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22時にもうすぐなろうかという時、サンライズの前にいたベイカーが急に
「ちょっとここで待ってろ」
そう言って、右の薮に隠れたようなけもの道へと入っていった。
沢の音が響いている。
小便だろうか。
そう言えば、自分も何となく催してきた、それでもリーダーが待っているよう言ったので遠くには行けない。
どうしようか一瞬迷ったが、急に増してきた尿意に負け、彼も少しだけ右の小路を踏み分けて奥に進む。
あまり彼に近づきすぎるのも悪いか、と更に右の薮に踏み込み、そこで用をたす。
しかしそれにしても、ベイカーの気配はしない。
いったいどこまで行ってしまったのか。
沢の音が少し大きくなってきているので、川まで降りていったのだろうか?
とりあえず元の場所まで戻ろう、と思っている時、かすかに話声がしたような気がして、彼ははっと足を止めた。
声のする方をうかがってみる。
ーー こういう時に、『あれ』を使ってみたら?
彼はそろそろと思念の触手を伸ばす。
すぐに、会議室で一度だけ拾った覚えのあるベイカーの思念を捕えた。かなり強烈だ。
できるだけ頭痛が起きないように少しだけ手をひっこめる。しかし、いったん見えてしまったイメージの強烈さに、彼は吐きそうになった。
ホークとギガンテが見えた。彼らは撃たれ、うつ伏せに倒れていた。
訓練ではそんなことあるわけがないのに、どっぷりと血の海に浸っている。
ヤツが見ているのは、二人の死。
ベイカーには、『予知能力』が?
あり得る。開発にしばらくいてまた特務に戻った、という点もずっとひっかかっていた。
沢での出来事も、もしかしたら彼の予知能力の思念を、たまたまサンライズが拾い上げてしまったのだろうか?
しかし、一つ気になっている点は、色彩だった。
最初の建物のイメージ、沢での爆発シーン、そして今の倒れているメンバー。
どことなく、暗めでコントラストの少ない情景だった、何か薄暗い情念のようなものを感じる。企みをもって何かを見つめる時の、闇に煙るような周囲の不明瞭さ。そして標的に定めたものが放つ燐のような青白い光。
彼の仕業なのか? 爆発も、仲間の死も。
メントスとヤルタの時も、もしかしたら彼が仕組んだのか?
よろめくように元の場所に戻り、サンライズは額を押さえた。
どういうことだろう? リーダーなのに、メンバーを死なせるなんて。
オレも次に殺られてしまうんだろうか?
それとも……何か理由があってオレを残しているのかも?
ベイカーが周りを見回しながら戻ってきた。サンライズの姿を見て、周りに気配がないかを再度確認してから
「行こう」
短くそう言って、前を歩き始めた。
今ここで聞いてみようか、幸いにも人の気配はない。
サンライズは迷っていた。
今ここで聞いてみて、ヤツがどんな理由で仲間を犠牲にしているのかを早く知りたい気もあった。
が、あと2時間もしないうちにたどり着くだろう結末のことも気になる。
束の間の迷いは、すぐに吹っ切れた。
彼は口を固く閉ざし、彼の後を早足に追って行った。




