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 5

 ベイカーが少し崖上を見てくる、と左の笹原を上って行ったので、サンライズたちはその場に座って休憩に入った。

 メントスたちと別れてから1時間は経っていた。


 ギガンテは胸ポケットから汚いメモ帳とちびた鉛筆を出した。

 何をするのかと思って見ていると、

「今日のおさらい」とうそぶいて鉛筆の先を舐めている。


 今回合宿に参加しているリーダー全員の名前と班のナンバーを控えてあるのだそうだ、そのページを開き、すでに『脱落』したヤツらの名前を消し始めた。


「01がまず、ユニコーン……ヘナチョコ、02がこれは大きい」


 サンライズは身体を休めるために、端に寄って仰向けに寝転び、ヘルメットを顔にかぶった。ギガンテの声が響く。


「ノルトゼー、チャプマン、と。03がエレメント。01は残り4人に、02は3人か、で03も4人残ってる、オレたちは一応まだ6人……案外、行けるかもな」

「どうだろう、前々回の時は最後一人しか残らなかったチームがゴールしたぞ」

 ホークが訊ねると、ギガンテが思い出すような口調で答えている。

「ああ……前々回か、荒れたらしいな。オレは運悪く出なかったが。あれは、確かタートルが一人勝ちだったな」


 サンライズは、タートルという名前を聞いてぴくっと反応した。


「アイツはムチャクチャだったよなあ」

 ホークの口調には、すでに故人になったかのような、懐かしむような響きがあった。


 タートル改め、総務のカスガヒロミツ……まだヤツは戦っている、一人で。


 特務には戻れない、そう言いながらも、やっかいな病魔に侵されながらもまだカイシャから逃げ出さずに己の職務を忠実に全うしているのだ。


 それを知っているサンライズは口を挟もうかと起きかけたが、やめておいた。

 マッチョな世界が唯一と思ってる連中には、どう説明していいのかよく分からない。


「なんでオマエ、リーダーに立候補しなかったんだよ」

 今度はギガンテ、ホークに向かって言っていた。

「何でって……オレもう前回一度やったし」

 面倒くせえんだよ、まとめんの、そうホークは言って笑った。

「オレだって前回やったけど、別にそう面倒でもなかったぜ」

「オマエはどんどんなぎ倒すだけだからさあ、何も考えずに行けるからラクなんだよ」

「間違えて仲間も撃って減点されちまったけどよ」

 はははは、と笑っている。

 はははは、サンライズも心の中でかわき気味に笑ってみる。


「それよか、あのベイカーどう思う?」

 急にギガンテが声をひそめた。


「本部の特務6年だって? 聞いたことないぜ、それにここ来る前はどこの部署にいたんだ」

「オレは少しは聞いたことある」

 ホークはのんびりした口調は変えなかったが、やはり少しだけ声を落とした。

「主に政府間交渉で裏取引が発生する時に動いていたらしい、ホワイトカラーなんだよ、元々が」

「合わねえはずだよな、オレらガテン系とは」

「オマエとオレと一緒にするな」

 ホークは別に怒った様子もない。淡々と続けている。

「まあ、オレにも縁がないけどな。そういうシゴトは。次にいたのも開発部らしいし」


 能力の件で開発部に何かと呼びつけられるサンライズ、またしても耳がダンボになる。


「開発部? だからあんなに薄気味悪いのか」

 開発の評判はどのリーダーにもあまりよくないらしい。

「あそこの部署のヤツら、何やってんのかよく分かんねえよな……」

 それにしてもどうしてリーダーなんて買って出たのか、とブツブツ言っている。


 サンライズにはどうでもいいことだったが、開発にいた、という点が何となく気にはなった。

 それならば、彼がよく世話になっている(というか悩まされている)開発部の水城などは、ベイカーのことについて少しは知っているのだろうか?

 水城さとみは開発部の(表立っては言われていなかったが)『特殊能力班』主任を任されていて、特にサンライズの能力開発について関わっている女性だった。

 いつも断定的でサバサバした物言い、サンライズの個人調書も読んでいて、能力開発のためにはかなり突っ込んだ個人情報にまで踏み込んでくるような研究肌だった。

 しかし、ある意味『公平』な部分も多く、彼を『一つの人格をもつ人間』として扱わない研究者……ミノルのような奴には容赦がなかった。

 しかし、少しは頼りになるかもしれない、という水城にだって今更、ベイカーについて教えてほしくとも連絡の取りようがない。


 ベイカーの最初の打合せの時の視線を思い出してみた。

 そうだ、あれは確かに何かを探ろうとする目だった。

 それに、あの白い建物のイメージにも違和感を覚える。

 個人的な出来事のイメージなのか、シゴトに関する場所なのか、付随する空気感のようなものが、どことなく薄暗い。


 やはりもう一度、まともにスキャンを試すべきなのかも知れない。


 朝方の爆発事件も気になると言えばなった。疑い出せばキリがない。

 しかし今回は仮にも味方だし、しかも自分のリーダーでもある。

 とりあえずは合宿が終わるまでは様子をみていてもいいだろうか。

 後からゆっくりと水城にでも聞いてみよう。


 とにかく頭の痛くなることはしたくなかった。

 それでなくても神経を張り詰めているのに。


 彼は大きく息を吐いて、ヘルメットを目の上にかぶせなおした。


 ベイカーが薮をこいで戻ってきた。

「移動だ、今からP‐0825までは休憩なしで行く、3時間かかるから覚悟してくれ」

 ふん、という感じでギガンテが立ち上がる。

 ホークはまじめに「了解」と答えた。

 サンライズも続いて立ち上がった。


 歩き出して5分もしないうちに、全員の通信機が震えた。

 隊はぴたりと足を止める。

「どこだ?」

 小さな赤いLEDの文字が流れるのをみな黙って読んでいたが、ついにギガンテが小さく、しかし強い口調で吐き捨てた。「くそったれ」


 04班メントスとヤルタの双方が死亡。03班レイジーボーンズ軽傷、とあった。


「野蛮人どもに襲われたんだ、アイツらは始まる前に言ってたからな……復讐は必ず果たす、ってさ」 ギガンテがぺっと唾を吐いた。

 ホークも渋い顔をしている。

「あの場所、どうしてバレたんだろう? かなり分かりにくいはずなのに」

「オレたちも追われるかも知れん」

 ベイカーが言った。

「ヤルタを尋問したかも……」

「尋問? どうやって?」

 サンライズ、それも初耳だった。

 仲間どうしで尋問だって?

 交渉なら分かる。今度、昼おごるから教えてくれよ、アンタの本隊は今どこにいる?

「尋問は……それは個人のノウハウだからね」

 ベイカーが前を見たまま、当たり前のように言った。

「野蛮人どもには、野蛮人どものやり方があるだろうな」


 やっぱり、ケビョウを使ってでも合宿をやめとくべきだった。


「宿泊ポイントをずらす。P‐0946に移動、更に30分余分にかかるが、休憩なし」

「了解」

 奇跡的に、残り三人の声が揃った。

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