「生き残れ」 I will survive!!
まだしつこくチラシを探していたローズマリーに
「ゾーさんと話してきた」
そう声をかけ、自分の席に戻った。
やはり書類が山になっている。
ため息をついて上の一枚を取り上げたところに
「おいメガネ」
後ろからど突かれ、書類を崩してしまった。
「っだよ」
険のある目でふり返ると、そこには何とギガンテとホーク、それにヤルタまでもがニヤニヤと笑って立っていた。
「このフロアの方がいいなあ、景色がよくて」
ホークが見回している。
特務はメンバーが多いので、この5階と下の4階に分かれていた。彼らはいつもは4階の住人なので、この階がなかなかに珍しいらしく、キョロキョロしている。
「作戦課も近いし、いいよなあ」
下のフロアには、代わりに資料室がある。
「メントスはもう出張だって?」
この階にある向こうはしのメントスの島に、もう寄ってきたらしい。
「アイツ、やっぱりメントスだった。机の上もメントスだらけだった」
煙草を止めてから、メントス一筋なのだとか。それでコード名もメントスに変えた、という変わり種だった。
「サンライズ、大変だったなあ、オマエ最後の方まであのベイカーに付き合わされたんっだって?」
ギガンテがバンバンとまた肩を叩く。
サンライズ個人が狙われていたことは、総括の際にも一応皆には伏せられていた。
「ああ……最後に思いっきりケリ入れられたし」
「残念だなあ、次回の研修で復讐してやれなくてさ」
「もうコリゴリだよ」
そう言うと、彼ら3人も顔を見合わせて笑っていた。
「それよかさ、ヤルタが10月から本部に移るんだとさ」
「えっ、ヤ、ヤルタが」
なぜか慌てふためいてしまうサンライズを前に、ダブルコードを持つ男は、屈託ない笑顔をみせている。
結局、あれから本人からは一度も詳しく話を聞いてはいなかった。本部、ということは開発一本の道を選んだのだろうか。
ギガンテがうれしそうに続けた。
「せっかくチームになれたんだし、一度飲みに行かねえか? メントスも誘いに来たけどよ、しばらく任務から帰らねえって聞いたし」
「飲みに行くって? いつ」
「今夜だよ、今夜」
まだあまり忙しくならないうちにさ、とホークも乗り気な様子。
たまには変わった面子で飲みに行くのもいいかな。サンライズは腰を浮かせた。
「今夜なら大丈夫かな? で、店は決まってるの?」
「それがよ」
ギガンテが間近に寄って、声をひそめた。
「まあ、一軒目はすぐ近くの串屋だけどよ、『とり壱番』ね、でもよ……」
ヤルタが、ニコニコしながら口をはさんだ。
「2軒目に、ギガンテお勧めの店に連れていってくれるって、店の名はええと……」
「言うな」
サンライズ、顔色を変えてがばっと立ち上がった。
ちょうどそこに救いの声。
「サンちゃあん、電話、2番、ボビーが大至急救援要請!」
「ごめん」
サンライズはさっと電話を取り上げた。
「はい、サンライズ。おお、大丈夫。うん、伊東市? 大室山西側のキャンプ場? 何……」
ちらっと脇の三人を見て、急に声が真剣味をおびる。
「今からすぐ? 分かった行くよ、2時間半耐えられるか?」
送話口を軽く手で押さえ、早口でささやく。
「すまんシゴトが入った」
ギガンテが心配そうに見ている。
「かなり、やばそうだな……」
ホークがため息をつく。
「今日くらいゆっくりすりゃいいのに」
まあ、仕方ないな、次の機会に、と言っている。
電話が切れ、サンライズはあわてて荷物をまとめた。
「それじゃあ」
とりあえず、真面目な表情で彼らに向き合った。
「悪いな、みんな。かなりキケンな状態らしい、今から出かけて来る、また誘ってくれ」
「必ず、生きて還れよ」
ヤルタが、きっちりと敬礼をした。
「ああ」
サンライズもヤルタに礼を返す。
「オマエも、今夜は十分気をつけて。必ず、生きて戻れ」
「はあ?」
ヤルタから詳しく説明を求められないうちに、彼は全速力でフロアを脱出、無事、ハードなコスプレチークダンスホールの魔の手から逃れ、次の危険地帯へと飛び込んで行った。
ボビーは泣きそうな声で電話をよこしたのだ。
「ねえ、どうしてもここの薪、火がつかないのよ、バーベキューできないわ。すぐ来てリーダー」
悪いけど、少しだけほっとしていた。




