「お姉さん、何の下調べもなしに、何の覚悟もなしに反乱軍に入ったんだろ。それで今までずうっと、何しようが誰が死のうが、知らん顔してきたんだ。でも、なあ? オトモダチが撃たれちゃあ、そんな組織に居続けることなんてできねえよなあ?」

「それは違う!」

 私は、ついカッとなって声を荒げた。

「私は確かに、もうあの組織に居続けることはできないよ。でも、何の覚悟もなしに反乱軍に入ったわけじゃない。本来の反乱軍は、国民のことを何も考えていない国に反抗することだった。私が入った頃の反乱軍は、こんなものじゃなかったの!」

 私はさらに続ける。少年は、ただにやにやと笑いながら私の言葉を聞いていた。

「アンネちゃんの件があって、あんな組織、もうあり続けるべきじゃないと思った。……ううん、今回の件が起こるずっと前からそんな風に思ってた。でも、いつかまた、前みたいにまとまった組織に戻るんじゃないかって、そう期待してたの」

 言っているうちに気持ちは落ち着き、私はそこで言葉を切った。

 誰とも知らない少年に、こんなことを言ってもどうにもならないのに。

 少年が何者であるのか知らないままあんなことを言ってしまう私は、考えなしだと思う。しかし、この少年の前では、何を隠しても無駄だと思ったのだ。そんな気にさせる何かを、この少年は持っている。

「よくわかった、お姉さん!」

 先程まで黙っていた少年だが、暫くしてそう声を上げた。

「……え?」

「お姉さんの国に対する考え、反乱軍への思い入れ……よくわかった。要するに、『仲間を裏切るようなことはしたくないが、こんなことを続けるのは嫌だ』って感じだろ?」

 少年は机から腰を上げ、私の目の前まで来ると止まった。先程までのくせのあるにやけ顔ではなく、とてもさわやかな笑みを浮かべていた。

「つまりは、反乱軍に籍を置き続けること自体には、そこまで思い入れは無いってとってもいいわけだ」

「……どういうこと?」

 トントンと話を進める少年に、私はついて行けていなかった。少年は満足げに笑うと

「それじゃあ、本題に入ろうか」

と言った。


「俺はワヌーム隊の者だ。やってることは、まあ、前までの反乱軍と同じようなもの。それを仕事としているか、そうでないかってくらいの違いさ。で、ワヌーム隊としては、今の国に不満を持ち、よりよい国を築こうという志の高い隊員の加入を望んでいる。……この辺で、なんとなく言いたいことわかってきた? そう、つまりワヌーム隊は、反乱軍の軍員を快く引き受けるって話をしに来たのさ」

 私はいずれにせよ、目を丸くせずにいられなかった。

 話自体はとてもいいものだった。ワヌーム隊に入れば、きちんとメンバーも管理されるだろうし、よりためになる活動が行えるようになるだろう。仕事ができれば、国なんかに頼らなくても生活できる日が少しでも近づく。

 しかし、それにしても。

「仮にその話が本当だとして、どうして私に話しに来たの? そういうのって普通、リーダーとかに話を通すものでしょう?」

 それだけではない。本当にそんなことが可能なのか、ということだ。仮に反乱軍を解散させたとしても、勝手に反乱軍を名乗る連中が後を絶えなくなるのではないだろうか。今度はまとめるものがいなくなり、ただ暴れたい連中が、国ではなく何の罪もない国民たちに危害を加えるようになるのではないだろうか。

「この話は、うまくいく可能性が極めて小さい。もしうまくいかなかった場合は、仕方がないが反乱軍の軍員は捕まえざるを得ない。これ以上被害を出されるわけにはいかないからな。だからこそお姉さん、貴方に、協力してほしいんだ。

 俺たちの作戦はこうだ。まず二週間に一度の集会ってので、そこに居るメンバー全員の身柄を確保する。その後、ワヌーム隊の方で、一人一人の様子を見つつ隊員にふさわしい人材を決める。法を犯していた奴らを捕まえるのにも丁度いいしな。銃を持っていた件に関しては、まあ目を瞑る方向で行くらしいが。

 ただな、一つ問題がある。俺たちは、次の集会が行われる場所を知らないんだ。毎回場所が変わるだろう? それを貴方に教えてほしいんだ。さっきは協力なんて言ったけれど、貴方にしてほしいことはそれだけだ。集会の場所さえ教えてもらえれば、俺たちはあんたら反乱軍を救うことができる」

 少年は一度言葉を切り、唇を湿らせると、再び口を開いた。私はただただその話を聞いていた。いつしか、少年の語りに引き込まれていた。

「俺だって、何の覚悟もなしに敵の陣地に入り込んだわけじゃねえ。もしお姉さんがこの話を断って、この場で俺を殺すというのなら、それを自分の定めだと思って大人しく従おう」

 こんなうまい話を、どうして手放すことができよう。私には、此処でその話を引き受ける以外の道は無い。

「今の話、信じていいの?」

「この通り、俺にはお姉さんに危害を加えるつもりはねえよ。それがどういう意味か、分かるだろ?」

 少年は両手を上げてヒラヒラしたり、パーカーのポケットを裏返したりして、自分が手ぶらで来ていることを証明した。

「次の集会の場所を、教えればいいのね?」

 私が覚悟を決めてそう訊くと、少年はにやりと笑って「そう来なくっちゃ」と言った。


 アンネちゃんが学校を休み始めてから、丁度二週間が経とうとしていた。今日がいよいよ反乱軍の集会の日である。

 何日も前から、私はずっとそわそわしていた。今日で私の今後の人生が決まるのかと思うと、落ち着くことができなかった。

 夜、家を出る前に、いつものように着替えると深呼吸をした。

(私の様子が少しでも変だったら、相棒はきっとそれを不審に思うだろう……平常心、平常心……)

 あの後少年は「ワヌーム隊の奴を何人か、その集会所に紛れ込ませよう」と言っていた。本当にそんなことが可能なのかわからないが、ワヌーム隊にかかればそのくらいはできるのだろう。

 大きく息を吸い、そして私は家を出た。


 今日の集会所は、デジウカ第五区の北部にある廃屋だ。電車を乗り継ぎ一時間ほどで着いた。其処もやはり表通りとは打って変わって、前回の場所と似たように人家がなく廃れていた。表ばかりが栄えているのがこの国の特徴である。

 建物に入っていくと、既に数十人来ていた。軍員はとても多いので、全てのメンバーを把握しきることなど不可能だ。見慣れない顔がちらほらあるが、彼ら彼女らは正規のメンバーなのだろうか。

 私の相棒は体格が大きいので見つけやすくて助かる。今回も少し探せば、簡単に見つけだすことができた。

「よう、相棒」

「うん。こんばんは」

 声を掛け合い、その後は何を話すわけでもなくただ一緒に居て会が始まるのを待つ。

(もしあの少年の話が現実になったら、この人はワヌーム隊に入るかな)

 今までお互いの命を預け合ってきた仲だ。たとえアンネちゃんを撃ったのがこの人であったとしても。こうして会うのが今日で終わりなど、少し寂しすぎる。

 暫くして、リーダーから指示が出された。リーダーの前に四、五列ほどに分かれて整列する。私は背が低いくせに真ん中の列になってしまったので、前が全く見えなくなった。

 リーダーは、全員が並び終え静かになったことを確認すると、いつものように説明を始めた。今日襲撃する相手がこれまでしてきていること、襲撃する目的、そして大まかな位置情報。

 私の右隣の人は新しく入った人のようで、位置情報以外はまともに聞いていなかったように見える。その態度から、この人はワヌーム隊には入らないだろうと思った。

 暫くしてリーダーの説明が終わった。

 此処までは普段通りだ。私は少し焦りを覚える。あの少年の話通りなら、今日この場に居る全員の身柄を、ワヌーム隊で確保されることになっている。それなのにもう少しで全員がこの建物から出てしまい、全員を確保するのがより困難になってしまう。出入り口を見張って、出てきたところを狙うつもりなのだろうか。それとも私は騙されたのだろうか……。

「それでは、解散!」

 リーダーの号令により皆が動き始めた。私が動かずにいると、相棒が不審に思ったようで「どうした?」と声をかけられた。

「あ、ううん。なんでもないの。行こうか」

 そう言って、動こうとした時だった。

「皆さん、こんばんは」

 どこかで聞いたことのある声がした。声の聞こえた方を探すと、出入り口の戸の前に一人の少年が経っているのが見えた。

 無造作に束ねられた色素の薄い髪。作り物のような真っ白な顔。そして、あの声。間違いない、この間の少年だ。

「これはこれは、一体何の集まりです? 楽しそうですねえ、私も一つ混ぜてはいただけませんか?」

「なんだ、手前!」

 誰かが声を上げた。声の調子からして、随分と苛立っているようだ。無理もない、と思った。少年のわざとらしい笑顔と丁寧な言葉遣いが、こちらの心を苛立たせる。

「『なんだ、手前』。それはこちらの台詞ですねえ。他人の所有地に勝手に入り込んで、一体全体何をしていたんです? 本来ならば、すぐにでも不法侵入で通報しちゃってもいいんですけど、ねえ」

 他人の所有地……? 現在此処は廃屋で、所有も何もないではないか。

「知らなかったんですか? 運が悪かったですねえ。此処、少し前に」

 そして少年は言葉を切り、大きく息を吸った後


「ワヌーム隊が買い取ったんだっつうの!」


 叫んだ。

 先ほどまでの爽やかな笑顔とは一変、にやりと歪んだ笑みを浮かべた。

 少年の言葉を受けて、何人かが弾かれたように駆け出した。それに続き、皆裏口を目指すがそれはどうやら無駄だったようだ。

「くそっ! 開かない!」

 裏口の一番近くに居た人の声が聞こえたところで、少年は続ける。

「残念だったな、既に施錠済みだ。もう逃げ場はねえぜ? この場に居るすべての奴等は、今日をもって反乱軍を辞めてもらう! 反乱軍は余計な被害を出し過ぎた。有無は言わせねえ。絶対命令だ!」

 少年はあたりの様子を見渡した。少年の視線に、誰も身動きが取れなくなる。そして少年は続ける。

「かつて反乱軍は、国民のことを尊重する組織だった。それが、今はどうした。ただ暴れたい奴らが反乱軍を名乗り、責任をすべて反乱軍に押し付け、反乱軍は国民を危険にさらす集団だと言われるまでに成り下がった! 生半可な覚悟の奴等が加入したことにより、反乱軍は崩壊したんだ! そんな奴が反乱軍を名乗る資格なんざねえ。そんなに暴れたいんなら、どっかのチンピラの相手でもしてやがれ!

 そして、本気で国を変えるべく反乱軍に加入した者たちに告げる。我らと共に、この国を変えようではないか! あなた方には、己の命を懸けて、己の一生を捧げる覚悟はあるか? 家族を捨てる覚悟はあるか? 国を恨み、よりよい国を目指すものは申し出よ! 勇気ある者の加入を、我らワヌーム隊は心から望んでいる」

 少年の言葉は他人を引き込む力強さがあった。私は相棒と顔を見合わせ、笑った。

「あの餓鬼、いいこと言いやがる」

 相棒も、口に出さずにはいられなかったようだ。私が反乱軍に入ったばかりの頃のような、生き生きとした表情をしていた。

 あの少年によって私たちは変わるのだ。

「うっせえんだよ」

 と、どこかから声が上がった。

「うぜえんだよ、お前。さっきから黙って聞いてりゃ、ぴーちくぱーちくほざきやがって。何様のつもりだ? 餓鬼はとっととお家に帰りな!」

 誰かの台詞の直後、銃声が鳴り響いた。少年がよろめく。どうやら少年に向かって発砲したようだ。

「おっとお兄さん。発砲だなんて物騒だなあ。それに物騒なだけで全然怖くない。それ、弾の無駄だからよした方がいいよ」

 銃弾が当たったのだと思っていたが、少年は何とも無いようで飄々と言う。銃口を向けられた直後だというのに、まるで声が震えていない。

「な、何なんだよぉ!」

 そんな少年の様子に更なる苛立ちを感じたのか、男性はさらに二発ほど発砲した。今度は二発とも全く的外れなところへとんでいった。

「あれ? さっきの言葉、聞こえなかった? 今みたいなのが正に弾の無駄なんだって。まるでなってない。撃ったときに体幹がブレブレだよ?」

 少年は平然と男性に近づいて行き、ひょいっと銃を取り上げた。

「さて、と。そんじゃそろそろお仲間に登場してもらおうかな。

 長々と待たせてすんませんでしたー、突入お願いしまーす!」

 少年が外に向かって言うと、大勢の大人が一気に入ってきた。いつの間にか裏口の鍵も開いていて、そちらからも人が雪崩れ込む。

(終わった……)

 私は、急に足の力がふっと抜けてバランスを崩した。

 これは安堵によるものだろう。

「おい、どうした?」

 相棒が、ふらつく私を支えながら心配そうに声をかけてくれた。

「ううん、なんでもない」


 今回の件で、反乱軍がすっかりなくなったわけではない。これから先も、残りの反乱軍員の活動は続くだろう。

 しかし。

 私の反乱軍としての生活は、今日をもって終了した。

 これで私は本当に、国を変えるための活動ができるのだ。

「これから、なんだ……」

 高鳴る胸に手を置きながら、私は自分に言い聞かせるように言った。

  (シルビア・ヴァリュース――完)

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