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 合宿研修終了後間もなく、まる一日かけて全体での総括があった。

 来週明けにはもう、通常業務に戻るのだそうだ。

 会場には、転倒時に実際に重傷を負って入院中のイマサキと、ベイカー、ヤルタ以外の全参加者が揃っていた。


 アルファは重傷を負ったまま(実際に頭も打ったらしく、包帯が痛々しかった)這いずって屋上にたどり着き、運よくポイントを見つけたということだった。

 彼が前に立ってコメントを述べていた時、ちらっとサンライズの方にも目をくれたが、何も気づいてはいないようだった。


 実際にシェイクが効いたのかどうかは、結局はっきりしなかった。

 もちろんアルファに直接聞けるわけないし、サンライズにも、もう興味のないことだった。


 終わりよければすべてよし。


 ベイカーの裏切りはすでに、白日のもとに晒されていた。

 アルフアがゴールに到達して間もなく、救護班が管理エリア内で不審なヘリを発見。すぐに追跡班が出動。間もなく、介入してきた組織の拠点を確認したのだそうだ。

 数時間後に目覚めたベイカーは、言い訳をする暇もなく拘束された。

 もちろんシェイカー絡みの部分は公表されなかったが、機密資料を盗もうとしていたということで、すでにMIROCの更生施設奥ふかくに収監されていた。


 今後、MIROCの優秀な尋問官にさんざん問い詰められるだろうが、それはもうサンライズの知ったことではない。

 せいぜい、彼が靴の味見までしなくて済むように祈るしかなかった。



 総括終了後に支部長に呼ばれて初めて気づいたが、後ろの席に開発部の水城さとみが座って待っていた。

 彼よりは少し年上だろうか、豪快な姉御肌の人で、いつもは明るくドライブのかかった語り口が魅力なのだが、今日は何だか元気がなさげに見える。


「ごめんなさい」


 開口一番、かすれた声で水城は彼に頭を下げた。


「あの男が、支部の特務リーダーになったのは知ってたけど……まさかそこまでやるとは」


 開発部で、資料流出の際に疑われた中の一人だったと言う。

 だが、確たる証拠がなかった。しかも、弁舌が爽やか。のちにアリバイも出てきて、また、真犯人も見つかった。


「……と、その時は思ってたの、みんな」

 今思うと、全部ヤツの仕組んだ罠だったのよ。と、水城は声を落としたまま言う。

「私は最後まで疑っていたんだけど」


 彼がそれでも、責任を取って開発を去ると告げた時、彼女はわざわざ廊下の隅に彼を呼んだ。

 爽やかに別れの言葉を述べてから、彼は、じっと水城の目をみて言った。


「キミも早く、こんなシケた仕事から足を洗って、身の振り方を考えるといい、もったいないよ、それなりに美人だしね」


 そこまででやめておけばよかったのだが、ベイカーはもう一言。


「何ならボクが、お相手しましょうか? 今夜」


 そこで股間を蹴りあげてやったのだと。

 うわあ。


 彼が敵わない女って、このヒトだったのかなあ。サンライズはベイカーの痛みをおもい、しばし黙祷をささげた。



 水城が去ってから、支部長がまた、彼を脇に呼んだ。

 今度は観葉植物の鉢の脇で、誰がいるわけでもない。

 支部長は観葉植物の尖った葉をつまんで、愛し気になでながら、一人語りのように

「クウォークから、謝ってくれ、と言われてねぇ」

 と切り出した。

 まさか自分が『一生呪う』と念じたのを見透かしているのだろうか?

 やや寒気を覚えたが、サンライズはあえてとぼけたように尋ねてみた。

「いや、何をですか」

「あのカメラ型は廃棄予定だったんだそうだ、目がかなり痛むから……」

「……ですよね」

 思わず真顔になる。支部長は葉っぱを見たまま続ける。

「彼が常時身に着けていたヤツ、腕時計タイプならばそんなことはなかったらしいんだが」

「へぇ」急に、最初の説明会で彼がつけていた、そして研修中も外さなかった時計のことを思い出した。

「それは、光らないんですか?」

「もちろん。ただ、彼は君のことを知っていたからね……だから用心のため、かな」

 あの機器をつけていると、シェイカーの『スキャニング』を気配として自動的に感知、更に自身の思念に無意味な装飾を施し、相手をかく乱することができるのだそうだ。

「彼はもともとネパール山岳地帯出身で、ああいった野外戦にも長けているんだ、特務も兼任していて、こちらでは『ヤルタ』として活動してもらっていた。だから」

 支部長がようやく彼をまともに見た。優しく笑っているが、目の中には憂慮の色がかすかに浮かんでいる。

「私はずっとベイカーを疑っていたが、証拠が掴めなかった。それで、ダブルコードの彼に相談して、二人を監視してもらうよう頼んだのだ」

 サンライズは、何とも答えられず、足を踏みかえた。

「水城くんにも、開発部の他の連中にも内緒で動いていたからね……危険な目に遭わせて、すまなかった」

 少しの沈黙ののち、サンライズは思い切って顔を上げた。

「危険な目、というのは仕方ないです、それに皆無事でしたし、ベイカーの尻尾もつかめた。でも」

 ここで言いたいことはちゃんと言わねば、とサンライズは大きく息をついて、言った。

「研修について意見があります、お聞きいただけますか?」


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