交差する運命のオフ会―とある海底遺跡の場合―
私は葛城 宇佐美。日本にいる普通の女子高校生一年生である。
勉強は普通。体力も普通。友達付き合いも普通。特に何が得意でも、趣味もない。街中に雑踏とした人々の一人。何処にでもいるありふれた普通の人だ。
そんな私だが、最近になって普通の日常が“異常”な日常に、普通ではない異常な出来事が始まった。
――――――――――――――――――――――
「あの、皆さん……一つ質問良いですか?」
私は暗い通路の中で、皆に質問してみた。皆は歩きを止める事はなかったが、何人かだけ私の方を向いてくれた。まあ歩きを止めなくて良かったと私は思っている。
「どうしたのですか、うさぎさん? もしかして歩き疲れました?」
そう答えてくれたのは私と同い年のクスノキさんだった。相変わらず女性に対しての気配りが良くできています。これなら彼女が出来るのは当然だと思います。
「なんだ、もう疲れたのか? まだ先は長いぞ」
「貴方は本当に親切心の欠片もないですねソウゲツさん」
「俺はギブは好きだが、ライクは嫌いでね♪」
そう言っているのは白いスーツを着たソウゲツさん。彼はイタリアンマフィアの首領で、衰退していくイタリアンマフィアを今日まで世界屈指の犯罪組織に仕立て上げた悪の親玉である。いつかは世界征服を考えているとかいないとか。
そんなソウゲツさんに腹を立てているのが高級感なグレーのスーツを着ているのはムーミンさん。若くして初めてアメリカの女性大統領に選ばれたエリート中のエリートである。彼女のお陰でアメリカに関する国家問題を三割まで解決したと言われている。
「僕は鎧を着ているから、かなりキツいのですが……」
「なら鎧を脱げば良いではないかお主は。わざわざそんな物を着込んでいるお主が悪い」
「なんだと、魔王!! お前は重力魔法で体を軽くして楽すんなよ!! …まあ年寄りには無理だろうが…」
「誰が年寄りだ!! 我はまだ18だ!! 髪のせいで老けて見えるだけだ」
「二人とも隊列を乱すな!! 軍人として隊列を乱す事はどれだけ危険か…」
「「僕(我)は軍人じゃない!!!!」」
そんな私の後方でコントみたいな事をしている三人。
白銀の鎧を着ているのはマナツさん。異世界から来た勇者で、腰に提げている剣はオリハルコンで造られた伝説の剣らしい。
その隣にいる黒い王族服を着て、高そうな宝石やら身に付けているのはゾークさん。こちらもマナツさんと同じ世界(つまり異世界)から来た魔王です。あらゆる魔法を使い、あちらの世界では『歴史上最強の魔王』と言われている。
そして二人の近くにいる見た目が鬼軍曹で、軍服を着ているのがウィキさん。『ロシアの銀狐』と異名を取り、あり得ない速度の音速戦闘機を乗りこなす。
「キャットさん。よそ見するとあぶないですよ」
今声がした金髪の女性はドラゴンさん。本業はイギリスの007と言われた女スパイ。彼女にかかればどんな要塞も忍び込む事が可能だとか。でも私達の中で一番ついてない人でもある。
そして私達の先頭にいる人物…いや…
「大丈夫ですよ、私は。それと少し頑張って下さい、うさぎさん。あと少しで“目的の場所”に着きますから」
そう、この“黒猫”こそがキャットさん。私達がオフ会で集まるきっかけを作った人らしい。自分が何者なのかは明かせないとも言っている。
何故こんな個性を持った人達が集めたのか。それはキャットさんが依頼した“リレー小説を書く”というものだった。
私達は特に断る理由もなく、私達9人でリレー小説を始めた。
「そして私達はリレー小説を書いていた…はずなのに、なんで“こんな場所”にいるのでしょうかね…」
そう…今私がいる場所とは…幅のあまりない小さな石橋を歩いていた。その石橋下は暗闇で見えないほどかなり深い。
石橋を一歩でも踏み外せば、死に直結する
そんな恐怖が私を包み込む。
「なんでーー!? ただ机に向かってペンを振るえばいいはずの事なのになんでこうなったの!? だれか説明して!!!?」
半場泣きそうになりながら、私は皆に説明を求めた。そんな私の気持ちとは裏腹に皆は私をじっーと見ていた。
「何故…と言われましても」
「だってな~」
「そうですね」
あれ、仲間の大半が呆れたように私を見ている。何故!? ホワイッ!!
「何を言っていやがる。今回はウサギのためのやっていることじゃねえか」
ソウゲツさんが呆れながら私に言っている。私? 私のせいなの?
すると先頭で道案内をしていたキャットさんが振り向き私に目を向ける。
「ウサギさん。忘れたのですか? 三日前のあの出来事を?」
「三日前…?」
三日前…。三日前の私は何をしていたんだろうか。
私はキャットさんが言っていた三日前の出来事を思い出す。
―――――――――――――――――――――
三日前
「……書けない」
私達はいつも集まる場所で、リレー小説を書いていた。別にいつも集まる必要はないのだが、大半の人が暇をもて余しているので、小説を書いている人が書き終わり次第すぐに書けるように待っていた。
一人は政治関係のお仕事をしたり、一人は裏の武器商人との取り引きをテレビ電話で交渉したり、その取り引きの情報をイギリスの本部に報告したり、お互いの趣味を語り合ったり、チェスをしたり、猫じゃらしで遊んだりしていた。
今日も8人は仲良く暇をもて余していた。そう、私一人を除いて…
「……はあ、書けない」
そう私だけペンを持って、ノートと向かうあっていた。ノートは真っ白。綺麗な白だった。
「駄目だ…全然筆が進まない」
こんなに書けないのは久しぶりだ。まるで閃かないのは。
そんな私の見ていた猫じゃらしを持った黒猫のキャットさんが駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか、ウサギさん?」
「…そう見えます?」
「いえ、ゾンビより酷い顔色されています」
「それは言い過ぎですよ!! そこまで酷くないです!!」
ゾンビよりって、どこまで酷いのですか。
そんな話をしていると周りの皆が集まってくる。
「なんだウサギ行き詰まりか? 俺なら一時間で1万字越してやるのに」
「ウサギさん。私の国で開発したスパイキットの一つ、『緊張鳥』を使います? これはですね…」
「うむ、そんな日もある。私も小説を書いていると不思議な事に、ペンがゲーム機に変わっているミステリアスな出来事があった」
「それはただウィキさんが誘惑に負けただけですよね。まあ、僕も途中で剣を磨いたりしましたけど…」
「何か紅茶でもいれましょうか、ウサギさん」
皆は私を励まそうと色々と話してくれる。それだけで、私は頑張れる気がする。
するとユーミンさんが駆け寄り、真っ白なノートのページを見る。
「そんなに続きが書けない内容だったのですか?」
「…ちょっと難しいですね」
「ウサギさんの前は…キャットさんですね。キャットさんはどんな内容を書いたのですか?」
そう言って、ユーミンさんは私のページの前を見る。そう、そこには…
―キャット編―
「ぐはぁ!!」
「活暴ピンク!!」
活暴レッドは国家公務員の攻撃を避けて、活暴ピンクに近寄る。敵の攻撃により活暴ピンクは重症を負ってしまった。
「くぅ!! このままじゃ…」
活暴戦隊の誰もが諦めかけた瞬間…
「待てい!!」
背後に見知らぬ人が仁王立ちで待っていた。
「安心しろ。俺が来たからにはもう大丈夫だ」
「あなたはいったい…」
背後にある太陽の光で顔は見えない。だが徐々に目が慣れていき、顔が見えた。
「俺か? 俺の名は……」
―ここまで♪―
「「「「「「「………………」」」」」」」
私とキャットさん以外の皆が小説の内容を見て固まった。うん、私も最初に見た時はそんな感じだった。
そしてユーミンさんは持っているノートを閉じて、キャットに笑顔でノートを渡す。
「…キャットさん書き直し☆」
「えええええええええ!!!? 何故ですか!? 何かおかしな所がありました!?」
「全部だと思うぞ。なんなんだ、活暴戦隊っていうのは?」
「知らないんですか!? 今ネット社会で話題の戦隊ヒーローですよ!!」
「すいません、スパイとして情報検索は色々してますけど、聞いたことないです…」
「そんな事ないですよ!! 戦隊の人数が29人いたり、メンバーの色かぶりが多かったり、悪よりも闇よりも混沌に満ちた戦隊ヒーローなんですよ!!」
「……それはヒーローとしてどうなんだ? 俺の悪より酷いぞ?」
「更にネット界を飛び出して、今や現実世界にもいるのでは? と囁かれている都市伝説もあるとか」
「都市伝説になる戦隊ヒーローとか珍しいがな…」
皆それぞれの思いをキャットさんに言っているが、キャットにさんは書き直す気はないようだ。
「良いのですよ、皆さん。キャットさんも頑張って書いたのですから。私が続きを頑張ってかけば良い話なんですし」
「でも、ウサギさん…続きを書けるのですか?」
そう言われると自信がまるでない。アイディアが全然でないのも確かである。私は腕を伸ばして体を疲れを取ってあることを呟いた。
「はあ……何処かにすらすら書けるようなペンとかないかな~」
あるわけないよね。そんな都合の良いようなペンなんて。
「ありますよ」
「へっ?」
私は変な声を出して、キャットさんを見た。え…本当にあるの? そんな魔法のようなペンが? その話に他のメンバーも食いついた。
「本当なんですか、キャットさん!!」
「ええ、本当ですよ。そのペンを持ってば、分厚い文庫本を僅か30分もあれば書けると言われています」
「凄いですね、それ! それがあれば家の家計簿とかも楽になりそうですね」
クスノキさん。それはちょっと宝の持ち腐れですよ。
「私も使ってみたいです。イギリスに贈る報告書とか貯まっているので、是非使ってみたいです」
ドラゴンさん。貯めないで頑張って下さいよ。
「とにかくそのペンが欲しいな。何処にあるんだ? 何処の書店や文房具売り場にあるんだ!?」
ソウゲツさん。流石にそんな場所にはないと思いますよ。だったら私がもう買ってます。
……でも何処にあるんだろう?
「じゃあ、何処にあるんだ?」
「場所ですね……ここになります」
部屋に置いていた地球儀を回して、キャットさんが“ある場所”に指を示した。そこは…
「ここって……何処?」
キャットさんが指したのは、アメリカよりの大西洋だった。ちゃんと調べれば陸地があるかもしれないが、地球儀から見れば陸地は何もない。ただ一面海しかないのではないだろうか。
「あれ? この場所って…」
「これは、また凄い場所だな」
「ほほう。また楽しそうな場所ではないか」
「まさか…」
ユーミンさん、ソウゲツさん、ウィキさん、ドラゴンさんが何か気づいたようだ。ソウゲツさんは珍しく驚いて、ウィキさんは楽しそうに笑みを浮かべている。
「皆さん、ここに何があるのですか?」
「そうですよ。ウサギさんと僕と魔王にもわかるように説明をお願いします」
「そうだ。異世界から来た我はこの場所の事を知らないのだ」
そんな返しに四人は呆れている。いや、正確には私に呆れているように見える。あれ、なんで?
「まあ、異世界組はわからないのは理解出来ますが、ウサギさんは分かって欲しかったわ」
え!? そんなに有名な場所かな。私には記憶はないけど…。そんな私にクスノキさんは優しく説明してくれた。
「良いですか。この場所はフロリダ半島の先端、大西洋にあるプエルトリコ 、バミューダ諸島を結んで、中心にある“有名な海域”をなんです」
有名な、ある海域…? フロイダとプエルトリコとバミューダ…あ、ここってもしかして!?
「わかりましたか、ウサギさん。お二人はわからないと思いますので、説明を続けますね。バフロリダ半島の先端と、大西洋にあるプエルトリコ 、バミューダ諸島を結んだ三角形の海域をバミューダ海域といいます。別名として…」
そう無知な私でも知っている。世界七不思議に入るであろうとする“あの海域”を…
「バミューダトライアングル……またを名を『魔の三角形』と言われて、船乗りや飛行機乗りの間では恐れられている事故多発海域なんです」
―――――――――――――――――――――
「なるほど。で、そのバミューダトライアングルはそんなに危険な場所なんですか?」
マナツさんが質問してくる。それをクスノキさんが答える。
「海難事故が多発しているだけでなく。船に乗っていた乗客や乗組員が消えてしまったという奇怪な事件も噂されているです」
あーそれ、私もテレビで見たことある。100人以上乗っていた船だけ見つかって、船には誰もいなくなっていたって。
「で、キャットさん。このバミューダ海域の何処にあるの? まさか…」
「はい。ご想像の通り、この海域の海底にある遺跡に眠っています」
うわー、遺跡きたよ。なんで遺跡にそんなのがあるのだろうか? と思っているとキャットさんが説明してくれた。
「この遺跡は数百年前までは、一つの小さな島にあったんです。当時遺跡は海賊の住み家でそのペンの他にも様々な宝を溜め込んでいたと聞いています。ですが大きな地殻変動で島が崩れて遺跡は宝もろとも海底に沈んでしまったそうです」
へぇーそんな事があったんだ。いつも思うけどなんでキャットさんはそんな話を知っているんだろうか。
そんな疑問を浮かべる私だったけど、周りの皆の目が怪しく光っている。
「私の国にそんな歴史的建造物が眠っているなんて。これを発見すれば、更に私の国に発展が…」
「お宝が眠っているのか。発見者は一割を…いや、そのまま盗んでしまえば…」
「フフフ…私のスホイカスタムと呪われた海域。どっちが上か試してみようと思っていたところだ」
「遺跡を調べて発表すれば、私は一躍スパイ有名人に…」
「遺跡だと…。僕が一番好きな探索ではないか!!」
なんか欲望にまみれた発言しついるのですが…。誰からツッコば良いだろうか。とりあえず、ドラゴンさん。スパイ有名人ってなに?
「では、皆さん。決まりましたね。私達のすべき事が。皆さん海底遺跡に行きたいか!!」
「「「「「行きたい!!」」」」」
え、もう、行くこと決定なの? なんか嫌な予感がするから行きたくない。
「ちょっと皆さん。遺跡の場所の詳細を知らないんですよ。バミューダ海域だけでもかなりの広さが…」
「大丈夫です。詳細な場所のデータは私が持っていますので♪」
「…でも海底まで行く手段が…」
「私の国で開発した海底探査挺で行けば大丈夫です。最大で1万㍍まで潜れます♪」
「…何があるかわからないんですよ。危険なモンスターがいるかも知れませんし…」
「では軍人がいれば安心だな♪」
「最凶のマフィアもいるぜ♪」
「魔物なら勇者にお任せを♪」
「魔王が入れば怖くはなかろう♪」
「…でも調査許可なんて出るわけが…」
「アメリカ大統領が、ここに許可します♪」
私の必死になって断ろうとしているのに…。ああ、仲間達が全員見てる。そしてクスノキさんがニッコリと笑いながら
「行きましょうか、ウサギさん♪」
「……………はい」
私は膝を崩して、了解という名の敗北宣言をした。
―――――――――――――――――――
そして私達9人はユーミンさんの自家用ジェット機でアメリカのフロリダ州に直行し、そのままリムジンでアメリカ海軍の軍艦に乗り込み、遺跡のあるバミューダトライアングルまで向かった。
まあ、そこに行くまで間に、その辺にいた海賊をソウゲツさんが蹴散らしたり、音速戦闘機でバニューダ海域を横断しようとするウィキさんを皆で止めたり、空港に着いたら反政府組織が爆破テロをしようとした瞬間に私達の勇者と魔王が一瞬で潰したり、その間にキャットさんがアメリカで壮大な迷子劇をしたのは、また別のお話。
そしてドラゴンさんのスパイ用海底探査挺を使い、大西洋の海を潜る事数時間。遂に海底に沈んでいた遺跡を見つける。
私達は遺跡の入り口を見つけ、遺跡は中に入り暫く進むと、海賊船を停める防波堤ようなスペースを見つける。そして不思議な事にそこには空気があり、海底の探査服を着けずに遺跡の中を歩ける事がわかった。
そして今の私達は遺跡の中を探索して、目的であるペンを探していた。
「大体思い出しましたけど…。目の前の“これ”どうします?」
私の目の前には赤くオレンジ色の灼熱の溶岩が私達の道を塞いでいるのが見える。そして溶岩の海の先には道が続いている。先に行くにはここを通らないといけない。
「どうしましょうか、皆さ…あれ?」
私が周りを見るとそこには仲間の姿は無かった。そしてよく見ると溶岩の先の道に仲間達がいるのが分かった。
「あれえええ!? 皆さんどうやってそこに!!?」
さっきまでいた仲間達がもう向こう岸に渡っている。
「浮遊魔法で飛んで渡った」
「身体強化魔法で一足で飛び越えたました」
「マナツさんにおぶって貰いました」
「軍人なら壁を伝って向こうに行ける」
「猫になってウィキさんの肩に乗っていました」
「頭に小型プロペラを着けて飛んで渡りました」
「俺の組織で開発した『時空跳躍システム』で溶ける前に加速して渡った」
皆さん無茶苦茶です…。まだゾーグさん、マナツさん、ウィキさんは良いとしましょう。でもドラゴンさんとソウゲツさんのは反則過ぎます。ユーミンさんとキャットさんはちゃっかり相乗りして向こうに渡っている。
…あれ? 私は?
「早くしろよ、ウサギ。お前なら何とかいけるだろう?」
「無理です!!!!」
何をふざけた事を言っているのですか、ソウゲツさん! 普通の女子高生が溶岩の海を渡る方法なんてありませんよ!
「大丈夫ですよ、ウサギさん」
「あ、クスノキさん」
後ろを振り替えるとそこにクスノキさんがいた。優しいその笑顔で私を見てくる。頼りがいが他の人とまるで違う。
「ありがとうございます、クスノキさん。でも……どうやって向こう岸まで渡ります?」
溶岩の海は軽く50㍍は超えている。これを飛び越えたというマナツさんは明らかに異常だが、私達には無理だ。他にあの絶壁の壁を渡ったり、魔法で渡ったり、他の超科学で渡るのは不可能だ。
そう思っていたら、いきなり私の体が宙を浮いた。
「!!?」
「さあ、行きますよ、ウサギさん」
一瞬驚いたが目の前にはクスノキさんの顔が近くあった。私の体はクスノキさんに抱えられ俗に言う『姫様だっこ』をされていた。
そして私を抱えたままクスノキさんは前に進み、溶岩の海に右足を出した。
「なっなな何を考えているのですか、クスノキさん!!? 早く引き返して下さい!!」
「大丈夫。すぐに終わりますからね、ウサギさん」
そう言って一歩ずつ歩みを止めずに、溶岩の海を渡る。クスノキさんの足は徐々に火を吹いて溶岩の中に沈む。いや、この場合は溶けているが正しいのだと思う。溶岩の温度は軽く見ても500℃は軽くある。そんな温度の溶岩を歩いているのだから、火傷処の話では済まない。普通なら焼ける痛みで発狂するか、ショック死するのが当たり前だ。
でもクスノキさんはそんな苦しい顔一つせずに、私を抱えて溶岩の中を歩いている。
「クスノキさん、やめて下さい! このままじゃクスノキさんが…」
「私は大丈夫ですよ。紳士ですから♪」
本当に何も無いように見える。溶岩の海を半分渡った時にはクスノキの足は膝まで無くなっていた。
「クスノキさん、後少しです! 頑張って下さい!!」
「ありがとうございます、ウサギさん。まだまだ頑張ります…と言いたいのですが、ちょっと難しいですね」
何故、と言おうとした私は見てしまった。クスノキさんの足は無くなり遂に腰まで溶岩に浸かっているのを…。
「少し無計画過ぎましたね。女性の肌を焼かせるのは後々美容に悪いですから」
今の状況を紫外線で焼けたのと一緒ではないと思います。そんな事を考えていたらいきなりクスノキさんは姫様だっこを解いて、腕を伸ばして高く持ち上げた。
「えっ…」
「ちょっとすいません…ウサギさん」
そして腕の力だけで私を向こう岸まで投げました。投げた私をウィキさんが優しく受け止める。
「クスノキさん!!!」
私はすぐにウィキさんの腕から離れて、クスノキさんに近付く。しかし溶岩の海でクスノキさんに近づけない。
クスノキさんは首もとまで溶岩に浸かっていた。あるのは頭と右腕しか残っていない。そんな絶体絶命の瞬間なのにクスノキさんの表情は優しく私を見ていた。
「……………」
何かクスノキさんが言おうとしているが聞こえない。更にクスノキさんは溶岩に沈んでいく。
「クスノキさん!!!!」
「駄目よ、ウサギさん! これ以上はもう…」
全員が私を掴んで離さない。でも早く行かないとクスノキさんが…と、そう思った時にクスノキさん見たが、クスノキさんの顔はなかった。あるのは高く上げられた右腕だけ。そしてその手は親指を立てて、後は握られている。
―I'll be back.― 『必ず戻る』
そんな意味の込められた右腕を残してクスノキさんは灼熱の溶岩に飲み込まれた。
―紳士ですから♪―
その言葉とクスノキのこれまでの事が走馬灯のように頭から離れない。あの優しい紳士の笑顔と声と生きざまを、紳士道を…。
◇ ◇ ◇
「さて、皆さん先を行きましょうか…」
「私の一生分の感謝と涙を返せ!!!!」
何処から取り出したかもわからないハリセンで、溶岩に溶けたハズの“紳士”の頭を思いっきり叩いた。
「何事もなかったのように登場しないで下さい“クスノキさん”!!」
あの後右腕も消えたと思ったら、すぐに溶岩の中から這い上がって来た。その体は一切溶けていない処か火傷を負ってすらいない。燃えたと言ったら軽くタキシードの裾が焦げてしまったくらいだ。何処から買ったのだろうか、あのタキシードは…
「もう人間辞めたどうですか!? そもそも人間ですかあなたは!?」
「いえいえ、私は“あくまで紳士”ですから。ウサギさん♪」
何、ちょっと不死身の悪魔みたいな言い方。やっぱり一番規格外なのはソウゲツさんでも、ウィキさんでもない。この人だ…。
でも、あの時の姿はかっこよかったと思った事は私の中での秘密にしておこう。
――――――――――――――――――――――
暫く私達は遺跡の中を探検してある広場で休憩をしていた。
下の階層に降りるとゲームの中でしか出会わないようなモンスターが出てきた。モンスターを見るのは初めてではないけど、やっぱり怖かったりする。
でも一番恐ろしいのは…
「バカ野郎!! 一体てめぇの目は何処に付けていやがる!! 最後にトドメ指したのは俺様だ!」
「君こそ何処に目を付けている!? あのモンスターは僕の剣で首を真っ二つにしたから絶命したんだ!」
「その前に俺様があいつの眉間に鉛弾をぶちこんだから死んだんだよ!! そうでなきゃお前の剣なんて当たらないだろうが!!」
「何だと…貴様!!」
「やるか、コォラ!!」
マナツさんとソウゲツさんの後ろには10㍍は越えるであろう大きなライオンの姿をしたモンスターが首を跳ねられ眉間を銃弾で貫かれて息絶えていた。二人はどっちが先に仕留めたか揉めているらしい。出会って三秒で一発で仕留められたモンスターが可哀想に見えた。
そしてこちらでは…
「我は50匹仕留めたぞ。そちらは?」
「私は51匹です。数では私の勝ちですな」
「…いい忘れたが、我は仕留めた50匹以外に3匹を捕獲したぞ。これはポイントが高いとは思わんか?」
「だがそちらが仕留めたのは大半がゴブリンと呼ばれる下級モンスターと呼ばれる部類の筈だ。私は中級レベルのゴーレムを12体も倒した。総合点では私の方が上だと思うぞ」
「いやいや。それなら我は上級モンスターのグリフォンを7匹も倒したのだ。我の方が…」
「いやいや。私のケルベロスの方が…」
「いやいや、我の方が…」
「いやいや、私の方が…」
あそこの二人は何故か討伐数競争をしていた。圧倒的なスピードでモンスターをナイフ一本で狩る軍人さんと圧倒的な破壊魔法でモンスターを虐殺していく魔王様の戦いは一方的な虐殺だった。
本当にこの四人は恐ろしい。はっきり言って勝負にならない。弱肉強食ではなく、弱者殲滅だ…。
で、そんな戦闘狂以外の人はと言うと…
「一体何時の時代に作られたのかしら?」
「遺跡の状態から見ると軽く数千年前くらいはありそうですが…」
「数千年というとまだ私の祖先のアメリカ人がこの大陸を支配する前ね」
「というと古代に住んでいた大陸の先住民達が遺跡を作ったの可能性があります」
「この古代文字のは今までない形をしているわ。これは全く異なった文化を遂げたというのかしら」
「今までにない大発見の予感ですね!!」
あちらの頭が良い三人は遺跡の調査をしてる。普通に考えたら確かに大発見なんですよね。気持ちはわかりますが、向こうでモンスターがいて、誰かの悲鳴が聞こえるのによく平然と調査が出来るのだろうか(悲鳴は全てモンスターだけだけど)
仲間を信頼しているのか、単に図太いだけなのかは私にもわからない。
「あれ、そういえばキャットさんは何処に行ったの?」
小さい黒猫だから隅にいると分かりにくかったりする。周りを見てるとキャットさんの姿はなかった。
また迷子か、と思っていたら戻ってきた。
「皆さ~ん。見てくださ~い。お宝で~す~よ~」
一つの扉からキャットさん(少女バージョン)の姿で現れた。手には真珠のネックレスを持っている。かなり高価な物に見えたが、私の目線はすぐに違う方に向けられてしまった。
キャットさんの後ろにいるかなりの数のモンスターを…
「どうしました、ウサギさん? 見てくださいよ、このネックレス♪」
見ていますよ。あなたの後ろにいるモンスター達を。
「驚きました? 実は宝箱の中にあったんです! 開けた瞬間に何処かの扉が開いたような音がしましたけど、罠はなかったようです♪」
ちゃんと罠は発動していますよ。多分宝箱を開くと同時にモンスター部屋の扉が開く仕組みだと思います。
「私がいつまでもトラブルメーカーと思われるのは嫌ですからね。私だってやる時はやるんですよ♪」
あなたのトラブルメーカーはきちんと発動していますよ。常時発動です。通常通りで困ります。
そんな事しているとモンスター達は広場の私達に近付いてくる。でも私は逃げなかった。逃げれなかったという訳ではなく“必要ない”。
私後ろにいる殲滅グループが目を光らしているからだ
「「「「ボーナスポイントだーーー!!!!」」」」
そういって彼らはモンスターの群れを蹴散らしていく。広場は赤い色の血に染まり、鉄の臭いが漂ってくる。
「一番哀れなのはここにいたモンスター達だよね…」
平和に暮らしていた?彼等にとっては最悪の日になっている。後でお墓くらい作ってあげようと思った。
――――――――――――――――――――
「………ここですか」
遺跡の中を探索する事数時間。私達はようやく目的の魔法のペンがある場所に辿り着いた。
「この扉の先に例のペンが?」
「はい、間違えありません。この部屋に魔法のペンがあるようです」
私の目の前には木で出来た古い扉があった。ノブの所は錆びて回らないが、扉を引くと開ける事が出来そうだった。
「やっとここまで来たな」
「どんなペンなのか楽しみだな」
「私も使ってみたいです~」
皆お宝が目の前に近付いて来たせいか、いつも以上にやる気を出している。私もテンションが上がってきました!
「おい、ウサギ。いつまでもボサッとするな。早く扉を開けろよ」
「わかっていますよ、ソウゲツさん。ただ罠があるかも知れないので、扉を少し開いて中の様子を見ましょう」
ソウゲツさんは私の提案に頷き、扉を少し開く。皆部屋の中が気になるのか、九人全員が縦一列に並んで部屋の中の様子を見た。
部屋の中は魔法石と呼ばれる蛍光灯のような明かりがあるので、部屋の中の様子がよく分かった。部屋は9畳間程の広さで、部屋の置くに執務机が一つある。その机の上には羽根ペンが一つあった。おそらく、あれが魔法のペンだと思う。
だが、部屋の中は大量の海賊の服を着た骸骨がうじゃうじゃいた。更に執務机に座っているのは海賊船のキャプテンらしい人が座って、その左手に羽根ペンを持っている。
今は動いていない。だが時々今か、今かとタイミングを計っているように骸骨が揺れているのが分かる。
「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」
私達はゆっくりと木製のドアを閉め、何事も無かったように仲間達はにこやかな顔をして私を見る。嫌な予感…。
「「「「「「「「「ウサギさん宜しくね♪」」」」」」」」
「無理ですうううううううううーーー!!!」
私は全力で否定した。
「だってお前が言い出した事だろ。最後は言い出した人が取りに行かないと…」
「無理ですからね! あんな一歩でも扉を開けて入ったら骸骨が動き出すのが目に見えてますよ!!」
定番中の定番ですよ! 私が羽根ペンを取った瞬間、あの骸骨達が私を襲って最後には…。ああ、想像するだけでも怖い。そう思っているとマナツさんが声を掛けてきた。
「なら、ウサギさん。私がある呪文を授けます。それを唱えれば骸骨だって大丈夫です!」
「本当ですか!?」
「ええ、良いですか? 扉を開けた瞬間に『骸骨が動く? そんな事あるわけないだろう。ちょっと見て来てやるよ』と唱えれば必ず大…」
「それは完全なまでの“死亡フラグ”って言うんですよ!!!!」
そんな事喋ったら確実に死んじゃうよ! 何を思って言っているんだ、この人は! そう思っていると今度はゾーグさんが寄ってくる。
「甘いな勇者よ。いいか、ウサギよ。扉を開けたら『先に行け! ここは俺が食い止める』と唱えれば生存率はぐっと高まるハズだ」
「…それは、言い方に寄ればそうかも知れませんが、どっちかって言うと死亡フラグ寄りですよ」
駄目だ…この人達。このままでは『オレ帰ったら結婚するんだ』とか言い出す人がいるかも知れない。
「お遊びはそこまでにしようか。あまり時間をかけても仕方ない」
「あ、ウィキさん」
私の隣からウィキさんが通りすぎ、さっきの扉の前まで歩く。
「おかしいと思わないか、ウサギさん。私達戦闘系担当の四人が何故こんなにも骸骨ごときで足止めをしているのかを?」
「そういえば、そうですね…」
さっきまでモンスター討伐数を競っていた人達がこんなにも消極的なのはおかしい。言っては悪いがあの骸骨達が動き出したとして、この四人に傷を付ける事さえ難しい人達がこんなにも大人しいのは変だ。
ソウゲツさんなら、一気に攻めて銃を乱射して終了。
ウィキさんなら、拳一つで骸骨達を粉々にして終了。
マナツさんなら、剣で相手を切り裂いて真っ二つにして終了。
ゾーグさんなら、魔法で殲滅または仲間にして終了。
…本当に骸骨なんかじゃ、敵ではないと思う。
「骸骨なんかは敵じゃねぇ。問題は部屋中に仕掛けられた“罠”だよ」
振り向くと壁に寄りかかっているソウゲツさんが喋りだした。罠? そんなのあったかな?
「作った奴は陰湿だぜ。かなりの数の罠と罠に見せた精巧な偽罠がある。ドアの隙間から見ただけでも、ざっと30はあったがまだあるな」
「そんなに!?」
それじゃあ危なくて部屋に入れない。入ったら骸骨だけじゃなくて数え切れない罠が私達を襲ってくる。
「いくら俺が先読みしようにも何処にどんな罠があって、どんな仕掛けがあるか分からんのに部屋に入るのは危険なんだよ。だから部屋に入れない」
「でも、ソウゲツさんは前に武勇伝で敵のアジトに一人で突入したと聞きましたけど…」
「あれはアジトの構造と構成員を知っていたからな。仮にも俺の縄張りでアジトを作ったら、その家の構造の情報くらいあれば簡単に制圧は可能だ」
それだけじゃ出来ないと思うのですが、それは裏の社会では当たり前なのかな? なら浸入と罠を解除のエキスパートであるドラゴンさんはどうだろう。
「私でもちょっと難しいですね。入り口がここだけだと浸入が容易ではないと思います」
駄目か。ならどうしよう。折角目的の物であるペンがこの先にあるのに…。
ふと、浮かんだのがクスノキさんに取ってきてもらうのはどうだろうと思ったが、流石にそれは良心が傷んだ。大量の罠があるのに不死身?であるからといった理由で仲間を部屋に放り込むのは駄目だと思う。
「私が行こう」
「ウィキさんが!」
名乗り出たのはウィキさんだった。彼は気を引き締めて扉の前に立った。その左にいるソウゲツさんが横目で見ながら声をかける。
「大丈夫なのか、ウィキ。いくらお前でも、死ぬぞ…」
「フッ…軍人はいつでも死を覚悟している。戦場なら当たり前の事だ…」
私はウィキさんの後ろ姿がとても逞しく大きく見えた。これが命懸けで国を、民を守る人の背中なんだ…。
「だが、私は死ぬ時は………狐を愛でながら死ぬと最後と決めている。まだ死ねんよ」
いきなりウィキさんの評価が下がった。しかも大きかった後ろ姿は、服の後ろに貼っている愛らしい狐イラストに目がいってしまった。可愛いけど。
そしてウィキさんの指示で私達は扉から5㍍離れて待機している。
「さて、行くか」
ウィキさんはゆっくりとドアのノブを握り、扉を引いた。周りに緊張感が漂う中、私はゴクリと唾を飲み込みウィキさんの勇姿を目に焼き付ける。
ゆっくりとウィキさんは扉を引く。
さっきと同じくらいの隙間を開ける。
扉を開けたら、ドアのノブから手を放す。
自由になった右手を服の中に入れる。
服の中から小さいテニスボールのような物を取り出す。
テニスボールから、ピンを抜く。
そしてテニスボールを部屋の中に投げ込み、私達の所まで走り出す?
数秒後、部屋から爆発音処か部屋一帯が吹き飛び、木製のドアと石で造られた壁が粉々に砕け散った。
「「「「「「「「ッッ―――――!!!!!?」」」」」」」」
今起きた光景を唖然と見ていた私達にウィキさんが近付いて来た。その顔はまるで地球に落ちてくる隕石を破壊して帰還した宇宙飛行士のようなやり遂げた顔だった。
そして爆発の影響か、さっきまで机にいたキャプテンの頭が床に転がっている。それをウィキさんが足で踏み壊す。えげつない…。
「……ミッション、コンプリート」
「「「「「「「「してないから!!!!」」」」」」」」
「何故だ!?」
本当に不思議そうな顔してる。一体何が不満なんだ、と言いたげな顔だ。
「今のウィキさん行く感じは数多の罠を掻い潜り、骸骨を倒してペンを取ってくるのではないのですか!?」
「何故そんな事をしなくてはいけない? 敵が中にいるなら先ず閃光弾を投げれば制圧が簡単だ。今回は改良型の手榴弾を使ったが…」
犯罪現場の立てこもりでも使うやり方ですけどね。でもそれをすると…
「中にある魔法のペンはどうしたのでしょうね~」
「…………はっ!!」
「気づくのが遅い!!」
中場諦めかけていた私だったけど、意外にも魔法のペンは無事だった。ここまでの道のりが無駄にならずによかった。
「あれ、これは…!?」
「どうしました、ユーミンさん?」
壊れた部屋を捜索していると、ユーミンさんが壁を触って何かに気付いたようだ。ユーミンさんは慌ててソウゲツさんに近寄る。
「ソウゲツさん! 急いであの壁を破壊して下さい!」
「いいのか? 歴史的建造物を壊しても?」
「お願いします!」
「………まあ、なんとなく意図は読めたけど、酷いなあんた。まあいいか」
そう言ってソウゲツさんはショットガンで、ユーミンさんが指を指した壁に発砲して、弾を撃ち込むと壁が崩れた。
「これは…」
「はい」
そこには道があった。隠し通路と呼ばれる物でだった。
――――――――――――――――――――――
私達は隠し通路を通るとある広い場に出る。そこは辺り一面に棺が置かれ、墓場のような場所だった。そして至るところに石碑のような石板があり、石板には古代の文字が書かれている。
「数からいって50~60くらいあるな」
「棺というと、ここの遺跡は誰かの墓として作られた場所なのかもしれません」
「我らの世界にも王を遺体を遺跡に保管する事はある。ここもそんな場所なのかもしれん」
ピラミッドとかと同じなんだろうか。昔の人は王様が偉大だと、後世に伝えるために墓を大きくしたって聞いたけど。
そんな話をしている周りにはドラゴンさんがせっせっと石碑を写真に残している。目がキラキラしてる。楽しそうだ。
「ん…! おい皆! あれを見ろ!!」
ソウゲツさんが叫んだ先は壁があって行き止まりだった。その壁の下には大きく立派な棺かあった。これが遺跡に守られている王様の遺体なんだろう。
そしてその上の壁には小さなくぼみがあり、そこにはバレーボールくらい大きな青くて丸いサファイアがあった。
「凄い…」
「綺麗です……」
「なんて大きさなんだ…」
「我のお宝でもあれくらいの宝石はないな」
「遂にお宝発見した!」
あまりに大きなサファイアに私達は驚いていた。凄い…、あんなサファイア見た事すらない…。
「お宝は俺のもんだーー!!」
と、叫びながらソウゲツさんか駆け出していく。それに続こうと私達が走ろうとする。
瞬間
―これ以上先へ進んではならん―
「え、?」
「何ですか、この声?」
「不気味…な声が…しました…」
「アンデットか!?」
と何処からか奇怪な声に皆慌てている。すると大きな棺が揺れ動いている。
―帰れ…。ここはお前達の来るべき場所では…ない―
「…嘘でしょ…。まさか…」
私達は大きな棺に注目している。その揺れは徐々に強くなっていく。
―ここにある秘石は破滅を守るためのもの。けしてここから持ち出していいものではない―
破滅? 破滅ってなんの事だろう。
―出て行かないのなら、それ相応の罰を受けて貰うまで…―
そう言って棺は揺れは激しくなり、そして…
遂に棺が開かれる
「お先に♪」
―ぐはぁ!!―
事は無かった。開く瞬間に罰当たりにもソウゲツさんは棺の上から踏み付けて、特大のサファイアの前まで歩く。
―貴様っ!! それに手を出すな!! …なんだ動かないぞ、どうしたというのだ!?―
棺の中にいる人が困っている。そうソウゲツさんは、身体中に武器を隠しているから、かなり重い。どうやって隠しているとかどうしてそんなに持てるは秘密と言っていた。
そうしている間にソウゲツさんはサファイアに手を伸ばし、サファイアを持ち上げた。
「よっと…これがサファイアだと!? なんという大きさだ!」
―貴様!! 舐めるなよ。私がこの程度で…―
と、棺の中にいる人が更に力を入れて棺のふたを持ち上げようとするが
「待ちなさい、ソウゲツさん。探検者として僕もお宝に触りたい!! 少し貸してください」
―ぐうぅ!!―
そこへ更にマナツさんが棺の上に土足で立つ。重さが加わった事により、ふたはまたして沈んだ。
「いいぜ。ただし、落として壊すなよ♪」
「ああ、任せて。おっと…これは凄いな。一体いくらするんだ、これは?」
―私の上に立つとは許せん!! そこをどけ…―
「ちょっと二人とも!! それは私の国の歴史文化として私が預かります!」
―ちょっ! 待っ…うぐっ!!―
そこにユーミンさんが加わった。何故だろうか、さっきまで棺の声が怖かったけど、今は不思議と怖く無くなった。
「おいおい、大統領。いくらなんでもこれを歴史遺産として没収するのはいかんだろ」
「没収ではありません。国としてきちんと管理すると言っているんです。後でその代金も払います」
「いくらで買い取る? 言っておくがこんなお宝は一生手に入らない程の価値を秘めているだぜ。コレクター次第の金額なら軽く兆を超えるぞ」
「そうだ。きちんとした査定を要求する!」
「分かっています。それは後日正式な場で清算を…」
―人の上で汚れきった金勘定しるんじゃねぇ!!!!―
「私にも見せて~!!」
「綺麗な宝石ですね。まあ、私の一番綺麗なのは女性ですが」
「宝石に興味はないが、珍しいものらしいから見ておくか」
「我のアイテムボックスに入れるか? それなら運ぶのも楽であろう」
―もう、乗るなーーーーー!!!!!!―
更に4人が棺の上に上がる。あの人達には死者に対しての礼儀が無いのだろうか。棺の声なんて完全に無視してるし。ドラゴンさんだけは棺に書かれている文字を写真で撮るのに必死だ。
一通りサファイアを見た所で、皆棺から降りていく。
―許さん、けっして許さない!! 貴様ら、生きてここから出て行けると…―
「さっきからうるせいな!! 死者なら寝てろ!」
まだ棺の上に乗っているソウゲツさんはマシンガンを持って、頭上をマシンガンを撃ち放つ。
―ふん、何処に向けている! 仮に私に放ったとして近代兵器なぞ、私には効かな―
ある程度撃つと、ソウゲツさんは棺から降りる。するとソウゲツさんが“破壊した天井の石”が棺の上から落ちる。
―ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!?―
「これはおまけだ、受け取るが良い。『グラビティ』×100倍」
―ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお、誰かああああ、助けてええええ、ああああ!!!!―
棺は上から落ちた大量の石に潰され、更に石の重さが100倍にまで上がった。軽く100キロでも重さは1㌧だ。棺のふたまで重くなり、棺は開かない。
「さて、帰るか♪」
「そうですね。帰りましょう。この遺跡の事を世界中に報道しなくてはいけません」
「私も早くこの文字の解析を行いたいわ」
「帰る前にアメリカでお産地を買いたいですね。家族が喜びます」
「私はちょっと武器屋に行かせてもらう。欲しい銃がある」
「僕も武器屋に行きたい。どんなのがあるだろう」
「勇者よ、言っておくがお主が欲しい道具はないと思うぞ」
「ふわ~眠くなってきました~」
……皆さん、自由気ままなのでしょうか。棺の人が不憫で仕方ない。
―ぐぐぐ…貴様ら、逃がさないぞ…―
棺の人はまだ元気だけど、石とか重力魔法のせいで全然ふたが上がりそうにない。もう、放っておこう。その方が彼にとって救われる道だと思った。
―こうなれば最後の手段だ! ハァ!!!!―
すると遺跡全体が突如として揺れだし、天井が少しずつ崩れていく。
「え、何々!?」
「なんだ!?」
「地震?」
―この手は使いたくなかったが、仕方ない…―
遺跡が崩れる中、棺は何かしたらしい。危ない、石が落ちてくる!!
―最後の警告だ。秘石を元の場所に戻し、帰るがいい。そうしなければ、この遺跡は後15分で崩壊する―
「「「「「「「「「な、なんだって!?」」」」」」」」」
―後15分で脱出は難しいだろう。ここからどう足掻いても20分はかかる。崩壊を止めて欲しければ秘石を反すがいい―
最後の最後でピンチになってしまった。ここは海の底。崩壊すれば水が入って水圧で死んでしまう。
「でも、そんな事したらあなたまで…」
―構わない。例えこの身が滅びようとも、私には世界を“破滅”から守らなくてはならない使命がある!―
破滅
さっきから棺が言っている破滅。それは一体…。
「なんなの、あなたのいう“破滅”って?」
―世界を破滅に導くもの……それは…―
「さっきからうるせいって言っているんだよ!!」
と、ソウゲツさんが叫びながら何かを投げた。形は長方形、そこには見たこともないような数字が点滅しながら棺に張り付いた。
「破滅だか、不滅だか知らねぇよ!! 俺達を誰だと思っている!! 俺達は…」
ソウゲツさんは棺を睨み付け、自信満々に答える。
「俺達はリレーメンバーだ!」
「……………」
―……………―
一瞬全てが静まり返った。
―「だからなんだよ!!!!」―
本当になんだよ、という感じである。他の皆もなんか冷たい目で見ている。
「いいか、俺達はリレーメンバーだ。リレー小説を書くためなら、なんだってしてやる!! 邪魔するのなら誰であろうと容赦しない! もし破滅とやらが世界を破滅させようとするならあまり興味はないが、小説の邪魔をするならそいつも抹殺対象なんだよ!」
そうしてソウゲツの横に他の仲間達が並ぶ。その姿は本当に戦隊ヒーローようにかっこよかった。
「まあ、小説のためとは言いませんが、家族と女性の為なら、紳士として守らなくてはいけません」
「私はアメリカ合衆国の大統領よ。世界の平和を守るのが大国のしての義務です」
「私だって祖国イギリスを守り、世界の秩序を守るがスパイとしての私の使命!」
「誰かが引き金を引かないといけないなら、私が引く。軍人が国民を守るのは当然である」
「僕は勇者ですよ。世界を救う仕事なら僕の専売特許ですから」
「力があるのに、ただ指をくわえて待つのは我の魔道ではない。破滅だと…? まずは我から破滅させてみるがいい。できるならな…」
「~ん~~と、……特に無し♪」
キャットさんはなんか無かったのかな?
でも、やはり凄いな…皆さん。
「ウサギさん。さあ、貴女も」
「え、私も?」
「当然ですよ。ウサギさんだって私達の“仲間”なんですから」
そっとクスノキさんが私に手を伸ばす。私は少し見て、意をけして手を伸ばした。私は皆の前に立つ。
「棺さん!」
―棺…さん?―
「最初にすいませんでした。色々と失礼な事をしてしまいご免なさい。でも棺さんの言っている破滅なら大丈夫だと思います」
―何故そう思う。貴様達が甘く考えている程の相手ではない!―
「かもしれません。でも私は大丈夫だと思います。私の仲間達はそれくらい凄いんです!」
私は振り返りそれぞれの仲間達の顔をみる。
不死身の紳士、アメリカ合衆国の大統領、イタリアンマフィアのボス、イギリスのスパイ、ロシアの軍曹、異世界の勇者それと魔王、喋る黒猫
混沌よりも混沌に満ちた私のリレーメンバー達。でも…その力は“本物だ”
「絶対に交わらない人達が、ちょっとした掲示板の書き込みで出会って、運命によって交差したのが私達なんです!」
皆との出会いは誇りだ。絶対に後悔なんかしない。オフ会している今は何よりも楽しいと感じているんだ! 破滅なんかに負けない。
「私の仲間達に勝てる人なんて宇宙を探したっていないんです!! 私の、私達のオフ会メンバーをナメないで下さい!」
―…………―
叫び過ぎて声が枯れそうだ。でもすっきりしている。振り向くと皆は「よくやった」と親指を立てる。私は笑顔で返す。
―…お前達なら、破滅から守れるのか?―
「少なくても私は思っています」
―そうか…。わかった、信じてみよう。世界を頼むぞ、リレーメンバー達よ…―
するとすぐに遺跡の揺れは終わった。私達は助かったんだ!!
「ありがとうございます、棺さ…」
私は棺に近寄って見ると、棺が光っていた。いや、さっきソウゲツさんが投げた長方形の機械が赤く点滅しているのがわかった。あれ、あの長方形の機械を何処かで見たような…
「そういえば、ソウゲツさん。さっき投げたあれはなんです?」
「ああ、あれか。あれは『PRDT-1』だ。前に、狩りが好きなエイリアン映画が流行ったろう? で、その腕に着けて姿を消したりする機械をモチーフに俺の組織が開発した試作品だ。発動すれば約10分で半径10キロは…」
私達はソウゲツさんの話を最後まで聞く前に走り出していた。棺さんは―ちょっと私を置いて行かないでええええええー―と喋っていた気がするが無視をした。流石に構って要られなかった。
記憶があったのはそこまで。後はどう走ったかは覚えていない…。
――――――――――――――――――――――
「チョコケーキ最~高~にゃ♪」
キャット達リレーメンバーはソウゲツさんの爆弾が作動する前になんとか探査低に乗り込み(あのウサギさんの走りは凄かった)崩落した岩が落ちる前にを華麗な操縦技術抜けて(あの時のドラゴンさんにかかるプレッシャーは凄まじかった)見事に遺跡から脱出したにゃん。
爆発の影響で遺跡は完全に崩壊。更に海底に地割れが起きて遺跡の残骸もその中に落ちてしまった。あれではまず遺跡の痕跡はなく、調査も出来ないにゃん。
それから数日後である。
キャット達は日本に帰り、いつもの場所でいつものようにぐうたらしている。
「聞いているのですか、ソウゲツ!!!!」
「なんだよ、うるせいな。かき氷が溶けちまうだろうが」
ユーミンさんとソウゲツさんはいつものように喧嘩している。ユーミンさんはヨーグルトを、ソウゲツさんはかき氷を食べている。
「自分が何をしたかわかっているのですか!! 世界中が驚く大発見をあなたは破壊したんですよ!! どう責任取る気ですか!?」
「良いじゃねぇか、目的のもんが手に入ったんだからよ。それにユーミンさんだって人に責任を押しつけるのは良くないぜ」
「!? ななんの事ですか、か!?」
「壁の破壊を俺に任した時だよ。あの時、壁を破壊するなら俺でなくても良かったハズだ。なのに俺に任した。あれはもし“自分の予想が外れた場合”責任を押し付ける相手がマフィアなら、バッシングが自分の所に来ないと思ったんだろ? 俺なら世間から非難を浴びても問題ないとな」
「………ごめんなさい、でも!」
「別にいいぜ。俺は悪だからな。人から非難されるのは慣れている。むしろ俺の名声が広く響き渡るから好都合だ♪ 遺跡の件も俺のせいなんだから、大々的に発表してくれよ」
「……本当にあなたは“最ッ低”なマフィアよね」
「ありがとうな。“最ッ高”の誉め言葉だ」
あの二人はよく分からない会話をしています。あれが大人の会話というのかは分からないですね。でも多分仲が良いのだとキャットは思います。
「では、しばらくは中国に?」
「ああ、中国に良いナイフを買いに行ってくる。明日にユーミンさんがアメリカに帰るそうだから私も少し席をハズさらせて貰おう」
「そうですか、気を付けて下さい。最近何かと物騒ですから」
「うむ。そちらも気を…は要らないな」
「え、要りませんか!?」
ウィキさんとクスノキさんも世間話をしている。ウィキさんはパフェを、クスノキさんは羊羮を食べている。
「では、ドラゴンさんもイギリスに?」
「ええ、私は一旦本部に戻って遺跡に合った古代文字の解析をしたいと思っています。後は実家に帰ってマザーの顔を見に行きます」
「親も喜ぶますね」
「そうですね。お二人も何処かに出掛けると聞きましたけど?」
「うむ。我と勇者で“ある物”を作っている」
「“ある物”ですか?」
「はい。僕と魔王と、それからソウゲツさんにも手伝って貰おうとしています。ソウゲツさんは簡単な電子機器の調整だけなので、すぐに帰って来ますが、僕達二人は暫く帰りません」
「…大丈夫なんですか?」
「まあ問題ないだろう。一応ウサギさんの小説を見たら行こうと考えている」
あちら三人も楽しそうな会話をしている。マナツさんはポップコーンを、ドラゴンさんはフィッシュアンドチップスを、ゾーグさんはポテトチップスを食べている。
「皆それぞれやる事があるのですね~」
最近はいつも一緒にいるから、半分もいなくなると寂しくなる。でもキャット達はいつも心で繋がっている。そんな気がしている今日この頃にゃん。
「……でも今回気になる事が起きましたね」
あの棺の人が言っていた“破滅”とは一体なんなのだろうか。一般的に考えれば、その時代の病気とか肉食動物の可能性が高い。そう“普通”に考えれば…
「もしかしたら、何かしらの…“破滅”と呼ばれる何かが起こるのか…」
キャットは周りの皆を見る。果たしてこの人達に、破滅を越えられるだけの力があるのか…
「ここから先の道筋は“私”でも見えません。さあ、見せて下さい……リレーメンバーの皆さん」
果たして交差した運命は何処に行くのか。それはハッピーエンドか、それとも…
考えていた瞬間。バタン、と部屋の扉が開き
「皆さん…。遅れてすいません……」
我らがオフ会メンバーのリーダーが現れた。
「「「「「「「「「お疲れ様、ウサギさん♪」」」」」」」」
話をしていた皆は彼女に近寄って行く。本当に彼女は皆に愛されているな~。私もウサギさんに近寄り、笑顔で接する。
「お帰りなさい、ウサギさん。どうでした、小説の方は?」
キャット達がウサギさんにすぐに近付いたのはそのためだ。遺跡で手に入れた魔法ペンの効果を知りたかったからだ。
「……ええ、書けましたよ…」
「本当ですか!? 見せて貰えます?」
するとウサギさんは“左手”で鞄を開けて、中からリレー小説のノートを“左手”で渡してくれた
「で、どんな内容だ?」
「魔法ペンの力って?」
「早く開けてくれ、キャットさん」
「分かっていますよ。ここですね…」
ノートを捲り、最後のページを開ける。そこには…
―ウサギ編―
「お前は……」
男はただ仁王立ちで活暴戦隊の前に立つ。
「私はキャプテン・ジーニアス!! 七つ海を渡り歩く偉大な海賊である! さあ、活暴戦隊よ、今立ち上がる時だ!!」
ジーニアスは右手に持つフロントリックを天に放つ。
「今こそ力がいるとき!! 我ら海賊が守り続けて来た秘宝を君達に…」
パタン
私は無意識にノートを閉じた。何故か自分の名前を私と言ってしまった。それくらい衝撃な展開だった。
「「「「「「「「………………」」」」」」」」
皆固まっていた。私が書いた内容よりも明らかにぶっ飛んでいて、どう反応していいか分からなかった。
なんとか私は声を絞り出して、ウサギにノートの内容について聞いてみた。
「あの…ウサギさん。これは……」
「……分かんないです。ペンを持ったら手が勝手に…」
どうやっても内容が変になってしまうらしい。これは酷い。自分のしたい小説が書けないのは意味がない。私が進めたペンだけど、予想を上回る程に使えないペンだ。
「これでは内容がかなりおかしくなりますね」
「つまり道具に頼らずに自分の力で書けってことだな」
「それが今回の教訓ですね」
「そんな教訓はいいですよ…」
ウサギさんが項垂れている。そりゃ、あれだけ危険な思いをして手に入れたペンが使えないなら、落ち込むよ。
「じゃあ、ウサギさん。ペンは私が預かりますね。貸してください」
もしかしたら、いつか使う時が来るのかもしれない。その時のために保管しておこう。
でも、ウサギさんは何故か暗い顔をしている。どうしたのだろう?
「どうしました? さあ、ペンを貸して下さい」
「ごめんね、キャットさん。実は…」
そう言ってウサギさんは、両腕を上げる。どうしたのか、と思った。右手に魔法のペンが握られている。
そして両の手を広げてパーにした。
でも右手にある魔法のペンはウサギさんの手から全く落ちる様子がなかった。
「え……何かの手品ですか?」
「放れないの…。どうしても“右手からペンが外れない”の!!!」
聞けば握ったときから全く放れなくなってしまったらしい。……呪われている。
「………皆さん、おやつを食べて喉が乾きましたよね?」
「「「「「「「……………そうですね♪」」」」」」
「ああああ! 皆さん私を避けようしてますね!!? 仲間なら助けて下さいよおおおおおおおおお!!!!」
ウサギさんの悲鳴が聞こえるが、私達にはどうする事も出来ない。いつか外れる事を願おう(まあ、勇者さんと魔王さんがいるから解呪が出来ると思う)
さて、折角だし、いつもウサギさんが言っている“あのシメの言葉”を言ってみようかな。私なりのアレンジバージョンで。
「皆さん。飲み物は何が良いですかにゃん♪」