レオン・シュノーの場合-4
14 レオン・シュノーの場合‐4
昨朝カナを訪ねてきた後輩がいた。その時にカナが見せた表情から、僕は彼女が殺人鬼レイに似ていることに気づいた。だがあくまでも似ているというだけである。第一に性別が違うし、年齢だって違う。
しかし、カナが転校してきた時に生じたあの疑問は解消された。カナの顔に見覚えがあったのは、レイの顔に似ていたからなのだ。あんな殺人鬼と一緒にしてはカナに悪いかもしれないが。
教室に入ると、既にカナが来ていた。挨拶を交わして幾らか他愛ない話をした後、僕はさり気なく昨日の後輩のことを訊いてみた。
「そういえば、バキア……だっけ、あいつの用件は何だったんだ?」
いかにも生真面目そうな子だったが。
「それがさ、信じられないの。私のことを、あの殺人鬼レイじゃないかって疑ってきて。冗談も程々にして! って思ったよ」
肩を大げさに落としため息を吐くカナ。芝居がかったその言い方に、僕もつい気が緩んだ。
「でも、そう言いたくなるのもわかる気がするな。確かに君は、レイに似ている」
「えー、レオンまでそんなこと言うの?」
苦笑交じりにカナが言い、顔を見合わせてから笑った。
一瞬まずいことを言ったような気がしたが、カナは大して気にしていないようだ。まあ確かに、あんなことを本気で言っているとは思わないか。
そう考えていた所だった。
「え、ちょっと待って。なんでそんな事わかるの?」
気が付くと、カナの顔から笑顔が消えていた。かなり取り乱している。
(やっぱりあんなことを言うべきじゃなかったんだ)
僕はあんなことを言ってしまったことに後悔した。
「さっきの話は冗談だぜ? ……口から出まかせっていうかさ」
何とかカナを落ち着かせようと言葉を掛けてみたものの、一向にカナは落ち着かなかった。冷静を装ってはいるものの、どこかそわそわしている。
――キーンコーンカーンコーン
とそこで予鈴が鳴ってしまった。
ホームルーム終了後、僕はカナに声をかけた。
「さっきの話さ……」
「ああ、あれ? 冗談なんでしょ、わかってるって」
とても心配していたのだが、カナは先ほどと打って変わってケロッとした様子で笑っていた。
「でも、女子に向かってあれは駄目でしょう。私じゃなかったら、嫌われてたかもよ?」
にやりと笑いながらそう言い、カナは別の場所へ行ってしまった。
(なんだ……)
正直、カナの変わりように戸惑いを隠せずにいた。僕から話しかけたのに、一言しか話せなかったし。
しかし、安心はした。僕が考え過ぎだったのかもしれない。いつもの彼女に戻っていたし、先ほどのあれはただの演技だったということもあり得る。彼女がちょっと茶目っ気のある人だということを、僕は既に知っていた。
――私じゃなかったら、嫌われてたかもよ?
最後の言葉が存外嬉しくて、その日は暫く浮かれていた。
(レオン・シュノーの場合――続)




