レオン・シュノーの場合-3
12 レオン・シュノーの場合‐3
「カサルが……、カサルが逮捕されたって!」
開口一番、カティリアはそう言った。
「……は?」
一人で興奮しているカティリアのテンションに、僕はついていけなかった。
(逮捕ってどういうことだ?)
その言葉と、その言葉の意味とが結びつかない。何故カサルの名前とその単語が一緒に出て来たのか。
「おい、カティリア。幾らカサルが嫌な奴だからと言って、言っていいことと悪いことがあるだろう?」
「いや、そんなんじゃないって。マジな話よ、これ。先生がそうやって言っているのを聞いたんだって!」
必死にそう言ってくるが、そんなもの、すんなり信じられる方がどうかしている。
「どっちにしろカサルは学校へは来ないんだろうぜ。先生から直接聞けば、レオンだって信じざるを得なくなるさ」
その言葉通り、僕はその話を信じざるを得なかった。
その日のホームルームで、先生から話があった。直接的な原因は言わなかったが、カサルが退学することになったということを知らされた。これでカティリアの言う通りならば、今頃カサルは取り調べを受けている頃だろうか。
「ほらな」
ホームルーム中、隣を見るとそうとでも言いたげなカティリアの顔があった。
「なんか、こんな短い間に二人もいなくなるなんて吃驚だよ」
ホームルーム終了後、カナに話しかけられた。
「此処じゃあそこまで珍しい話ではないけどね」
僕を挟んでカティリアがそう返す。確かにこの学校は生徒の出入りが多いことで有名だが、僕も少しばかり動揺していた。こんな短時間で二人もこのクラスから抜けた。二人とも転校と言うのならまだわかるが、うち一人が退学となれば話は別である。
(本当に学校を辞めさせられることがあるんだ……)
退学なんて自分たちとは全く関係のない話のように思っていたが、一気に身近に感じた。幾らカサルが嫌いだったとはいえ、あいつも不運な奴だと思った。
「そうそう。ちょっと前に転入生が来たらしいぜ。一年だっつったかな……。ま、こんなだだっ広い学校じゃあ、会うこともないだろうけどさ」
不意にカティリアが話を変えた。その話は僕もつい最近聞いたものだった。
「ああ、その話なら僕も知ってるぜ。コウザユルから来たんだってよ。タビィとは関わりの深いところだし、カナ、案外そいつの知り合いだったりしてな」
「あれ、いつの間にかお前、『カナ』って呼ぶようになったのな」
カティリアに小突かれた。僕は、「だってギダワークだと長いだろ?」と返しておいた。
「カナちゃん、後輩君が呼んでるよー」
昼休みに幾人かの男子で雑談をしていると、カナを呼ぶ女子の声が聞こえた。
「後輩?」
カナには心当たりがなかったのだろう、首を傾げていた。
教室の入り口を見ると一人の男子が立っていた。あれがカナを呼んでいる『後輩君』なのだろう。赤い縁のめがねが印象的だ。
「あ、あれって一年の転入生だろ?」
一緒に話していたうちの一人がそう言った。
「名前は確か……バキア・ネイシム」
「げ……」
バキア・ネイシムという少年の方を見ながらカナは声を漏らした。彼女の瞳がすっと冷たくなるのを感じた。
(あの顔……あの表情)
その時、カナを初めて見た時に感じた感覚を再び感じた。僕の頭の中で、ある二つの人物が結びついた。
前髪から覗く切れ長な目。すっとした鼻。肩辺りまで伸びた髪は、色素の薄い黄土に近い茶色をしている。無駄な肉がついていない華奢な身体。
(あいつだ)
カナ・ギダワークの外見は、僕が見た殺人鬼『レイ』の特徴とあまりにも似ていた。
(レオン・シュノーの場合――続)
ようやくレオンが真相に近づきました。予定よりもずいぶん長くなっております。
そういえば最近、今までの話を全て読み返したのですが、読点が予想以上に多くてびっくりしました。あんなにたくさんつけていたとは……。無意識のうちに付けちゃうんですかね。あと、変換ミスもいくつかあって。すみませんでした。以後気を付けます。
さて。
学校であるにもかかわらず、カナをウルフの表情へと戻させてしまった『後輩君』。彼とウルフの関係は? 彼の正体は一体……!?
と言うことで、次回はバキア・ネイシムの話です。




