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サンライズは、じりじりと後ずさりながら口を開こうとした。
そこに、ベイカーがぱちっと指を鳴らした、いや、鳴らすような動きをした。手にした小型カメラのような箱がちかっと光り、サンライズの目を射た。
ベイカーは光の刺す瞬間、片手で目を覆っていたのでその後もすぐ目を開いていた。よく見えないが、彼を見て笑っているようだった。
サンライズは刺すような痛みを覚え、まぶたの上から眼をぎゅっと押さえた。
目の前にはまだ黒いしみのような点が無数に浮かんでいる。
「たいした仕掛けではないが、試しにやってみるといい」
「何をだよ」
だんだんと、目の奥の痛みがひどくなっていく。
「スキャンと、シェイクだよ、できるか?」
言われなくても、キーを掴んでいた、さっきまでは。確か、こうだ。
「黄色い札入れを拾ったんだな」
ひっかかってこない。キーは無効になっていた。
それだけではない。どんなに触手を伸ばしても、何も見えてこなかった。
「これねえ、便利だろう?」
相手は小さな箱を見せているようだったが、サンライズはズキズキする目を押さえたきり、もう片手でそばの壁を探るのみだった。
「ちょっと前に、開発部の天才と呼ばれる男が作り出したんだそうだ、オレは会ったことはないが、それでもオレにとっては十分役に立つヤツだな。これはまだ初期段階で、最近では腕時計に内蔵されたのやら、もう少し便利なタイプもできているらしいが、まあ、使えれば何でもいい。シェイカー封じのお守りってわけだ」
何が開発部の天才だ。つまらんモノ開発しやがって。
一生その男を呪ってやろう、とサンライズは心に誓った。
痛みはピークを過ぎたようで、ぼんやりとあたりの輪郭が戻ってきた。それなのに、スキャンは全然できそうもなかった。
つるつるした壁につかまろうとあがいているようだ。
他の手を考えなければならない。彼はまだかなり目が痛いフリをしながら必死で考えをまとめた。
その間に、ベイカーはずっと隠し持っていた携帯電話を取りだした。
取引先との連絡に使うらしい。
「ちょっと失礼」どこかに電話している。
「アロー、エタブローチナヤ」ロシア語だった。
畜生、パソコンと一緒に売られてたまるか。目はどうだ? 何とか行けるか。
彼は一瞬で進路を見いだし、バネをきかせて飛び出した。




